著者
牧野 友紀 石田 志子 藤田 愛
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.563-569, 2012-01

本研究の目的は,小中学生を対象とする月刊少女向けコミックのなかで描かれている恋愛と性に関連する言語やシーンについて分析し,コミックというメディアの現状を知ることである。研究対象は年間発行部数が多い月刊少女向けコミック4冊とした。結果,64作品中恋愛を取り扱っているものが34作品であり,そのなかで恋愛や性に関する言語517個が抽出された。その内訳は恋愛に関するものが90.9%,性に関するものが9.1%であった。また,性に関連する言語の半数が【好ましくない行為・行動】に分類され,恋愛や性に関するシーンの抽出では,【手から身体】が48.2%で,恋愛に関するシーンが中心であり,性的なシーンは含まれていなかった。しかし,キスシーンや抱擁シーンでは,男性から女性へという男性主導のシーンがほとんどであった。以上より,少女向けコミックにおける性や恋愛に関する表現には,ジェンダーステレオタイプの表現があることがわかった。メディアの影響力を知り,周りの大人たちが子どもたちのメディアリテラシーを養っていくことが重要である。
著者
牧野 友紀
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.93-103, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
9

本稿の課題は,昭和恐慌期開拓村の形成過程の特質を,入植に携わった指導者の記録を読解することによって明らかにすることである.本稿では,準戦時体制期において再編された村落秩序の理解をめぐって,国家権力の末端に位置する「中堅人物」のあり方に焦点を絞り,その人物の記録と生活史から見た開拓村の形成過程の特質を明らかにしている.再編された村落秩序は,国家の支配秩序にはらむ論理と農民の生活秩序の論理との衝突というモメントを通して実現されている.そうした観点の下で考察した結果,本事例の指導者は,従来の「中堅人物」理解の枠には収まりきらない存在であることが看取された.さらに,従来の農本主義がもちえなかった,国家権力の末端に位置しながら,現実の国策に抗して農民と農村の存在を確保しようと創意工夫する,パターナリズム克服の試みを見て取ることができた.
著者
牧野 友紀
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.5-18, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿の目的は,福島県南相馬市で有機農業の再生に取り組む一人の農民の実践を取り上げ,その生活現実の認識に関して,東日本大震災前と震災後の社会的時間の連続性と差異性に注目して考察を行い,震災後の生活秩序のあり方について検討することである. 福島の農業を取り囲む厳しい現状のもと,避難生活を強いられている農家は,理不尽な生活現実に直面し続けている.居所への帰還とはいっても,ただ単に地理的な居所に帰りそこで消費生活が営めればよいということではなく,農業生産を基軸とする生活が可能でなければならない.避難以前の日常の取戻しは農民や農家にとって至難の業となっている.それでも浜通りの旧警戒区域において,試行錯誤を繰り返しながら,農の営みを組み立て直そうと避難先から通勤して農業を行う人が実在している.本稿ではそうした農民の生活の一端を考察している.また,農家の生活の確保や展開に資するような社会学的知の検討を行っている.考察を通じて,本稿では福島において「食べる」ための農業の再確立が必要であるとの結論を得た.この「食べる」という言葉には二つの意味が込められている.一つは,生産者や消費者,さらには将来世代が農産物を食べるという意味であり,もう一つは農業者が生活する,暮らしていくという意味である.
著者
牧野 友紀
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.9-33, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
参考文献数
14

東北地方太平洋地震および東京電力が起こした福島第一原子力発電所事故は、東北地方の太平洋岸の農山漁村に広大かつ甚大な被害をもたらした。農村社会の縮小という日本社会の転換期に、毀損した生業を復活させ、家の継承や村の生活協同関係を保持していくことは至難の業であるといわざるを得ない。住民に「村おさめ」を強制することなく、そうした生業と生活の体系を取戻していくことは、いかにして可能なのだろうか。本稿はこうした問題意識のもと、福島県沿岸地域の被災農村で、グリーン・ツーリズムを手がかりとして農のある生活を再生させようと奮闘している農村女性たちの活動に焦点を当てインタビュー調査を実施し、考察を行った。 その結果以下のことが明らかとなった。原発事故によって商品としての農村空間が毀損され、農家民宿としての機能が果たせない状況の中で、女性たちは、宿泊先を確保できない「よそ者」たちに対して、宿としての原初的なサービスを以って懸命に応対した。こうした行動がきっかけとなり、南相馬の農家民宿は、震災と原発事故の復興に関わる人々の後方支援のベースとして新たな機能を持つことになる。彼女たちは復興支援の宿主としての役割を果たしつつ、グリーン・ツーリズムの再生に取り組み、南相馬の住民たちを巻き込みながら藍の特産品作りに励んでいる。こうした工芸作物による地域の再興は、これまで過去の農家が行ってきたことを新たな形で復活させる試みであるといえ、自らの地域が保持すべき「農村らしさ」の実践として理解することができる。