著者
安田 知子 牧門 武善
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E0343-E0343, 2008

【目的】近年競技の低年齢化が進むと同時にスポーツ傷害への認識も高まっている。最近では心臓震盪に対する予防策として胸部保護パッドの着用が呼びかけられているが、普及率は高くはない。今回、胸部保護パッド着用による競技能力の低下への不安が普及率低迷の一因ではないかと仮定し、競技能力について検討したので考察を加え報告する。<BR>【方法】対象は、沖縄県内の少年野球チームで指導者が胸部保護パッドの着用に関心を持っている2チーム44名とした。学年は1~6年生、身長137.3±10.6(115~160)cm、体重32.4±8.8(19~55)kgであった。競技能力の計測は、遠投とベースランニング(23×4塁間)とし、ミズノ社製胸部保護パッドを使用して、着用時と非着用時にそれぞれ1回、ランダムに実施した。統計処理は、JSTATを用いstudentのt検定を行った。<BR>【結果】遠投では、胸部保護パッドの着用時の投球距離は38.5±10.8(最高63.6、最低14.3)m、非着用時は38.8±10.3(最高58.0、最低16.4)mであり、両者間に有意な差は見られなかった。ベースランニングは、着用時の計測時間は19.70±1.8(最高16.00、最低23.68)秒であり、非着用時は20.1±2.1(最高16.34、最低24.32)秒であり、両者間に有意な差が見られた。<BR>【考察】心臓震盪は、2007年は10月末現在全国で4件(内3件が野球)発生し、2件が命を落としている。日本高等学校野球連盟は、「中学生の練習参加に対する安全対策」通知文の中でも胸部保護パッドの積極的な着用を呼びかけている。沖縄県理学療法士会では、沖縄県高校野球連盟が主催する大会の本部医務活動を支援しているが、平成19年度秋季大会において胸部保護パッドを使用しているチームはなく、少なくとも沖縄県内においては普及率が低い。今回、競技能力の低下への懸念が胸部保護パッドの普及率が低い原因と仮定し検討を行った。遠投距離では、胸部保護パッドの着用と非着用に有意な差はなく、投球に与える影響はないものと考えられた。ベースランニングでは、着用時と非着用時の計測時間に有意な差は見られたものの、その差は0.6±0.4秒であり、同様に総力に与える影響は少ないものと考えられた。今回行った投球動作およびランニング動作に、選手自身は使用感の問題は訴えなかった。さらに、バッティング時や試合時着用の使用感にも選手からの競技時に問題となる指摘はなかった。今回、実際に使用することで、指導者らはバッティング時に使用される脛当てや肘当てと同様に習慣化により競技時に問題を与えないという印象を持ったとしている。今回の結果から胸部保護パッドは少なくとも協議に支障を与えるものではなく、むしろ子供たちの安全に寄与するという面においては着用が望ましいものと考えられ、普及していくことが望ましいものと考える。<BR>
著者
安田 知子 小嶺 衛 牧門 武善 座波 信司 城間 定治 仲西 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1465, 2011

【目的】当県体育協会スポーツ医・科学委員会では、競技力向上を目的にメンタルトレーニング、フィジカル・コンディショニング(健康管理)サポート、栄養管理を3本柱としたスポーツ医・科学サポートプログラムを実施している。平成22年夏に沖縄県にて開催された平成22年度全国高等学校総合体育大会(通称、美ら島沖縄総体2010)において、我々は、県理学療法士会の協力を得て強化指定校に対して健康管理サポート(以下、活動)を提供した。この活動を通して、理学療法士のスポーツ分野における職域拡大の可能性の一端について、アンケート調査から分析したので報告する。<BR><BR>【方法】美ら島沖縄総体の出場のために県競技力推進本部より強化指定を受けている学校の中で、トレーナーによる健康管理サポートを希望した6競技7校に対し活動を行った。これに参加した理学療法士50名に対し、選択及び記述式回答のアンケート調査を無記名にて行なった。<BR><BR>【説明と同意】アンケート調査の目的に今回の活動に対する自己評価と今後の活動に対する意欲を調査すること、個人を特定しないように配慮した集計結果を体育協会関連の報告書及び各種学会に報告することを明記した。この旨に同意した者が回答した。<BR><BR>【結果】回答は、50名中41名(男性20名、女性21名)、回収率80%であった。内訳は、未婚18(男:女 5:12)名、既婚21(14:7)名であった。経験年数は、2~5年24名、6~10年6名、11~20年5名、21年以上が4名であった。今回の活動の充実感を5段階評価してもらったところ、3ほぼ満足~5満足が21名、1不満~2やや不満が20名であった。総合的な技量では、3ほぼ満足~4やや満足までが7名、1不満が25名、2やや不満が8名であった。具体的な技術の満足度あるいは不満度の高いものを複数選択する項目では、満足度が高い順にストレッチ79%(回答者33名)、マッサージ55%(31名)、運動指導35%(37名)、テーピング17%(35名)であった。次いで、協力の動機について選択式複数回答を求めたところ、全回答数132件のうち最も多かったのはスポーツ外傷や障害に興味があった35件(27%)、次いで理学療法士養成校への進学時にスポーツ関連の仕事に興味があった27件(20%)、卒業時にスポーツ関連の仕事を希望した15件(11%)であった。活動時間は、診療後や休日であった。1回の練習時サポートは、1~3時間程度であったが、試合では競技によっては10時間以上の拘束を余儀なくされるものもあった。また、今回の活動は、今後の展開も視野に入れ受益者負担を原則とした(但し今回は、県の強化関連の費用から捻出された)。そのため、報償金についても質問した。報償金(時給1000円)と交通費(1回1000円)の支払いは、今回も今後もほぼ妥当な金額とされた。今後の協力は18名が可能であるとした。<BR><BR>【考察】今回の活動は、我々が全員理学療法士であるという背景もあいまって、県理学療法士会の全面的な協力を得ることができた。参加者の半数は女性であり、その1/3が既婚者であったことや経験年数が20年を越える者の参加は、当初の予想と反しており、人材確保の面から今後の活動発展への期待を抱かせる結果と思われる。しかし、活動の充実感や技量の満足度は低く、健康管理や競技特性に合わせての外傷後管理や予防の難しさを示す結果ではないかと考える。また、参加者の理学療法士としての経験が浅いことも一つの要因と考えられる。参加動機からは、理学療法士のスポーツ医学への関心の高さを示す一方で、美ら島総体を一県民としてサポートしたいという意識も働いていたものと考える。また、サポート活動時間の確保は、通常は業務に支障のない範囲で行われていたが、大会は平日であったため有給休暇などが利用されていた。365日稼働施設の勤務調整なども含め、副業としての時間の確保は、サポート期間が長期にわたるほど家庭生活への影響が懸念された。今回のスポーツ医・科学サポートプログラムは、報酬の発生により責任と価値を高めていくことを意図した。その点について県理学療法士会にも説明をした上で、限られた予算の中から報償金を支払った。これを大方が必要な経費であるとしたことは、端なるボランティアではなく、職業意識の表れとして捉えている。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】競技、レクリエーションに関わらず、スポーツの日常生活の範疇を超えた身体操作能力は外傷と背中合わせである。理学療法が予防医学であり、自らの身体を操作する能力を高めていくプロフェッショナルであるとすれば、病院内での外傷後の治療に留まらず、健康管理も含めたこの分野での職域拡大は必至である。しかし、多くの問題点もあり、整理し体系化していくことが職域拡大に繋がるものと考える。