著者
日本小児歯科学会医療委員会 品川 光春 田中 光郎 犬塚 勝昭 大原 裕 國本 洋志 鈴木 広幸 福本 敏 藤居 弘通
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.397-408, 2010-06-25 (Released:2015-03-12)
参考文献数
42
被引用文献数
2

低年齢児の診療導入に関する実態調査をするために,小児歯科専門医である日本小児歯科学会の役員117 名にアンケート調査を行った。その結果,56 名(47.9%)から回答があり,低年齢児434 名について検討したところ以下のような結果を得た。1 .医療機関選択の理由は,専門医だから33.2%,他医からの紹介32.3%,知人家族等の紹介31.3%の順に多く,地域での小児歯科専門医の役割を示している。2 .保護者の希望は,多少の泣き嫌がりは仕方ない50.7%,泣き嫌がってもしてほしい44.7%,泣き嫌がる時はやめたいは4.6%であった。3 .保護者の69.8%が診療開始から終了まで入室を希望していた。4 .診療中の子どもの反応は,泣き動くため抑制34.6%,おりこう31.6%,泣き動きそうだがおとなしくできる19.1%,泣き動くが抑制せずに何とかできる14.7%であった。5 .術者の対応は,必要な対応法を取りながら計画治療を実施が71.9%で最も多かった。6 .診療に要したスタッフ数は,子どもの年齢の増加とともに減少し,平均人数は2.7 名であった。7 .診療の所要時間は,4 歳児が最も長く42.8 分で,平均38.6 分であった。また,泣き動くために抑制の方が,おりこうの場合より所要時間が長かった。8 .小児歯科専門医としての診療の説明および診療の評価は,ほとんどが良好であり,小児歯科専門医を受診した患者の満足度が高いことが示された。
著者
塩野 幸一 伊藤 学而 犬塚 勝昭 埴原 和郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.259-268, 1982-07-15 (Released:2008-02-26)
参考文献数
9
被引用文献数
5 3

多くの歯科疾患に共通する病因として,歯と顎骨の大きさの不調和(discrepancy)の問題があることが INOUE(1980)によって指摘されている。この discrepancy の頻度は,HANIHARAetal.(1980)によれば,後期縄文時代人では8.9%こ過ぎなかったが,中世時代人で32.0%と増加し,現代人にいたっては63.1%の高率を示すという。ITO(1980)は日本人古人骨を対象として個体における discrepancy の大きさを計測し,その平均値が後期縄文時代人では+7.7mm であったものが,現代人においては-2.6mm となっていることを示し,また(+)側から(-)側へうつった時期は鎌倉時代以前であるとしている。Discrepancy はヒトの咬合の小進化の表現と考えられ,具体的には顎骨の退化が歯のそれよりも先行することによると考えられている。そのため顎顔面形態の変化の経過を明らかにすることが,discrepancy の成立と増大の過程を知るためには特に重要である。このような観点から KAMEGAI(1980)は,中世時代人の顎顔面形態の計測を行い,この時代の上下顎骨が現代人におけるよりも大きかったことを報告している。本研究は,discrepancy の増大してきた過程を知るために,顎顔面の時代的な推移を調査したものの一部であって,とくに後期縄文時代に関するものである。資料は,東京大学総合研究資料館所蔵の後期縄文時代人頭骨327体のうち,比較的保存状態がよく,生前の咬合状態の再現が可能な16体を使用した。これを歯科矯正学領域で用いられている側貌頭部X線規格写真計測法により分析し,KAMEGAI etal.(1980)による鎌倉および室町時代人と,SEINo et al.(1980)による現代人についての結果と比較した。顔面頭蓋の大きさ,上顎骨の前後径,上下顎骨の前後的位置には後期縄文時代人と現代人との間にほとんど差がなかった。しかし,顎骨骨体部の変化が著しくないにもかかわらず,現代人においては歯槽基底部の長径の短縮が認められた。後期縄文時代人の下顎骨は現代人に比較すると非常によく発達していて,とくに下顎枝,下顎体は現代人より大きく,また顎角も現代人より小さかった。このことは,後期縄文時代では咀嚼筋の機能が大であったことを示唆するものと考えられ,逆に,現代人における下顎骨の縮小は,食生態の変化に伴う咀嚼機能の低下によるものと思われる。上下顎前歯については後期縄文時代人では鎌倉時代人や現代人と比べて著しく直立しており,一方,現代人では著明な唇側傾斜が認められた。このことは上下顎歯槽基底部の前後的な縮小と関連するものと思われる。結論的には後期縄文時代の,まだあまり退化の進んでいない顎顔面形態は,頻度8.9%,平均値+7.7mm という discrepancy の小さかったことを表す値とよく一致するものと思われる。