著者
猪本 修 大村 優華
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.5-10, 2020-06-20 (Released:2020-06-17)
参考文献数
6
被引用文献数
2

音の物理的特性は大きさ,高さ,音色の三要素によって特徴づけられる.これらのうち音色は身近のさまざまな楽器や声などの個性や多様性に関わるものであり,音を学ぶ上で欠くことができない重要な要素である.しかしながら中学校理科,高校物理のいずれでも音色についてはほとんど学ぶ機会がないため,音色については分かりやすい教材と指導法が求められる.本研究では,高校物理の教育課程において音色を詳しく扱うにあたって,楽音を構成する倍音成分と波形の関係を述べ,それを効果的に演示するための実験的方法を示した.さらに音色と倍音の関係を調べる対象としてヒトの声に着目した.声の倍音構成を成人116名について調べたところ,第3倍音から第6倍音にかけて性差を反映する特徴が見いだされた.本研究により,音の主要な要素の一つである音色を教材化するには,身近な素材である声を対象とすることが効果的であり,音に対する理解をより豊かなものにできることが示された.
著者
大村 優華 猪本 修
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.17-20, 2019-06-01 (Released:2019-05-29)
被引用文献数
1

中学校理科における音の単元で,音色を授業で扱うための実験教材の開発について検討をおこなった.現行の学習指導要領では,中学校1年次において音による現象という単元を学習する.そこでは音の伝わり方や,音の3要素である音の大きさ,高さ,音色があることを学習する.音の3要素のうち大きさと,高さについては実験活動を通して理解ができるような授業が展開されることが多いが,音色に着目した授業はあまりなされていない.音色を波形から読み取ることが難しいなどの理由から音色に関する実験活動が乏しいのが現状である.そこで,音色について分かりやすく効果的に授業で扱えるような,複数の音叉を用いた実験教材の開発をすることにした.純音からなる音叉の音を複数個同時に鳴らすことによって,音色を形成する要因である倍音列を人工的に作り出すことが可能となる.これにより段階的に響きと波形の変化を学ぶことができるため,音色の理解が深まることが考えられる.また,本手法により単純な構成の波形をとる楽器の音色を再現することができる.
著者
甲斐 昌一 猪本 修
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

脳における情報処理過程、特に知覚や認知といった脳の高次機能にも確率共鳴同様のノイズ効果があると予想されるが、実験系の確立が困難であるために、高次機能におけるノイズの役割はほとんど分かっていない。それを明らかにするのが本研究の目的である。そのため本研究では、平成19年度に引き続き、知覚・認知における確率同期の存在を明確にするとともに、そのまとめを行った。平成19年度に確立された位相ロック値(PLV)の定義、ならびにパターン相似度の定義を使って、脳波を国際10-20法によるα波ならびにγ波に焦点を絞った全頭ならびに前頭-後頭間の引き込み特性として視覚化した。これによれば視覚刺激(顔刺激、図形刺激)がα波の位相同期を誘起し、特に顔刺激では前頭部の皮質間で相互に強く同期することが分かった。すなわち刺激提示後100-200msを中心に前頭部で最も同期し、またそれが刺激の性質に依存することが明らかになった。この同期はおおよそ100〜200msしか続かず、次第に各部位で脱同期が起こる。その様子を表すのがパターン相似度で、それは無刺激時との相似性を表す。この手法では、その時間変化で、最も相似度が小さくなるときに、認識が行われたことを確認した。全域で同期がそのパターン相似度とこれまで使用されてきた事象関連電位(ERP)と比較した結果、パターン相似度がα波領域で格段に優れた認識判定指標であった。さらにパターン相似度を前頭部と後頭部とに分けて局所表示すると、視覚に与えられた刺激が図形の場合と顔の場合では、その前頭部でのパターン相似度の時間変化に大きな相違が見られ、刺激の識別が可能であることが明らかとなった。この成果をもとに視覚刺激にノイズを重ねると、最大で20ミリ秒程度、認識速度が上昇することが分かった。つまり適切なノイズの存在が認識を早めると結論された。