著者
玉井 隆
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.28-41, 2021-03-16 (Released:2021-03-16)
参考文献数
52

本稿は、ナイジェリアにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まる2020年2月から、本稿執筆時である2020年10月を対象として、政府がどのようにCOVID-19に対応したのか、またそれが実施される現場において、人びとはなぜ、どのように暴力の被害を受けたのかを検討する。ナイジェリア政府はこれまでさまざまな感染症対策を経験しており、COVID-19の流行への対応にそれが十分に活かされていた。先行研究はそうした過去の経験の重要性を指摘し、政府がWHOの推奨する施策を適切に行なった結果、COVID-19の被害が当初の想定よりも少なかったことを肯定的に評価している。しかし本稿は、ナイジェリア政府がCOVID-19の感染拡大を抑止するためのロックダウンを実施したことで、国家の治安機関が暴力を行使する契機を増加させていると指摘する。社会的に脆弱な人びとの生活を考慮しないロックダウンは、COVID-19の世界的な感染拡大阻止という大義名分と正当化のもとで、ナイジェリア国家権力による暴力を拡大させている。
著者
玉井 隆
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.1-14, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
31

本論は、ナイジェリア政治に対して失望する若者について描くことを目的とする。具体的には警察部隊のひとつである対強盗特殊部隊による、市民に対する暴力への抗議運動(End SARS)と、2023年の大統領選挙における、ピーター・オビ候補支持者(Obidient)による運動に関わる2人の若者の経験を検討する。彼らは、End SARS運動やObidient 運動を通して、多くの若者が国家に対する構造的な変化を求めたり期待したりする最中で、それが適うはずがないと考えていた。既存の研究はこれらの運動について、若者による民族・宗教・地域に必ずしも捉われない市民的価値を共有した政治的活動の現れとして肯定的に評価している。しかし本稿は事例検討を踏まえ、機能不全となった国家の構造は変わることはなく、また腐敗権力が作動する暴力と混乱に満ちた日常を生きざるを得ないために、ナイジェリア政治に失望する若者の存在を明らかにする。
著者
玉井 隆
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.28-41, 2021

<p>本稿は、ナイジェリアにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まる2020年2月から、本稿執筆時である2020年10月を対象として、政府がどのようにCOVID-19に対応したのか、またそれが実施される現場において、人びとはなぜ、どのように暴力の被害を受けたのかを検討する。ナイジェリア政府はこれまでさまざまな感染症対策を経験しており、COVID-19の流行への対応にそれが十分に活かされていた。先行研究はそうした過去の経験の重要性を指摘し、政府がWHOの推奨する施策を適切に行なった結果、COVID-19の被害が当初の想定よりも少なかったことを肯定的に評価している。しかし本稿は、ナイジェリア政府がCOVID-19の感染拡大を抑止するためのロックダウンを実施したことで、国家の治安機関が暴力を行使する契機を増加させていると指摘する。社会的に脆弱な人びとの生活を考慮しないロックダウンは、COVID-19の世界的な感染拡大阻止という大義名分と正当化のもとで、ナイジェリア国家権力による暴力を拡大させている。</p>