著者
古西 勇 佐藤 成登志 玉越 敬悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床実習を通して学生は成長する。それは,卒業後の生涯学習の基盤として重要であり,指導者の熱意や寛容さにより多大な支援を得て成し遂げられている。しかし,学生の視点から指導者と施設に対して感じたことを評価する信頼性のある尺度は少ない。本研究の目的は,臨床実習で指導者と施設に対して学生が感じたことを評価するための新たな尺度を開発し,信頼性を検討することである。【方法】対象は,理学療法士養成課程のある地方大学の総合臨床実習を終了した4年生の学生とした。10週間の実習後,翌週にGoogleドライブのフォームを用いて実習後アンケートへの回答を依頼した。「問1 実習中に指導者の先生に対して次のようなことを感じたことがどれくらいありましたか?」「問2 実習施設に対して次のようなことを感じたことがどれくらいありましたか?」の設問の下に,それぞれ9問の質問項目を設けた。回答は,順序尺度(『一度もなかった(1点)』~『常にあった(5点)』の5段階)であてはまるものを選択してもらった。得られたデータから因子分析を行い,抽出された因子ごとにアルファ係数を算出して信頼性を検討した。統計解析には,SPSS Statistics 17.0を用いた。【結果】回答者(n=81)のデータから初回の因子分析を行った。前後の因子間の固有値の差を検討し,因子数を4とした。第4因子までの累積寄与率は71.6%であった。続いての因子分析は主因子法でプロマックス回転により分析した。因子抽出後の共通性に著しく低い項目はなかった。第1因子(7項目)は「話しを聴いてくれる」「安心させてくれる」「楽しいと感じさせてくれる」など指導者の包容力を反映していると解釈できる。第2因子(6項目)は「リハビリテーション部門の体制が整っている」「職員の教育・研修の体制が整備されている」など組織や体制の魅力を反映していると解釈できる。第3因子(3項目)は「時間の使い方の指導を受けたことがあった」「日々の目標に関して助言を受けたことがあった」など指導者の教育的配慮を反映していると解釈できる。第4因子(2項目)は在宅ケアと退院後の療養環境の調整に関することが行なわれているという地域包括性を反映していると解釈できる。各因子の項目のCronbachのアルファは第1因子(包容力)で0.896,第2因子(組織や体制の魅力)で0.883,第3因子(教育的配慮)で0.764,第4因子(地域包括性)で0.889と,高い信頼性を示した。今回の対象者について,項目平均値で各因子の下位尺度得点を算出したところ,平均値の降順で第2因子(3.99±0.71),第1因子(3.98±0.78),第4因子(3.75±0.87),第3因子(3.25±0.88)であった。【結論】学生の視点から指導者と施設に対して感じたことを評価する尺度を開発し,高い信頼性が得られた。各因子の下位尺度得点の高い群と低い群で他の得点を比較して実用性を検討するなど,さらなる研究が必要と考える。