著者
牧野 耕次 比嘉 勇人 甘佐 京子 山下 真裕子 松本 行弘 山本 佳代子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

境界とは、二つ以上のものを区切る時のさかい(境)となるものであり、人間に関しては、身体的、心理的、社会的、霊(スピリチュアル)的境界があると言われている。本研究では、精神科における看護師の境界の調整に関する技術的要素を抽出し、その技術をどのように獲得してきたのかを明らかにした。さらに、総合病院の患者-看護師関係における境界概念に関するモデルを抽出した。
著者
牧野 耕次 比嘉 勇人 山本 佳代子 甘佐 京子 山下 真裕子 松本 行弘
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.10, pp.101-108, 2012-03

背景 看護におけるinvolvement (かかわり) は患者との関係を構築し患者のニーズに沿った看護を行う上で重要な概念である。他方、involvementの他の訳語である「巻き込まれ」は、患者との関係においてストレスになることが示唆され、問題として警告されてきた。involvementは我が国においてなじみのない概念であり一つの概念としてほとんど認識されてはおらず、両価的な評価をそれぞれ反映し、かかわりと「巻き込まれ」として認識されていると言える。 看護におけるinvolvementを概念として理解せず、かかわりの技術 (skill) を修得しないまま臨床で働く看護師は、巻き込まれすぎて精神的に落ち込んだり、患者に近づけず、深くかかわることができなかったりするなどの問題に直面した時に、振り返って解決する糸口を見つけにくいと考えられる。 目的 看護におけるかかわり (involvement) を意識化し、適度な距離を持って患者とかかわることができるようになることを目指した「看護におけるかかわり研修」を看護師に実施し、その効果を検討する。 方法 関西圏の700床以上の総合病院に勤務する看護師23名を対象に、看護におけるかかわり研修を実施し、その前後のOver-involvement尺度 (OIS) およびUnder-involvement尺度 (UIS) を測定し、前後の因子および尺度得点を比較した。 結果 研修終了約1ヵ月後に、OIS高群の得点合計が49点 (P=0.027) 、因子「被影響性」の得点合計が20点 (P=0.027) 、さらに因子「気がかり」の得点合計が20点 (P=.020) と有意に低下した。同様に、UIS高群の因子「不関与」が13点 (P=0.047) 低下し、さらにUIS低群の因子「不関与」が11点 (P=0.026) 、有意に増加した。 結論 本研修がover-involvementの傾向をより強く示す対象者に対して、選択的にその傾向を緩和する可能性が示唆された。また、患者との心理的距離を近づけることがより難しい対象者に関して、患者の内的世界にかかわろうとしない傾向が緩和されたことが示唆された。さらに、患者との心理的距離を近づけることに、より困難を覚えていない対象者について、患者の内的世界にかかわり過ぎる傾向が緩和されたと推察できる。
著者
甘佐 京子 長江 美代子 土田 幸子 山下 真裕子
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.9, pp.99-105, 2011-03

背景 精神疾患,なかでも統合失調症については,精神病未治療期間(以後DUP : duration of untreatedpsychosis)が長いほど回復までに時間を要し,再発率も高いといわれている。そこで, DUPを少しでも短縮し,早期に医療に繋げていくこと(早期介入)が重要である。統合失調症の前駆症状(暴力・攻撃性・強迫症状・抑うつ等)は,好発年齢とされる10代後半から20代前半より,さらに2~4年前に出現すると言われており,日本では中学生の時期にあたる。中学校おいて,こうした前駆症状はしばしば問題行動ととらえられるが,早期の医療的介入が必要である。 目的 精神疾患が疑われる生徒に対し,学校現場ではどのような対応がなされているのか。その現状と,早期介入に向けての課題について検討する。 方法 1)研究参加者 : A県内において中学校養護教諭の経験のある女性4名。 2) 方法 : 面接は半構成面接とし「生徒に見られる問題行動」,「問題行動を呈する生徒に対する対応」,「養護教諭の役割」および,「対応する上で障害となるもの」などについてインタビューを実施。 3 )分析方法 : 質的記述的分析。 結果 養護教諭の語りから抽出された問題行動には,統合失調症の前駆症状と共通する,「攻撃的な態度・暴言」「過度の自己アピール」「集中力の無さ」「落ち着きの無さ」や,より病的な「強迫的行動」や「目つきの変化」「不可解な行動」が見られた。養護教諭は,それが病的なものか,発達上の問題なのか,正常な域での反抗なのかの判断に迷っていた。また,独自で対応する場合と,担任をはじめとする学校内で組織的に対応・判断する場合があった。対応する上で問題になることとしては「保護者との関係」があり,「保護者の思い・考え」を優先しなければならなかった。また,家族以外の要因としては,教員間の連携,中でも「担任教員との関係」「教員の理解(知識)の無さ」や,組織内で「養護教諭に対する理解の不足」があった。 結論 学校現場において問題行動は増加しており,その対応には養護教諭のみならず全教員が苦慮していることが伺える。精神疾患に対する偏見は根深いものがあり,保護者・教員ともに正しい知識を持つことが必要である。早期介入を行うためには,養護教諭を中心として,問題行動を呈する生徒に対応するシステムを構築する必要がある。
著者
甘佐 京子 比嘉 勇人 長江 美代子 牧野 耕次 田中 知佳 松本 行弘
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.7, pp.73-79, 2009-03

背景 精神疾患の多くは、思春期から青年期に発症するといわれている。精神障害に罹患した場合、早期受診・早期治療が重要であり、統合失調症においては精神病未治療期間 (duration of untreated psychosis) が予後を左右するとの報告もある。しかし、国内では、好発年齢にある時期の子ども達に向けての、啓蒙活動の実施やその成果についての報告は見られず、中学校の保健体育などでも精神障害についてはほとんど触れられていないのが現状である。 目的 中学生を対象にしたメンタルヘルス教育プログラムを構築するにあたり、中学生の精神障害に対する認識を明らかにすることを目的とする。方法 研究デザインは量的記述的研究であり、A市内の公立中学校(6校)の三年生714名を対象にアンケート調査を実施した。調査内容は、精神障害に対する知識の情報源となる媒体や疾患に対する具体的な認識および、「こころの病気」という語彙に対するイメージである。分析にはSPSS15.0J for windowsを使用し記述的統計を行った。なお、本研究は滋賀県立大学研究倫理審査委員会の承認を得た(07年11月第51号)。 結果 回答者は653名(男子316名、女子337名)。精神疾患について他者から聞いたことがあるかという問いでは、68%の生徒があると回答した。聞いた相手として中学校教諭28.9%と最も多く、次いで小学生教諭20.4%であった。具体的な疾患名として、うつ病は約90%の生徒が認知しているのに対して、強迫性障害や統合失調症については病名の認知が5%に満たなかった。これらの知識の情報源となった媒体は、おもにテレビ(68.9%)であり、教科書(5.4%)や授業(9.2%)は、10%に満たなかった。さらに、精神疾患のイメージは否定的な項目に偏る傾向が認められたが、「こわい」「嫌い」等の嫌悪を示すものより「辛い」「寂しい」といった悲哀を示すイメージの方が強かった。 結論 中学生の多くは、精神疾患に対して何らかの情報を持っているが、その多くはテレビ等のマスメディアによるものであり、正しい知識を得ているとは考えづらい。また、うつ病等メディアに取り上げられるものについては、少なからず認識しているが、思春期に発症しやすい統合失調症や強迫性障害などの認識は低く、当然自己との関連が深い疾患だととらえてはいないと推測できる。Background Most mental illnesses are thought to develop during puberty and young adulthood. Early diagnosis and early treatment are important for cases of mental disorders, and the duration of untreated psychosis can influence the prognosis of schizophrenia. In Japan, very few mental illness awareness programs are targeted at children of susceptible ages, and reports of these programs are also lacking. In addition, very little is taught about mental disorders in middle school health and physical education curr icula. Objective In order to create a mental health education curriculum for middle school students, we aimed to understand the awareness of mental disorders in these students. Methodology We employed a quantitative and descriptive study design, and surveyed 714 ninth graders from 6 public schools in city A by questionnaire. We surveyed their knowledge of specific conditions, their sources for information regarding mental disorders, and their image of the phrase "mental illness ." Descriptive statistical analysis was performed using SPSS15.0J for Windows. Our study was approved by the University of Shiga Prefecture Research Ethics Review Committee (November, 2007, No.51). Results Of the 653 respondents, 316 were male and 337 were female. Sixty-eight percent of the students had heard of mental illnesses , most often from middle school teachers (28.9%) followed by elementary school teachers (20.4%). In contrast to the 90% who knew depression as the name of a specific disorder, less than 5% knew the names of disorders such as obsessivecompulsive disorder and schizophrenia. Television was the cited source of this information for 68.9%, while less than 10% identified text books (5.4%) and classroom education (9.2%) as the source. Although the image of mental illness was usually negative, the respondents tended to characterize mental illness with terms expressing sorrow, such as "struggle" and "lonely" rather than those expressing aversion, such as "scary" and "dislike." Conclusion The majority of middle school students have some knowledge of mental illness, but most of it is obtained from mass media, such as television. As such, it is unlikely that their obtained knowledge is accurate. Although they are relatively aware of conditions such as depression which are dealt with by the media, they are much less aware of conditions such as schizophrenia and obsessive-compulsive disorder, which easily develop during puberty. We surmise, therefore, that the students do not consider these conditions to be highly relevant to them.