著者
Horie Hitoshi Yamada Akira
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.39-47, 2008-03-31

Background It is known that the attenuated polio vaccine viruses derived from oral poliovirus vaccine undergo neurovirulent reversion during repeated replication in the human alimentary tract, and some paralytic cases caused by the revertants have been reported. Furthermore, the revertants are excreted with the feces into the environment, and the viruses have caused new epidemics of poliomyelitis in the world. It is an obstacle for the achievement of polio eradication program. Objective In this study, to elucidate the reversion mechanism of polio vaccine virus to the neurovirulent genotype in the human alimentary tract, an accumulation of the reversion of the vaccine viruses passaged in cultivation cells which were derived from the human alimentary tract was analyzed. Methods Polio vaccine viruses were passaged three times in Caco-2 cells derived from human colon carcinoma. The reversion of the passaged viruses was analyzed by the MAPREC method designated to estimate the ratio of revertants in a virus population. Results The accumulation of reversion in the vaccine viruses increased rapidly with viruses passaged at a temperature of 37℃ compared with those at 34℃. However, it was hardly observed in viruses passaged in HEp-2 cells which were derived from human laryngeal carcinoma at a temperature of 37℃. Conclusion A large difference was observed in the frequency of reversion between Caco-2 and HEp-2 cells though both cells were derived from human carcinoma. It is important to elucidate the cellular factors which take part in the reversion frequency of the virus genome. Such research is expected to lead to the elucidation of the reversion mechanism and to the development of a controlling expedient for the neurovirulent reversion of the polio vaccine virus.背景 経口生ポリオワクチンとして使用されている弱毒ポリオワクチンウイルスは、ヒトの消化管において毒力復帰変異を起こし易いことが知られており、そのウイルスが原因と考えられるポリオ(急性灰白髄炎)の発症例も報告されている。更に、その変異ウイルスは、糞便とともに環境中に排泄されることで、世界中でポリオの新たな流行を引き起こしており、ポリオ根絶計画達成の妨げとなっている。目的 本稿では、ヒト消化管におけるポリオワクチンウイルスの毒力復帰変異機構を明らかにすることを目的として、ワクチンウイルスをヒトの消化管由来培養細胞を用いて継代培養し、継代によってどの程度変異ウイルスが出現(蓄積)するか解析を行った。方法 ヒトの大腸ガン由来細胞を用いて37℃あるいは34℃でポリオワクチンウイルスを3代継代培養し、その培養ウイルス池中の毒力復帰変異ウイルスの混入割合(変異ウイルスの蓄積)について、遺伝子レベルでウイルスの神経毒力の強さを測定することができるMAPRECと呼ばれる方法で解析した。結果 継代による毒力復帰変異ウイルスの蓄積は、37℃で培養した方が34℃で培養したときと比べて明らかに高かった。しかしこの変異ウイルスの蓄積は、ヒトの喉頭ガン由来細胞であるHEp-2細胞においてはほとんど観察されなかった。結論 本研究より、細胞の種類や培養温度により毒力復帰変異ウイルスの出現頻度(蓄積の程度)に大きな違いが見られた。今後は、どのような細胞側因子がこの違いに関与しているかを解明することが重要である。そしてそのような研究は、ワクチンウイルスの毒力復帰変異機構の解明と、その抑制手段の開発に結びつくことが期待される。
著者
牧野 耕次 比嘉 勇人 山本 佳代子 甘佐 京子 山下 真裕子 松本 行弘
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.10, pp.101-108, 2012-03

背景 看護におけるinvolvement (かかわり) は患者との関係を構築し患者のニーズに沿った看護を行う上で重要な概念である。他方、involvementの他の訳語である「巻き込まれ」は、患者との関係においてストレスになることが示唆され、問題として警告されてきた。involvementは我が国においてなじみのない概念であり一つの概念としてほとんど認識されてはおらず、両価的な評価をそれぞれ反映し、かかわりと「巻き込まれ」として認識されていると言える。 看護におけるinvolvementを概念として理解せず、かかわりの技術 (skill) を修得しないまま臨床で働く看護師は、巻き込まれすぎて精神的に落ち込んだり、患者に近づけず、深くかかわることができなかったりするなどの問題に直面した時に、振り返って解決する糸口を見つけにくいと考えられる。 目的 看護におけるかかわり (involvement) を意識化し、適度な距離を持って患者とかかわることができるようになることを目指した「看護におけるかかわり研修」を看護師に実施し、その効果を検討する。 方法 関西圏の700床以上の総合病院に勤務する看護師23名を対象に、看護におけるかかわり研修を実施し、その前後のOver-involvement尺度 (OIS) およびUnder-involvement尺度 (UIS) を測定し、前後の因子および尺度得点を比較した。 結果 研修終了約1ヵ月後に、OIS高群の得点合計が49点 (P=0.027) 、因子「被影響性」の得点合計が20点 (P=0.027) 、さらに因子「気がかり」の得点合計が20点 (P=.020) と有意に低下した。同様に、UIS高群の因子「不関与」が13点 (P=0.047) 低下し、さらにUIS低群の因子「不関与」が11点 (P=0.026) 、有意に増加した。 結論 本研修がover-involvementの傾向をより強く示す対象者に対して、選択的にその傾向を緩和する可能性が示唆された。また、患者との心理的距離を近づけることがより難しい対象者に関して、患者の内的世界にかかわろうとしない傾向が緩和されたことが示唆された。さらに、患者との心理的距離を近づけることに、より困難を覚えていない対象者について、患者の内的世界にかかわり過ぎる傾向が緩和されたと推察できる。
著者
伊丹 君和 安田 寿彦 豊田 久美子 石田 英實 久留島 美紀子 藤田 きみゑ 田中 勝之 森脇 克巳
出版者
滋賀県立大学
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.11-21, 2006-03-31
被引用文献数
2

背景 高齢化が進む中で人間の基本的な生活行動に看護支援が必要な人々が増加するとともに、看護者の腰痛も多発する状況にある。前報では、下肢の支持性が低下した人に対する移乗サポートロボットを用いての立ち上がり動作実験を行い、サポートを受ける人の身体負担が少ないロボットの動きについて検証を行った。その結果、深く前傾しロボットに伏臥して立ち上がる方法で筋疲労は比較的低く、胸部や腹部など身体に密着する側に改善を加えれば有効にロボット活用できる可能性が示唆された。研究目的 本研究では前報に引き続き、下肢の支持性が低下した人を対象とした移乗動作実験を行い、看護者が移乗動作をサポートする場合に、サポートを受ける側とサポートする側の両者にとって安全・安楽・自立を考慮した方法について検証することを目的とした。方法 1.対象および研究方法2004年10月、以下の実験および調査を実施した。被験者は、健康な平均的体格の20歳代の女子4名とした。実験は、看護現場で移乗方法として広く用いられている患者の両足の間に看護者の片足を入れて移乗する方法(「中足法」とする)と、前報で比較的有効な移乗サポートロボットであると検証されたロボットの動きに近い患者を前傾にして看護者の背部に乗せて移乗する方法(「背負い法」とする)を取り上げて移乗動作を行った。分析は、表面筋電図測定装置(SX230)を用いて各被験筋について筋積分値を算出して両者の比較を行った。また、同被験者に対して、安全・安楽・自立の観点から主観的反応調査を行った。2.倫理的配慮 対象は研究の趣旨に同意した者のみとし、研究参加に同意した後でも、いつでも辞退可能であること。また、プライバシーの保護についても文書と口頭で伝えた。結果 移乗サポートを受けた患者側の実験・調査結果をみると、中足法を用いた場合では、特に上肢に苦痛を感じており、動作時6秒間の筋積分値を比較しても上肢の筋活動が高いことが明らかとなった。一方、背負い法を用いた場合では、苦痛は比較的感じていないものの安全性・安心感・自立性の面では低値を示していた。また、移乗サポートを行った看護者側の結果では、中足法を用いた場合に腰部への負担が大きく、背負い法を用いた場合に上肢・下肢に負担が大きいことが認められた。結論 以上より、下肢の支持性が低下した人に対する移乗動作では、看護現場で広く行われている中足法はサポートを受ける側とサポートする側の両者において身体的負担は大きいものの、安全性・安心感・自立性の面からは有効であると考えられた。一方、背負い法では身体的負担は比較的低いものの、サポートを受ける患者側の安心感は低いことが明らかとなり、それぞれの移乗法の課題が示唆された。
著者
久留島 美紀子 本田 可奈子 豊田 久美子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.93-96, 2005-03-31

背景 近年、コンピュータの普及により、基礎看護教育において、マルチメディアの導入が盛んに行われるようになっている。我々は、DVカメラとパソコンを使用し、グループ単位で映像を撮影、編集し発表するグループワークを導入するにあたり、その操作方法についての説明会を実施した。目的 説明会・グループワークに関するアンケート調査を実施し、今後の説明会の内容構成の資料とする。方法 本学部一学年の学生62名を対象に、操作方法の説明会を行い、グループワーク終了後、説明会に関するアンケート調査を実施した。得られたデータは統計的に処理した。結果 説明会には33名(54.1%)の参加があった。教員2名で対応したことにより、学生からの質問を受けやすく、また進行状況に合わせての説明となったので、録画、編集ならびに保存の一連の作業を全て行うことができた。アンケートの結果、12名(36.4%)が説明内容を「わかりやすい」、19名(57.6%)が「ややわかりやすい」と回答した。また、説明会がグループワークでの作業に役立ったかについては、「役立った」20名(62.5%)、「やや役立った」12名(37.5%)であった。「あまり役立たなかった」、「役立たなかった」の回答はなかった。結論 説明会の参加者は33名と約半数であったが、学生から積極的な質問が出た。また、アンケート結果より、説明内容のわかりやすさ、グループワークの作業への有効性の両方で高い評価を受け、説明内容が妥当であったことが示された。
著者
甘佐 京子 長江 美代子 土田 幸子 山下 真裕子
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.9, pp.99-105, 2011-03

背景 精神疾患,なかでも統合失調症については,精神病未治療期間(以後DUP : duration of untreatedpsychosis)が長いほど回復までに時間を要し,再発率も高いといわれている。そこで, DUPを少しでも短縮し,早期に医療に繋げていくこと(早期介入)が重要である。統合失調症の前駆症状(暴力・攻撃性・強迫症状・抑うつ等)は,好発年齢とされる10代後半から20代前半より,さらに2~4年前に出現すると言われており,日本では中学生の時期にあたる。中学校おいて,こうした前駆症状はしばしば問題行動ととらえられるが,早期の医療的介入が必要である。 目的 精神疾患が疑われる生徒に対し,学校現場ではどのような対応がなされているのか。その現状と,早期介入に向けての課題について検討する。 方法 1)研究参加者 : A県内において中学校養護教諭の経験のある女性4名。 2) 方法 : 面接は半構成面接とし「生徒に見られる問題行動」,「問題行動を呈する生徒に対する対応」,「養護教諭の役割」および,「対応する上で障害となるもの」などについてインタビューを実施。 3 )分析方法 : 質的記述的分析。 結果 養護教諭の語りから抽出された問題行動には,統合失調症の前駆症状と共通する,「攻撃的な態度・暴言」「過度の自己アピール」「集中力の無さ」「落ち着きの無さ」や,より病的な「強迫的行動」や「目つきの変化」「不可解な行動」が見られた。養護教諭は,それが病的なものか,発達上の問題なのか,正常な域での反抗なのかの判断に迷っていた。また,独自で対応する場合と,担任をはじめとする学校内で組織的に対応・判断する場合があった。対応する上で問題になることとしては「保護者との関係」があり,「保護者の思い・考え」を優先しなければならなかった。また,家族以外の要因としては,教員間の連携,中でも「担任教員との関係」「教員の理解(知識)の無さ」や,組織内で「養護教諭に対する理解の不足」があった。 結論 学校現場において問題行動は増加しており,その対応には養護教諭のみならず全教員が苦慮していることが伺える。精神疾患に対する偏見は根深いものがあり,保護者・教員ともに正しい知識を持つことが必要である。早期介入を行うためには,養護教諭を中心として,問題行動を呈する生徒に対応するシステムを構築する必要がある。
著者
堀井 啓史 横山 由香 河瀬 貴志 牧野 耕次
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.10, pp.117-124, 2012-03-31

背景 男性看護師の就業者は大幅な増加傾向にあり、近年は一般科病棟に配属・希望する男性看護師も増加している。男性看護師としての職場も、選択しやすい環境へと変化しつつあるが、精神科では現在でも他科と比較して男性看護師の割合が高い。精神科において男性看護師は、不穏時対応における「力」を求められ、その役割を少なからず感じ、発揮している。しかし、不穏時対応以外でも、男性看護師は女性とは異なる役割を発揮し担っていると考えられる。 目的 精神科における男性看護師の役割意識とその関連因子を明らかにすることを目的とした。とくに、不穏時対応以外の役割に焦点をあてた。方法 近畿圏の精神病院に勤務する男性看護師10名を対象に、男性看護師の役割意識に関する半構成的面接を行った。逐語録を質的帰納的に分析し、順に下位カテゴリーおよびカテゴリーを抽出した。 結果 分析の結果、精神科における男性看護師の不穏時対応を除いた役割意識として、《男性であることを生かした関わり》《男性看護師としての意識はしない》《女性患者への対応で意識をする》の3カテゴリーが抽出された。また、男性看護師の役割意識に関連した因子として、《使命感としての不穏時対応》《男性看護師のイメージをもっている》《少数派であることに関する思い》の3カテゴリーが抽出された。 考察 男性看護師は日常の看護の中で、或いは業務の中で男性であることを自身の強みとして、行動を起こしていることが分かった。これにより、精神科看護において、男性看護師の役割分担に関する示唆が得られた。さらに、少数派である男性看護師の役割が明確になり、女性看護師と協働していく上での一助となると考えられる。 考察 男性看護師は日常の看護の中で、或いは業務の中で男性であることを自身の強みとして、行動を起こしていることが分かった。これにより、精神科看護において、男性看護師の役割分担に関する示唆が得られた。さらに、少数派である男性看護師の役割が明確になり、女性看護師と協働していく上での一助となると考えられる。 結語 1.《男性であることを生かした関わり》《男性看護師としての意識はしない》《女性患者への対応で意識をする》が、不穏時対応を除いた男性看護師の役割意識のカテゴリーとして抽出された。2.《使命感としての不穏時対応》《少数派であることに関する思い》《男性看護師へのイメージを持っている》が、男性看護師の役割意識の関連因子におけるカテゴリーとして抽出された。
著者
森 敏 Mori Satoru
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.11-20, 2017-03-01

背景 NANDA-I看護診断は、投薬などの医療行為を施さずに、看護のみで改善可能な看護課題(看護の対象となる現象)を抽出するツールである。われわれは先に、「在宅療養者版看護診断」コンピュータシステムの基礎となる、ⅰ)看護診断ラベルの選定(10領域、49診断ラベル)、ⅱ)アセスメントリストの作成、ⅲ)診断を導く関数の考案を行った。 目的 今回、タブレット型コンピュータで動作する「在宅療養者版看護診断」コンピュータプログラムを構築した。 方法 データベースソフトには、FileMaker Pro 15を使用した。あせる面と項目の入力から看護診断ラベルの選定までを自動化した。 結果 アセスメント項目をフィールド名に置き換え、アセスメント項目の有無により診断ラベルが自動選定されるように設計した。フィールド名には使用できない文字・記号が存在するため、アセスメント項目名は一部修正した。また、アセスメント項目と診断ラベルとの重複回避、他項目での代用などの前処理も行った。フィールド定義はアセスメント項目に「1」「0」を割り当て、クリック入力できるようにした。診断ラベルの選定は、アセスメント項目のチェック状況により決定されるため、論理関数で処理される計算フィールドとした。画面設計は、画面サイズをiPad用に設定し、①療養者の属性、②各領域毎の入力項目(領域4のみ2分割)、③診断ラベルの選定結果をそれぞれ別個のレイアウトに配置し、レイアウト数は13となった。フィールド数は、療養者の属性15、アセスメント項目132、診断ラベル選定のための計算フィールド50を加え合計197となった。また、ファイル要領は1.3メガバイトとなった。iPadで患者データの入力を試みたところ、入力は迅速になされ、診断ラベルの自動選定まで問題なく動作した。入力に要する時間は一人あたり約15分であった。 結論 本プログラムを組み込んだタブレット型コンピュータを使用することにより、在宅療養者の看護診断を効率化することができる。
著者
大辻 裕子
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.9, pp.61-73, 2011-03

背景 近年、口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に効果があると報告されている。しかし、看護領域における口腔ケア研究は、各種ケア法による口腔内細菌の減少率の比較、効率的な口腔ケア用品の開発など数少ない。また、口腔ケアの方法も標準的なものはなく、それぞれ病院が独自の方法で実施しているのが現状である。 目的 科学的根拠に基づいた口腔ケア法の確立を目指して、A県下の口腔ケアの実態を調査した。 方法 A県下で口腔ケアを全介助で実施している48病院を選び、そこに勤務する看護師から聞き取り調査を行った。看護師が行っている口腔ケアの手技ならびに方法を見学し、半構成的質問調査を実施した。調査項目は、口腔ケアの手技とその根拠、含嗽液の種類、使用物品、1日のケア回数、1回のケア所要時間、マニュアルの有無、評価表の有無など15項目とした。 結果 口腔ケア法は、ブラッシングと清拭がそれぞれ50.0%であり、手技は病院毎に様々で統一されたものはなかった。口腔ケア法の根拠については、根拠不明が33.3%を占めた。口腔ケア時に使用する含嗽液は、水、緑茶、モンダミン^[○!R]、マウスウォシュ^[○!R]、重曹など11種類であり、口腔ケア回数は3回/日が68.8%と最も多く、1回の口腔ケア所要時間は4~5分が41.7%で最も多かった。口腔ケアのマニュアルがあると回答した病院は68.8%であったが、実際には、看護師個人の考えや技量により口腔ケアが実施されていた。口腔ケア評価表やアセスメン卜表を使用している病院は12.5%あり、72.9%の病院が何らかの方法で評価を行っていた。口腔ケアの課題として、統ーしたケア方法がなく技術に個人差があると54.2%が回答した。 結論 口腔ケアにおける問題点は、標準的方法がないこと、またそれを実施する看護師の技術力に差があることであり、今後、科学的根拠に基づいたアセスメント法の導入およびケアマニュアル作成の必要性が示唆された。
著者
横井 和美 山本 はるみ 北村 幸恵 平井 由香里
出版者
滋賀県立大学
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.61-70, 2005-03-31

背景 成人看護学では、看護の対象者である成人を総合的に理解し、成人がもつ健康へのニーズに対応できる看護を学ぶ。成人の役割や発達課題及び心理的ストレスの内容は、成人の発達段階別にその時期の特性として提示されているが、健康観や健康行動の特性については発達課題との関連で個別なものとし発達段階別での傾向や特性は示されていない。この健康観や健康行動は健康自己管理を左右する因子ともなり、発達段階別の特徴を理解しておくことは看護介入する上で必要な情報となる。目的 成人各期の人々の健康観や健康行動の特性を学習することは、対象者の状態にあった看護介入を行なう上でも重要であることから、成人各期の健康観や健康行動を調査し、生理的年齢区分での発達段階別に相違があるものか否かを検討し、成人期の人々の健康観や健康行動についての特徴理解を深める。対象及び方法 看護学生とその家族及び看護学生を取り巻く人々213名を対象に、健康観と普段の健康への取り組み内容の健康行動と、実際の不健康を生じたときの健康への回復行動をみるため風邪の対処方法についてのアンケート調査を平成15年4月〜7月に行った。発達段階別に健康観・普段の健康行動、風邪に対する対処方法を比較した。結果 青年期・成人前期の子世代と、成人中期・成熟期の親世代、老年期の祖父母世代間での比較では、健康観や普段の健康行動の内容に有意差(p<0.01)を認めた。個人の精神的な内容(気分爽快、リラックス等)に健康を求めた人は青年・成人前期に多かった。一方、普段の健康行動で、老年期の方は、医療への受診や社会活動の参加を他の発達段階の方よりも多く行なっていた。しかし、実際の風邪の対処方法の内容に各発達段階別の差は認められなかった。いずれの発達段階でも風邪症状の発熱の有無で対処法方が異なり、発熱を機に専門家に頼ることが示された。結語 成人の健康観や健康行動は、青年・成人前期の子世代と成人中期・成熟期の親世代、老年期の祖父母世代で相違があることが示された。しかし、実際の風邪の対処方法では発達段階の差はなく、症状によって健康行動が左右され、看護介入するタイミングが示唆された。
著者
甘佐 京子 比嘉 勇人 長江 美代子 牧野 耕次 田中 知佳 松本 行弘
出版者
滋賀県立大学人間看護学部
雑誌
人間看護学研究 (ISSN:13492721)
巻号頁・発行日
no.7, pp.73-79, 2009-03

背景 精神疾患の多くは、思春期から青年期に発症するといわれている。精神障害に罹患した場合、早期受診・早期治療が重要であり、統合失調症においては精神病未治療期間 (duration of untreated psychosis) が予後を左右するとの報告もある。しかし、国内では、好発年齢にある時期の子ども達に向けての、啓蒙活動の実施やその成果についての報告は見られず、中学校の保健体育などでも精神障害についてはほとんど触れられていないのが現状である。 目的 中学生を対象にしたメンタルヘルス教育プログラムを構築するにあたり、中学生の精神障害に対する認識を明らかにすることを目的とする。方法 研究デザインは量的記述的研究であり、A市内の公立中学校(6校)の三年生714名を対象にアンケート調査を実施した。調査内容は、精神障害に対する知識の情報源となる媒体や疾患に対する具体的な認識および、「こころの病気」という語彙に対するイメージである。分析にはSPSS15.0J for windowsを使用し記述的統計を行った。なお、本研究は滋賀県立大学研究倫理審査委員会の承認を得た(07年11月第51号)。 結果 回答者は653名(男子316名、女子337名)。精神疾患について他者から聞いたことがあるかという問いでは、68%の生徒があると回答した。聞いた相手として中学校教諭28.9%と最も多く、次いで小学生教諭20.4%であった。具体的な疾患名として、うつ病は約90%の生徒が認知しているのに対して、強迫性障害や統合失調症については病名の認知が5%に満たなかった。これらの知識の情報源となった媒体は、おもにテレビ(68.9%)であり、教科書(5.4%)や授業(9.2%)は、10%に満たなかった。さらに、精神疾患のイメージは否定的な項目に偏る傾向が認められたが、「こわい」「嫌い」等の嫌悪を示すものより「辛い」「寂しい」といった悲哀を示すイメージの方が強かった。 結論 中学生の多くは、精神疾患に対して何らかの情報を持っているが、その多くはテレビ等のマスメディアによるものであり、正しい知識を得ているとは考えづらい。また、うつ病等メディアに取り上げられるものについては、少なからず認識しているが、思春期に発症しやすい統合失調症や強迫性障害などの認識は低く、当然自己との関連が深い疾患だととらえてはいないと推測できる。Background Most mental illnesses are thought to develop during puberty and young adulthood. Early diagnosis and early treatment are important for cases of mental disorders, and the duration of untreated psychosis can influence the prognosis of schizophrenia. In Japan, very few mental illness awareness programs are targeted at children of susceptible ages, and reports of these programs are also lacking. In addition, very little is taught about mental disorders in middle school health and physical education curr icula. Objective In order to create a mental health education curriculum for middle school students, we aimed to understand the awareness of mental disorders in these students. Methodology We employed a quantitative and descriptive study design, and surveyed 714 ninth graders from 6 public schools in city A by questionnaire. We surveyed their knowledge of specific conditions, their sources for information regarding mental disorders, and their image of the phrase "mental illness ." Descriptive statistical analysis was performed using SPSS15.0J for Windows. Our study was approved by the University of Shiga Prefecture Research Ethics Review Committee (November, 2007, No.51). Results Of the 653 respondents, 316 were male and 337 were female. Sixty-eight percent of the students had heard of mental illnesses , most often from middle school teachers (28.9%) followed by elementary school teachers (20.4%). In contrast to the 90% who knew depression as the name of a specific disorder, less than 5% knew the names of disorders such as obsessivecompulsive disorder and schizophrenia. Television was the cited source of this information for 68.9%, while less than 10% identified text books (5.4%) and classroom education (9.2%) as the source. Although the image of mental illness was usually negative, the respondents tended to characterize mental illness with terms expressing sorrow, such as "struggle" and "lonely" rather than those expressing aversion, such as "scary" and "dislike." Conclusion The majority of middle school students have some knowledge of mental illness, but most of it is obtained from mass media, such as television. As such, it is unlikely that their obtained knowledge is accurate. Although they are relatively aware of conditions such as depression which are dealt with by the media, they are much less aware of conditions such as schizophrenia and obsessive-compulsive disorder, which easily develop during puberty. We surmise, therefore, that the students do not consider these conditions to be highly relevant to them.