著者
松田 浩珍 野村 義宏 吉川 欣亮 好田 正 折戸 謙介 田中 あかね 松田 研史郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

難治性炎症性疾患において、末梢組織に存在するマスト細胞が局所病態発現に関与するが、内在する起炎性物質は多種にわたり、放出動態に動物種を含め物質特異性を有する。これら起炎性物質は血中に放出された後、遠隔部位で病態誘導する場合があり、近年マスト細胞活性化症候群という新たな概念が提唱されている。本研究では、マスト細胞の活性化と病態発現部位について、組織微小環境を背景に疾患および動物ごとの機能性物質を同定し、多種類の動物を対象とする獣医領域において未だ十分に解明されていない難治性炎症性疾患の病態解析と再定義をすることによって、病因と病勢評価につながる新たな診断法および治療薬の開発を目指す。1.マウスの皮膚をコラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼおよびDNaseを含む酵素消化液で処理、シングルセル化した細胞懸濁液を染色して得られたKIT/FcεRI陽性分画をセルソーターにて単離し皮膚マスト細胞の単離に成功した。また、消化管寄生虫感染により腸管マスト細胞の増殖を誘導し、その単離を試みた。ソーティングによりNaphthol AS-D陽性の腸管マスト細胞を得た。これら皮膚および腸管マスト細胞に加え腹腔内マスト細胞、骨髄由来培養マスト細胞を材料としてラベルフリー定量ショットガンプロテオミクスによる網羅的なタンパク質比較解析を実施、現在その解析中である。2.transient receptor potential (TRP) A1が相対的酸素変化をセンシンシングすることを突き止めた。3.マウスのマスト細胞トリプターゼ欠損マウスの作成に成功した。4.未熟児網膜症モデルにおいて、網膜の異常血管誘導因子の同定に成功した。この研究成果はJournal of Clinical Investigationに掲載された。5.ウマ蕁麻疹症例の末梢血中において、高濃度のマスト細胞トリプターゼの測定に成功した。
著者
松田 浩珍 田中 あかね 下田 実 新井 克彦 辻本 元 西村 亮平
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

イヌ肥満細胞腫臨床サンプルに関し、c-kit遺伝子の全領域について遺伝子変異の検索を行い、細胞膜直下領域の遺伝子変異が12%程度の症例に認められたものの、その他88%の症例におけるc-kit遺伝子は、野生型であることを示した。また、変異型c-kit遺伝子を用いて遺伝子導入実験を実施したが、腫瘍性増殖が誘導されなかった。このことから、c-kit遺伝子の変異が腫瘍性増殖の根幹ではなく、それ以外の細胞内分子にも何らかの異常が併発することで腫瘍性増殖が誘導されていることが示唆された。肥満細胞腫細胞ではD型サイクリンの過乗発現、Bcl-2ファミリー分子Mcl-1の過剰発現、Bcl-2抑制性BH3ファミリータンパクの低発現、p21・p27・p53などのガン抑制遺伝子の低発現が認められた。また、転写因子NF-κBやAP-1が活性化しており、これらの分子標的阻害剤によって細胞周期の進行が阻止され、細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。その活性化を誘導する上流の細胞内シグナル分子として、PI3キナーゼ系の下流でS6キナーゼが強く活性化しており、転写を制御するS6リボソーマルプロテインの発現が亢進していることが明らかとなった。さらに、c-kit遺伝子に変異を有さず、高親和性IgEレセプターを発現する新しいイヌ肥満細胞腫株を樹立し、その成果を論文発表した。c-kit遺伝子変異以外の腫瘍化あるいは腫瘍性増殖促進メカニズムを検索する目的で、症例サンプルや数種のイヌ肥満細胞株を用いて、各種サイトカインおよびそのレセプターの発現とグレード(悪性度)との関連を検討した。肥満細胞種の多くが、IL-3や-6、GM-CSF、SCFなどの増殖因子を自ら産生し、それらのレセプターも発現していること、それらを中和することで細胞増殖が抑制されることを明らかにした。
著者
田中 克実 桃井 康行 峯岸 美知代 関口 麻衣子 紺野 克彦 田中 あかね 松田 浩珍 岩崎 利郎
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.5-11, 2003 (Released:2007-11-02)
参考文献数
12

本研究では犬の肥満細胞腫の病態、予後、術後の転移を予測する指標を検索する目的で、肥満細胞腫の犬12症例を対象に血中ヒスタミン濃度および末梢血をカルシウムイオフォアで刺激した後のヒスタミン放出を測定した。その結果、肥満細胞腫の犬の血中ヒスタミン濃度は健常犬と比較して高値であり、腫瘍の大きさ、病期と相関する傾向が見られ病態や治療効果の監視に有用である可能性が示された。血中ヒスタミン濃度が特に高値であった肥満細胞腫の犬9例の生存期間は2-130日(中央値29日)と極めて短く、予後との間に相関傾向がみられた。また末梢血の肥満細胞数の指標として血液を刺激した後のヒスタミン濃度を測定した。その結果、転移がみられた8例のうち6例で明らかなヒスタミン放出がみられ、転移がない4例ではみられなかった。このことから、刺激によるヒスタミン放出は転移の存在を示唆すると考えられた。また特に著しいヒスタミン放出が見られた6症例では治療法に関わらず全例が130日以内に死亡した。本研究により血中ヒスタミン測定が肥満細胞腫の予後の予測や治療法の選択に際し、有用な情報を提供し得ることが示された。