著者
新居田 彩 小谷 悠子 田中 寿美子 浅田 伸彦 難波 正義
出版者
日本組織培養学会
雑誌
組織培養研究 (ISSN:09123636)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2-3, pp.107-113, 2005 (Released:2012-11-13)
参考文献数
10

前回の研究で水道水で作ったイーグル最小基礎培地(Eagle's Minimum Essential Medium:MEM)の培養細胞に対する傷害性の有無を報告した。すなわち、その報告では、水道水培地でも培養細胞を増殖維持でき、水道水の細胞に対する傷害性は少ないと我々は結論した。今回はこの事実をさらに確認するために実験を行ったところ、前回の結果と一部一致しない事実が分かったので報告する。実験方法は、水道水の細胞傷害を調べるために、前回と同様に水道水に溶かしたMEMに非必須アミノ酸と10%胎児牛血清を添加した培地を用いた。使用した細胞は樹立化されたヒト肝細胞(OUMS-29)である。細胞の傷害性は主にコロニー形成法で検討した。また、細胞をコンフルエント状態(生体状態に近い条件)にした場合での水道水培地の細胞傷害を調べた。この場合は傷害された細胞から培地中に遊離されるLDH活性を測定した。さらに、今回は水道水に含まれる塩素量を測定し、塩素量と細胞傷害の関係を検討した。その結果、1)水道水の採取日の違いにより、細胞傷害が弱い場合と強い場合があること、2)水道水中の塩素量は細胞の傷害には影響を与えないこと、3)細胞がコンフルエントの状態では傷害が見られないことが判った。以上の結果を総合すると、水道水の人体に及ぼす傷害性は低いと考えられる。しかし、今回の実験は水道水の細胞に対する短期的影響について調べたものなどで、長期的影響については今後の検討が必要と思われる。