著者
鈴木 隆介 西田 治文 小口 千明 田中 幸哉
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

蛇紋岩で構成される山地(以下,蛇紋岩山地と略称)は,一般にそれに隣接する非蛇紋岩山地に比べて,(1)相対高度が高く,(2)谷密度が著しく低く,(3)尾根が丸く,山地斜面が緩傾斜であり,(4)浅い滑り面をもつ地すべりが多い,といった特異な削剥地形を示す.蛇紋岩山地の,そのような特異な削剥地形の成因を解明するために,以下の研究をした.北海道敏音知周辺,北上山地宮守地域,京都府大江山を中心に,自然露頭および大規模な砕石場において,現地岩石物性試験(弾性波速度,貫入硬度,シュミットロックハンマー反発度,浸透能,節理密度),室内での新鮮岩および風化物質の岩石物性試験(圧縮・圧裂引張・剪断強度,密度,間隙率,間隙径分布,P波・S波速度,定水位透水係数)ならびに鉱物分析を行った.蛇紋岩の節理密度は,深部では節理の多い部分と少ない部分が複雑に混在しているが,地表に近いほど節理密度が大きくなる.また,日本の主要な蛇紋岩山地についての地形計測によると,蛇紋岩山地の平均高度は蛇紋岩体の面積が約10km^2より大きい場合には周囲の非蛇紋岩山地より高いが,それより小さい場合には逆に低い,ことが判明した.このような蛇紋岩山地の削剥地形の特徴は,蛇紋岩の特異な岩石物性を反映した,次のような削剥過程に起因すると考えた.蛇紋岩の強大な残留応力が削剥に伴う除荷作用によって解放されるために,蛇紋岩が膨張して,引っ張り割れ目が増加して節理密度が増加し,蛇紋岩は葉片状さらに塊状に破砕する.そのため,葉片状,塊状,礫状の蛇紋岩は高透水性を示すので,地表水が浸透しやすくなり,谷は浅く,谷密度が低くなる.一方,風化すると,蛇紋岩は吸水膨張するので,表層部に浅い地すべりを発生しやすくなるので,斜面は緩傾斜になる.その削剥過程における雪達磨効果のために,大規模な蛇紋岩体ほど高い山地を形成している.
著者
鈴木 隆介 八戸 昭一 田中 幸哉 松岡 憲知 松倉 公憲 砂村 継夫
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は,2001年8月23〜28日に日本で開催されるIAG第5回国際地形学会議における「岩石制約論シンポジウム」の基調報告の内容および討論課題を設定し,報告者の選定ならびに同シンポジウムに直結する野外巡検候補地の選定のための企画調査である.その成果を以下に要約する.1) 文献調査「地形形成過程における岩石物性の役割」を定量的に研究した成果を,世界の主要な学術雑誌,国際会議報告書および既刊書などについて,計254編の文献を収集・整理した.その結果, 「岩石制約論シンポジウム」の討論課題としては,総論,各論および岩石物性測定法の三部に大別し,総論では岩石制約論の根本課題の総括,各論では河川侵食過程,海岸侵食過程,マスムーブメント,氷河・周氷河過程,斜面発達,岩盤風化のそれぞれに関連する岩石制約の実例の総括,そして岩石物性測定法では野外測定法と室内測定法の諸問題,をそれぞれ主題および副題とすることとした.各部門と副題のオーガナイザーとしては本研究組織の全員が分担し,外国人では1999年末までの予備登録者の中から選定し,個別折衝して,最終的には2001年1月までに決定することとした.2) 野外巡検の企画日本で岩石制約論的観点からの研究成果が累積している北海道豊富町付近,福島県東部海岸,秩父盆地,千葉県各地,三浦半島,宮崎県南東部について,各地区ごとに本研究組織の研究者が現況を確認した.その結果,野外巡検地としては房総地域(4日間)と北海道豊富地域(5日間)の2地域とし,第5回国際地形学会議のFirst Circularに掲載・発送した.3) Proceedings刊行の企画「岩石制約論シンポジウム」の成果をまとめて英文単行本として出版することとした.