著者
西川 哲成 和田 聖二 和唐 雅博 田中 昭男 大森 佐與子
出版者
大阪歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

われわれは歯科医療従事者の肺における金属沈着を調べるため,肺癌の歯科技工士の剖検例で得られた肺の各種金属の濃度を熱中性子放射化分析法で測定した.さらに,その他の職種の患者の肺癌剖検例2例および心疾患患者の剖検例3例についても,同様に肺の金属を測定し比較検討した.その結果,歯科技工士の肺には,各種金属(Au,Ag,Co,Cr,Cu)の濃度は他の職種の患者より増加した.これらの金属は歯科用金属としてよく使用されて,またAuやCrはアレルギー,そしてCrは癌の原因物質と考えられていることから,肺への影響が懸念される.つぎに,歯科医療従事者の肺癌リスクとその組織的特徴を調べる目的で,大阪府立成人病センターで悪性腫瘍と診断された60歳以上の男性患者のうち,歯科医療従事者24例を含む4,138例を検索した.癌患者のうち肺癌患者の比率は,歯科医療従事者では41.7%で,歯科医療以外の患者19.7%であった.また,肺癌患者の歯科医療従事者10例の組織型では扁平上皮癌が10.0%,腺癌が80.0%,大細胞癌が0.0%そして小細胞癌が10.0%であり,歯科医療以外の肺癌全患者812名の組織型ではそれぞれ35.3,36.3,5.8および18.0%であった.以上,歯科医療従事者の肺癌発生頻度は高く,その組織型については腺癌が多いことが推察される.また,歯科医療従事者の毛髪に含まれる金属の沈着を調べるため,30歳以上の男性の歯科医療従事者15名(歯科医師9名,歯科技工士6名)と,30歳以上の男性でその他の職業のヒト5名計20名の毛髪を採取し,熱中性子放射化分析法によりAl,Au,Co,CuおよびVの含有量を測定した.その結果,歯科医療従事者の毛髪ではその他の職業のヒトの毛髪と比べ,Al,Au,Co,CuおよびVの含有量は増加した.以上の結果から,歯科医療従事者は肺癌リスクの高い職業であることが推察され,職場環境の改善が望まれる.
著者
田中 昭男
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-10, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
参考文献数
22

歯原性腫瘍は歯を形成する組織細胞から発生する口腔領域に特化した腫瘍である.腫瘍細胞の由来によって腫瘍は大きく上皮性,混合性,非上皮性の3 種に分けられる.文献的に最初に報告されたのは1746 年でPierre Fauchard により行われた.その後,Pierre Paul Broca そしてSir John Bland­Sutton が歯胚の構造に応じて歯原性腫瘍を分類している.当時,歯原性腫瘍は「odontome」という名称で表されていた.Ameloblastoma およびodontoma いう用語が使用されたのは,それぞれ1930 年代および1950 年代である.WHO が歯原性腫瘍の分類を世に表したのは1971 年に書籍を刊行したときである.その後,WHO は 1992 年,2005 年,そして2017 年に改訂版をそれぞれ発刊している.1992 年までは歯原性腫瘍のみを単独で出版していたが,2005 年版からは頭頸部腫瘍の中に含めたかたちで刊行している.2005 年版では,それまで囊胞として扱われていた歯原性角化囊胞および石灰化歯原性囊胞の2 病変がそれぞれ角化囊胞性歯原性腫瘍および石灰化囊胞性歯原性腫瘍として扱われた.しかし,2017 年版では腫瘍から囊胞へ戻り角化囊胞性歯原性腫瘍および石灰化囊胞性歯原性腫瘍の名称は消滅し,それぞれ歯原性角化囊胞および石灰化歯原性囊胞として扱われることになった.このほかにも歯牙エナメル上皮腫,エナメル上皮象牙質腫およびエナメル上皮線維歯牙腫の病名も消滅し,それらはすべて歯牙腫として扱うことになった. 一方,本学附属病院における病理組織診断を1994 年1 月から開始し,2016 年末で20,000 件を超える病理組織標本を扱ってきた.最も頻度の高い症例は囊胞性病変であり,次いで癌腫性,炎症性および歯原性の病変であるが,歯原性腫瘍の頻度は少ない.小切片では病理組織学的に囊胞と単胞性エナメル上皮腫の診断は必ずしも容易ではない.しかし,全割面の標本では診断は容易である.
著者
西川 哲成 富永 和也 尹 聖澤 上村 学 好川 正孝 戸田 忠夫 田中 昭男
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.272-281, 1996-09-28
被引用文献数
7 2

共焦点レーザ走査顕微鏡(CLSM)でラット硬組織を観察する条件を得るため,硬組織の各種ラベリング剤を用いて,その染色方法を検討し,立体的に観察した。生後4週の雄性ラットの背部皮下,大腿部の筋肉,腹腔そして頸部の静脈にcalceinを投与し,その2日後灌流固定を行った。下顎骨を摘出しエポキシ樹脂に包埋して厚さ500μmの非脱灰切片とした。これらの切片を励起波長488nmで,波長535nm (CH1)と610nm (CH2)のバリアーフィルターを用いてCLSMで観察した。また,ラットにcalcein, tetracyclineおよびalizarin redの種々な濃度のラベリング剤を単独あるいは複数組合せて投与し,同様の方法にて切片を作製し,CLSMで観察した。その結果,体重100gにつきcalceinの量が1または2mgのときにCH1およびCH2を,alizarin redは4または8mgのときにCH2を,tetracyclineは4または8mgのときにCH1およびCH2をそれぞれ使用することによって最も明瞭に観察できた。Calceinを静脈に投与した場合には,皮下組織への投与と比較して,ラベリング線は細く,染色程度も強かった。さらに,筋肉あるいは腹腔に投与した場合は静脈内と皮下投与の中間の結果であった。2重ラベリングでは体重100gにつきcalcein 2mgとalizarin red 4mgの投与がCLSMの観察に適していた。この染色条件では,象牙質の基質および支持歯槽骨の外側は規則正しく,そして歯根膜に接する固有歯槽骨は不規則にそれぞれラベルされていた。また,骨小腔および骨細管が立体的に観察された。