著者
王 国民 高橋 浩二 和久本 雅彦 道 健一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-55, 1991

声門破裂音音声の音響特性を評価することを目的として健常音声(10名)/ta/,/ka/および/ta/,/ka/の声門破裂音(14名)についてサウンドスペクトロラム(以下SG)およびコンピューターを用いた音声分析システムにより物理評価量を求めた後,言語治療士による聴覚心理実験を行い次の結論を得た。1.SGによる分析では/ta/,/ka/ともに声門破裂音ではVOT(voice onset time)が短い傾向が認められ,声門破裂音のおよそ1/3の音声サンプルにおいてスペクトログラムパターン上で後続母音のフォルマント成分が消えた後に摩擦子音に類似した不規則なfillの出現が認められた。2.コンピューターを用いた音声分析の結果では1)スペクトル包絡上に反映された子音部の周波数特性を数量化したSES(spectral envelope score)による比較では,-5dB以上の値を示した音声サンプルは正常構音/ta/では60%であったのに対し,/ta/,/ka/の声門破裂音,正常構音/ka/では17~37%と少なかった。2)VOTによる比較では,正常構音/ka/では全ての音声サンプルが20msec以上の値(平均44・61nsec)を示したのに対し,正常構音/ta/および/ta/,/ka/の声門破裂音では20msec以上の値を示したのは23~41%のサンフ.ルであり平均17,2~24.8msecであった。3)第2,第3フォルマントの選移量の差であるΔF2-ΔF3による比較では,正常構音/ta/では63%が200Hz以上の値を示したのに対し,/ta/,/ka/の声門破裂音,正常構音/ka/で200Hz以上の値を示したのは13~19%であった。3.声門破裂音音声に特徴的な「しめつけるような」歪みと破裂の明瞭さに着目した0対比較法による聴覚心理実験では,いずれの評価も有意であることが明らかなり,「しめつけるような」歪みの程度とVOTの間で負の相関が認められた。