著者
溝口 耕三 岡本 健久 田中 洪
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.343-350, 1999-05-01
被引用文献数
2

この研究は, 慣れ易い音は騒音になりにくいという観点から, 騒音に対する慣れに着目し, 音環境を評価する方法の研究である。慣れは, 聴覚に連続的あるいは繰り返して刺激が加わると起こる現象で, 徐々に刺激に対する反応が減少し, やがては消滅する現象である。しかし, 慣れは, 従来の精神物理学的測定法を用いた測定が困難であると指摘されている。慣れを測定する一つの方法として, 以前にカテゴリ連続判断法が提案されている。この方法は有望ではあるが, 計測に多くの時間を必要とする。本研究では, 注意が向けられない刺激ほど慣れ易いという仮説を基に, 慣れの指標として選択的注意を用いた新しい方法を提案している。実験では, 被験者はタスクを負荷されており, 同時にラウドネスの変化に気が付いたとき, ボタンを押すように指示されている。被験者が作業に集中し, 音に注意を払わなければ, ラウドネスの小さな変化をのがしてしまうことになる。従って, 反応の回数が慣れの指標となる。この方法は多くの時間を要しない上に, 確実性も高い。
著者
安岡 正人 橘 秀樹 田中 洪 田村 明弘
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.345, pp.218-225, 1984-11-30
被引用文献数
1

在来工法による木造試験家屋を用いた今回の実験的検討の結果の概略は, 以上に述べたとおりであるが, これらを要約すると, (1)外壁については, 外装材の下地に合板など板材料の挿入や内壁の多層化(板材料二重張り, あるいは遮音シートの挿入など), あるいは中空層内部に多孔質吸音材料を挿入することなどにより, 中高音域では大きな遮音性能の増大が期待できる。しかし, 低音域(125Hz帯域)については, 中空層厚が100mm程度となる一般の軸組構造壁では, 二重壁の低域共鳴透過現象により, 遮音性能の改善には限界(125Hz帯域で内外音圧レベル差20dB程度)がある。それに対して, W/5(二重軸組壁)のような構法をとれば, 125Hz帯域でも30dBに近い内外音圧レベル差を得ることができ, 特に低音域についても大きな遮音性能が必要とされる場合に有効である。また平面計画上, 外壁に押入などの収納部分を組合せることができれば, 全帯域にわたって高い遮音性能を得ることができる。(2)窓などの開口部を含む外周壁の遮音性能は, 開口部の性能によって決る。中空層が外壁の厚さ(約100mm)と同程度の二重窓では, 気密性を高めることにより, 高音域の遮音性能は十分大きくすることができるが, 低域共鳴透過現象により, 低音域での遮音性能の改善には限界がある。したがって道路に面した場所など, 低音成分が優勢でレベルも大きな騒音環境下では, 出窓形式の二重窓などを採用し, 中空層をできるだけ大きくすることが必要である(図-10, 11参照)。その際, 気密性の高いサッシを二重窓の少なくとも一方に使用することにより, 高音域においても高い遮音性能とすることができる。面積が大きく, 遮音上の弱点となりやすい掃出し窓についても, 大きな中空層をもつ二重構造とすることが望ましい。その場合, 中空層を前室として空間的にも利用できる程度とし, 気密性の良好なサッシを用いることにより, 外壁と同程度の遮音性能(D35〜40以上)を得ることができる。このような点からみると, 我が国の伝統的な縁側形式のプランは, 内部建具にもガラス障子などを用いた場合には遮音上きわめて有利と言える。(3)屋根-天井部分については, 天井ふところの空間を利用し, その間に断熱も兼ねて十分な吸音材を付加することにより, 外周壁にくらべてはるかに良好な遮音性能が得られる。その際, 天井面を遮音層と考えて, 石膏ボード等の遮音材料を下地材として使用することが望ましい。(4)遮音性能の向上のためには, 音響的には気密性を高めることが必要であるが, 当然のことながらそれと同時に室内の換気についても十分な考慮が払われなければならない。その場合, 図-13に示した結果からも明らかなように, 在来の簡易な換気設備を不用意に設置すると, 外周壁の遮音性能を特に中高音域で著しく損なう結果となるので, 防音型住宅を考える場合には, 少なくとも熱交換型あるいは減音効果の大きいダクト引き形式の換気設備が必要である。また今後, 遮音効果の大きい住宅用換気設備あるいは換気口などの開発・普及が望まれる。