著者
永井 美之 水本 清久 石浜 明 田代 真人 永田 恭介 野本 明男
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1993

ウイルスの体内伝播機構や臓器向性、宿主域などを決定する機構をウイルスと宿主相互の特異的分子認識の立場から解析する「ウイルス病原性の分子基盤」という新視点からの研究グループを組織し、重点領域研究を申請する準備活動を行った。具体的には、シンポジウム「ウイルス遺伝子機能研究の新展開」(平成5年12月7〜8日、重点領域研究RNAレプリコンとの共催)を開催、わが国における当該分野の研究の現状を分析し今後の発展のさせ方について討議した。また班会議(同年8月28日、11月8日)、活動者会議(同年9月11日、12月1日、12月25日)においては、国際専門誌におけるわが国研究機関の論文発表状況の調査、シンポジウムの総括、なども行い、重点領域研究申請へと集約した。その結果、ウイルス複製の各過程に必須の生体側分子を分離・同定し、これら分子の生体内での組織分布を明らかにすることにより個体への種および組織特異的なウイルス感染の分子メカニズムを追求すること、すなわち、ウイルス複製と病原性発現機構を分子の水準で確立すべき機が熟していること、またそのことが同時に新しい生体分子の発見や既知生体分子の新機能の発見をも約束することを強く認識した。このように本領域が活気あふれる領域であるとの再確認の上に立ち、「ウイルス感染を決定する生体機能」を平成7年度発足重点領域研究として申請する運びとなった。尚、本総合研究の研究代表者永井美之が、同じく平成7年発足の「エイズ重点」申請代表者に強く推されている状況についても種々討議した。その結果、「エイズ重点」は永井が領域申請代表者を務めることとし、「ウイルス感染を決定する生体機能」は重点領域研究「RNAレプリコン」(平成4年〜6年度、代表 野本明男)の継承と飛躍の意味を込めて野本が担当することとした。
著者
田代 真人 小田切 孝人 田中 利典 田代 真人
出版者
自治医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ラット気管支上皮のクララ細胞が分泌する新しいセリン型酵素トリプターゼ・クララを分離同定し、これが肺における野生株ウイルスの活性化プロテアーゼの本体であることを証明した。更に、トリプターゼ・クララが気道上皮にのみ分布することが、センダイウイルスの感染増殖が肺に限局することの直接の原因であることを証明した。2.初感染巣である気管支上皮細胞において、ウイルスの出芽極性が尖頂領域に限局していることが気道における局所感染を規定し、一方、側基底領域から出芽することが全身臓器へのウイルスの播種に必要であることを証明した。3.センダイウイルスに感染した上皮性細胞が膜融合を起こして融合巨細胞を形成するためには、F蛋白の開裂活性化に加えて、ウイルス糖蛋白が側基底領域に発現していることが必要条件である。4.側基底領域からも出芽するF1-R株の感染細胞では、微小管などの細胞骨格系の構造と機能が破壊されており、上皮性細胞の持つ細胞極性が破綻していた。更に遺伝子塩基配列の比較から、F1-R株の変異M蛋白がこれに関与していることが強く示唆された。