著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

変形性関節症(OA)は、関節軟骨が変性摩耗し関節痛や関節可動域制限を生じる疾患である。関節軟骨は、軟骨細胞の産生するII型コラーゲン(Col2)を主体とする軟骨基質によって力学的負荷に耐えうるような構造を保っている。OA軟骨細胞ではCol2発現が著明に低下し、関節軟骨は機械的負荷に耐えらず更に変性摩耗していく。従って、OA軟骨におけるCol2産生を誘導し、軟骨基質の再構築をはかることができれば、OA進行を阻止する有効な治療法となる可能性がある。Col2発現には転写因子SOX9が重要な役割を果たしていることが報告されている。我々は、Col2の軟骨特異的発現に必須である遺伝子エンハンサーに特異的に結合する転写因子CRYBP1をクローニングし、軟骨以外の組織においてCRYBP1がCol2発現を抑制していることを見いだした。しかし、これらの転写因子が、関節軟骨やOA発症過程においてどのような役割を果たしているのかは、全くわかっていない。本研究では、OA進行を阻止する遺伝子治療の開発を最終目標とし、SOX9及びCRYBP1という正と負の転写制御因子のOA軟骨における意義を明らかにし、関節軟骨細胞でのCol2発現が制御可能かを検討することを目的とした。本年度は、CRYBP1の軟骨分化における役割を明らかにするため、アデノウイルスベクターを作成し、軟骨細胞への導入および器官培養を行った。軟骨細胞にCRYBP1を強制発現させると、CRYBP1の発現量に逆相関してCol2発現が減少し、他の軟骨基質であるアグリカンやリンクプロテインの発現も減少した。さらに細胞がアポトーシスに陥ることも判明した。胎生11日のマウス胚肢芽の器官培養にアデノウイルスを感染させると、その後の肢芽の形成が阻害され、軟骨組織の形成が不十分となることが判明し、in vivoにおいても軟骨分化におけるCRYBP1の重要性が確認された。すなわち、CRYBP1の軟骨組織における持続的発現は軟骨分化を阻害し、その発現減少が軟骨形成には必須であると考えられた。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
1999

Ewing肉腫(ES)は悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ESの癌化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1の発現を抑制することでES細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止すること、EWS-Fli1の標的遺伝子がG1/S期移行に関連した因子であることを明らかにしてきた。本研究の目的は、転写因子EWS-Fli1から標的遺伝子までのシグナル伝達経路の詳細を明らかにし、その経路を阻害することでES細胞の増殖を有効に抑制できるか検討を加え、ESの新しい分子標的治療を開発することである。ES細胞にEWS-Fli1アンチセンスを作用させると、細胞はG1期停止を起こす。そこで、この細胞からmRNAを抽出してプローブを作成し、cDNA microarrayにhybridizationさせた。結果をコンピューターで解析し、EWS-Fli1による細胞癌化に、どのような遺伝子発現変化が伴うか検討した。その結果、G1/S期移行に重要である転写因子E2F1がEWS-Fli1の標的遺伝子であることが明らかになった。EWS-Fli1を強制発現させるとE2F1の発現が誘導され、ES細胞にアンチセンスを作用させるとE2F1の発現は抑制された。ES細胞にE2F1結合配列をもったデコイオリゴを作用させると、細胞の増殖が有意に抑制された。本研究より、E2F1はEWS-Fli1の標的遺伝子であり、ESの増殖に深く関わっていること、ESの新しい遺伝子治療のターゲットとして有用であることが明らかになった。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

Ewimg肉腫(ES)とその類縁腫瘍PNETは、悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ES/PNETのがん化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、アンチセンスオリゴを用いてEWS-Fli1の発現を抑制することで、ES/PNET細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止することを明らかにした。そこで、アンチセンスオリゴ処理前後のES/PNET細胞よりmRNAおよび蛋白質を抽出し、細胞周期関連因子の発現変化を調べると、G1-S期移行に関わるCyclin D1、Cyclin E、p21およびp27の発現が大きく変化しており、アンチセンスオリゴによる増殖抑制の原因の一つと考えられた。このうちp21遺伝子のプロモーター領域をluciferaseにつないだreporter constructを作成し、ES/PNET細胞にこのreporter constructを導入したところ、reporter遺伝子活性は抑制されていた。ここでアンチセンスオリゴ処理を行うとreporter遺伝子活性が誘導された。また、プロモーター領域内でのEWS-Fli1の結合部位を検索した結果、EWS-Fli1は直接p21プロモーターに結合し、その活性を抑制した。p21発現を誘導する薬剤Na Butylateを作用させると、ES/PNET細胞でのp21発現が濃度依存性に誘導され、細胞の増殖も抑制された。従って、p21はEWS-Fli1の直接の標的遺伝子であり、ES/PNETの増殖に大きく関与していること、ES/PNETの遺伝子治療のターゲットとして有用である可能性が示された。