著者
加瀬 友喜 田吹 亮一 速水 格 武田 正倫 遠藤 一佳 千葉 聡
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.海底洞窟特有のソビエツブ科巻貝の2新属4新種、クチキレエビスガイ科の1新属2新種、従来全く知られていない殻形態を示す1新属1新種(Pluviostillac palauensis)を発見、報告した。2.海底洞窟のシラタマアマガイ属巻貝の殻体を検討し,2新種を含む6種を識別し,コハクカノコガイ属と単系統群(コハクカノコガイ科)を構成することを明らかにした.また、それらの軟体の解剖学的研究を進め、殻体による結果を支持した。3.マーシャル島の化石種を検討し,この種はシラタマアマガイ属に近縁な新属であることを明らかにし,同類が中新世には既に海底洞窟のような環境に適応していたことを示した.4.海底洞窟のシラタマアマガイ属と河川に生息するコハクカノコガイ類の殻体および軟体の解剖学的研究を進めた。また、両者の環境を繋ぐanchialineやhyporheic環境から多くの未知のコハクカノコガイ類を発見し、それらを分類学的に検討し、2新属を認めた。5.コハクカノコガイ類を含むアマガイ上目の解剖と分子系統学的研究から、同目は複数回地上環境へ進出し、また、コハクカノコガイ類は海底洞窟などの隠生的な環境に適応した後、anchialineやhyporheic環境、さらに地上の河川に進出したことを明らかにした。6.海底洞窟及びanchialine環境の微小甲殻類のカラヌス目Ridgewayia属の1新種を見いだした。この種は北大西洋や地中海の種に近縁であることが強く示唆された.また、アミ目のHeteromysoides属とHeteromysis属の4新種、BochusaceaのThetispelecaris属の1新種を見いだした。Thetispelecaris属の新種は同属の2番目の記録であり、その由来は海底洞窟から深海に進化したことが示唆された。
著者
田吹 亮一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究では琉球列島の浅海性の現生および化石貝形虫の殻に見られる捕食痕の形態の特徴と貝形虫種の生態との関連を明らかにするとともに、捕食痕を形成した捕食者の特定を試みた。具体的には、現生貝形虫として石西礁および瀬底島礁池からの貝形虫遺がいを、化石貝形虫として知念砂層(更新統)からの貝形虫化石を研究対象とした。捕食痕は貝形虫の殻の外表面から内側に貫通した穴で、その3次元的形態により、「パラボラ型」、「円筒型」、「不定形」に分けられる(但し、「不定形」は定まった形態を示さない捕食痕の集合体)。又、殻に捕食痕の見られる貝形虫は、生態的には、砂底種、泥底種、葉上種に分けられる。現生貝形虫では、葉上種に多く捕食痕が見られた。ボーリング痕であるパラボラ型、円筒型の捕食痕、さらには不定形(一部)のボーリング痕の形成者として、Naticidae、Muricidaeの肉食性巻貝が想定されているが(Maddocks,1998)、これら巻貝は砂泥底にのみ生息する事から、葉上種については、他にボーリング痕の形成者を探さなければならない。不定形の捕食痕の周辺の殻表面には、削り痕、引っ掻き傷、あるいは酸により溶かされた痕と見えるものが多い。このことから、不定形の捕食痕にはボーリング痕の他、(例えば、小型の十脚類などが)割ったり、突き刺したりした痕と考えられるものも含まれる。上記の選択的捕食者による3タイプの捕食痕とは別に、ナマコ等の非選択的捕食者の消化管内での溶解、又は無機的溶解の結果、貝形虫殻の一部に空いた穴も見られる。捕食痕を残した捕食者を特定するための飼育実験を水槽内で行ったが、残念ながら、捕食者の特定に至らなかった。今後の実験の課題として、飼育容器内の水質を良好に保つこと、捕食のための口器等を手掛かりに、捕食者候補を絞っていく必要があること等が挙げられる。