著者
北原 淳 田坂 敏雄 滝沢 秀樹
出版者
神戸大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

1.韓国経済について次の分析がなされた。(1)外から、上からの工業化が本来的都市化を伴わず両者が相克している。都市化は都市非公式部門を肥大化させている。(2)農業部門は70年代末不作と保護政策後退によって緑の革命も後退し全般的落層化が生じている。(3)農村から都市への人口移動は工業化のテンポを上まわった。(4)民主化を担う主体は労働者、雑業層等の民衆である。2.韓国資本主義論争を検討した。かつての民族経済論は現在国独資論にひきつがれて従属理論と相対立する形となっている。国独資論反対論者の一部はその前身である民族経済論をも批判しているが、本来内包的自立的工業化をめざす民族経済論は従属理論の立場からみても正しく評価されるべきである。3.タイ農村の地域労働市場の展開と就業構造について検討した。(1)大都市周辺農村は通勤形態による兼業が一般化し、農村内部では兼業化と緑の革命により急速な階層分化が進んでいる。(2)その中で上層界の脱農化は顕著ではないので中農標準化傾向はあらわれていない。(3)辺境農村では全階層的な遠隔地出稼労働が盛んである。4.NICS的発展の特徴を論じるシンポジウムを、山口博一,劉進慶、駒井洋、加納弘勝、大倉秀介、スリチャイ・ワンケオ各氏の参加のもとに開催し、次のような諸点を議論した。(1)NICS一般を論じるだけでなく国別にきめ細く見てゆくべきである。韓国はナショナリズムが強いのに台湾は弱く外国投資にも積極的である等のちがいがある。(2)NICS的発展は第三世界の不均等発展や日米関係にもとづいた特殊な発展形態であり、必ずしも一般化できない。(3)都市化、工業化は新中間層、労働者、都市雑業層を増加させており、民主化は上下どの階層の利害を代表するかで性格が異なりうる。
著者
田坂 敏雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

バンコク・ファッション・シティ計画とは、ファッション産業関連3業種の国際競争力強化を狙った産業政策である。本報告の第1章では、バンコク・ファッション・シティ計画とは何かを追究する。本報告では、11のサブ・プロジェクトの目標と課題を示し、現在、どのように取り組まれているかを解説した。同計画は「人の創造」や「まちの創造」だけでなく、何よりも「ビジネスの創造」である。「ビジネスの創造」とはファッション関連3業種である繊維・衣料産業、製靴・皮革産業、宝石・ジュエリー産業の競争力を強化する計画である。そこで、第2章では繊維・衣料産業を取り上げ、この産業を取り巻く国際状況を概説する。そして衣料産業がサプライチェーンを改善し、グローバリゼーション時代に対応する構造改革に取り組んでいる状況について解説する。第3章は宝石・ジュエリー産業の現状と競争力強化計画を取り上げる。バンコク・ファッション・シティ計画は、産業競争力の強化計画の中でも、とくに人材の育成に力をおき、デザイン力やブランド開発に結び付くことを狙ったものである。それは、タイの宝石・ジュエリー産業がもはや下請け生産や委託生産では生き残ることが出来ず、デザイン力やブランドを開発して直接的に消費者に結び付くことを企図したものである。第4章では製靴・皮革産業を取り上げる。製靴・皮革産業の競争力強化プログラムの特徴は、国際的な下請け生産の基地から自前のデザインやブランドの創造を目指し、専門家による個別のビジネス・プランを提案しているところにある。また、バンコク・ファッション・シティ計画に関する資料と、AFTAの影響について考察したタイ開発研究所(TDRI)の3つの報告書を翻訳した。タイ工業連盟(FTI)は、「AFTAの発効がタイのファッション産業にどのような影響を与えるか」について、タイ開発研究所に調査を依頼した。タイ開発研究所は、ファッション産業を(1)繊維・衣料産業、(2)宝石・ジュエリー産業、(3)皮革産業に分け、それぞれの産業実態と国際競争力について調査し、1996年にタイ工業連盟に答申した。本報告書では、その3本の報告書の翻訳を納めている。また、「バンコク・ファッション・シティ構想に関する資料」では、タイ工業連盟の機関誌に載った論文とインタビュー記事、『トラキット・カーウナー』誌の特別論文、そして産業振興局の『ウサハカム・サーン』誌の論文の計4本を翻訳・紹介したものである。これらの論文やインタビュー記事により、バンコク・ファッション・シティ計画の基本的内容を掴むことができるのではないかと考える。