著者
田川 佳代子
出版者
愛知県立大学
雑誌
愛知県立大学文学部論集. 社会福祉学科編 (ISSN:13425285)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.89-106, 2005-03-31

本研究は、ソーシャルワークが拠って立つ専門職としての基盤を下支えする価値や倫理について、現代的背景の脈絡において問い直すことを課題としている。ソーシャルワーカーは、市場における競合する個人主義を擁護する一方、もう一方で社会正義や平等を支持する、そうした福祉国家の本質にある反駁する価値の状況に身を置く。Banks(1995)が示す、ソーシャルワーク実践における「批判的反省」(critical reflection)を手がかりに、ソーシャルワーカーの役割における固有の複雑さや反駁について論じる。そして、専門職が倫理綱領を必要とする理由、その意義について述べる。さらに、利用者の権利への関心が高まるなか、ソーシャルワーカーの倫理的意思決定について検討する。ソーシャルワークの価値や倫理に対する関心や責任を喚起することには、ソーシャルワークの認識的視座に支配的な影響をもたらした実証主義の影響を顧み、個人の私的領域に押しとどめられてきた価値や倫理を、再びソーシャルワークの認識的視座に統合していく試みであることを論じた。
著者
田川 佳代子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.1-12, 2018-07-20

社会正義の思想は,正義の諸概念や諸構想に依拠する.どのような正義の構想に依拠するかを曖昧にすることは,実現しようとする正義を玉虫色のものにする.ソーシャルワークが擁護すべき社会正義とは何か.ソーシャルワークにおいて実現しようとする正義は何であるか.社会正義の広範な理論の検討を踏まえ,議論の輪郭を描くことが課題である.本稿では,まず,広範囲に及ぶ社会正義の意昧について調べる.配分的正義の議論を乗り越え,現代のソーシャルワークに要請されている抑圧や文配を除去し,搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい,ソーシャルワークにおける社会正義の諸概念や諸構想を検討する.ポスト近代,ケアの倫理,反抑圧といった新たな社会理論からの異議申し立てを,ソーシャルワークはどう受け止めるのか.ソーシャルワークの理論的変遷を辿りつつ,考察を試みる.
著者
田川 佳代子
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

市民をサービス利用者、消費者、顧客と捉え、市場としてサービスの供給を進め、経営管理主義の台頭があるなかで、ソーシャルワークにおける社会正義への責任や平等主義への志向は後退した。主流のソーシャルワークは、システムの変革よりも秩序の維持・適応を目標に据え、社会構造の歪から生じる諸問題を解消する観点は乏しい。そうした脈絡において、次の観点からクリティカル・ソーシャルワークの構想を試みた。(1)抑圧の個人的経験を広範な政治的理解と関連づける構造分析、(2)抑圧や支配を除去し、搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい社会正義への志向、(3)批判理論、ポストモダニズム、ポスト構造主義の思考。