著者
田川 佳代子
出版者
愛知県立大学
雑誌
愛知県立大学文学部論集. 社会福祉学科編 (ISSN:13425285)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.89-106, 2005-03-31

本研究は、ソーシャルワークが拠って立つ専門職としての基盤を下支えする価値や倫理について、現代的背景の脈絡において問い直すことを課題としている。ソーシャルワーカーは、市場における競合する個人主義を擁護する一方、もう一方で社会正義や平等を支持する、そうした福祉国家の本質にある反駁する価値の状況に身を置く。Banks(1995)が示す、ソーシャルワーク実践における「批判的反省」(critical reflection)を手がかりに、ソーシャルワーカーの役割における固有の複雑さや反駁について論じる。そして、専門職が倫理綱領を必要とする理由、その意義について述べる。さらに、利用者の権利への関心が高まるなか、ソーシャルワーカーの倫理的意思決定について検討する。ソーシャルワークの価値や倫理に対する関心や責任を喚起することには、ソーシャルワークの認識的視座に支配的な影響をもたらした実証主義の影響を顧み、個人の私的領域に押しとどめられてきた価値や倫理を、再びソーシャルワークの認識的視座に統合していく試みであることを論じた。