著者
猪熊 壽 田村 和穂 大西 堂文
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.225-228, 1996-03-25
被引用文献数
2

岡山県の一犬舎において発生したクリイロコイタマダニの季節消長を観察した. 8月下旬にマダニ駆除を行った後, 寄生マダニ数は急激に減少したものの少数の若ダニおよび成ダニは10月まで認められた. 平均気温が15℃未満となる11月上旬には寄生マダニは認められなくなったが, 平均気温が11℃を越える3月下旬には再びマダニ寄生が認められた. 次に本マダニの定着性を確認するため, 産卵と発育に及ほす温度の影響について検討したところ, 23から37℃の範囲内では温度の上昇に伴って産卵および発育の速度は上昇したが, 14℃では産卵は著しく遅延し発育は認められなかった. 4℃では産卵も発育も認められなかった. また, 9月から3月まで未吸血成ダニを屋外犬舎内のケージに飼養された家兎に耳袋法にて寄生させたところ, 11月には吸着するが飽血には至らず, 12月から2月までは吸着も認められなかった. さらに, 低温条件下における未吸血成ダニの生存性を検討したところ, 12℃湿度50%で140日あるいは12℃湿度50%で40日, 続いて4℃湿度50%で100日保存しても, 家兎からの吸血が可能であった. 以上の所見から考えると3月に岡山県内の犬に寄生していたマダニは当該犬舎内で越冬していた可能性が高いと考えられた.