著者
田村 智彦 加藤 隆幸
出版者
横浜市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

血球系特異的転写因子Interferon Regulatory Factor 8(IRF8)は、ミエロイド系前駆細胞からマクロファージへの分化を促進する一方、好中球への分化増殖は抑制する。また、IRF8欠損マウスが慢性骨髄性白血病(CML)様の病態を呈し、多くのヒト骨髄性白血病においてIRF8の発現が失われていることから、IRF8はヒト白血病において重要ながん抑制因子である事が示唆されている。当研究は、IRF8の機能解析を通して自然免疫細胞の分化機構、ひいては細胞分化の基本原理を理解し、ヒト白血病に対し新しい病態理解と治療法を確立するための基盤を築くことを目指している。本年度は、IRF8と顆粒球系のマスター転写制御因子C/EBPαが結合する事を生細胞においてBiFC法(Bifluorescence Complementation Assay)のみならずFRET法(Fluorescence Resonance Energy Transfer)でも確認することができた。また前年度見出した新しい細胞分化制御転写因子であるが、これはIRF4であり、IRF8とIRF4という二つの血球系IRFがミエロイド系細胞分化において似通った活性を持つ事を、in vitro分化系のみならず、IRF8, 4ダブル欠損マウスの作製によって証明することができた。CML患者ではIRF4の発現も低下している事が報告されており、この結果はCML病態や治療を考える上でも興味深い。今後、本挑戦的萌芽研究で得た結果をさらに発展させ、ミエロイド細胞における転写因子複合体の精製等によってより包括的な理解に繋げて行きたい。
著者
市野 素英 田村 智彦 西山 晃 堀田 千絵
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

寄生虫感染症のマラリアでは、免疫応答で重要な役割を果たす樹状細胞(DC)の成熟阻害が起こり、宿主が免疫抑制状態に置かれることが知られている。しかし、その分子メカニズムはよく判っていない。本研究では、マラリア原虫感染赤血球が宿主の骨髄細胞に作用し、DCの分化に必須の転写因子IRF4/IRF8の発現を転写レベルで抑制してDCの分化異常を起こすことを、マウスマラリアモデルを用いた解析により明らかにした。
著者
西山 晃 田村 智彦 市野 素英 堀田 千絵
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

細胞分化には、各系譜に特異的な転写因子による適切な遺伝子発現が必須であり、その破綻が免疫不全やがんなどの疾患を引き起こしうる。転写因子IRF8は単球を含む血球細胞分化に必須であり、慢性骨髄性白血病の重要な制御因子と考えられている。本研究ではIRF8の機能解析を通じて血球細胞の分化機構を明らかにし、ひいては白血病の新規治療法の可能性を探ることを目標とした。IRF8の遺伝子導入等の複数のマクロファージ分化系で遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、共通に発現が誘導される転写因子を同定し、それらの遺伝子導入によりIRF8を介さないマクロファージ分化を達成した。