著者
田畑 弾 田上 善夫
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.71-77, 2007-02

富山県の平野部各地に見られるスギなどの高木で家屋の周りを囲む屋敷林は、富山県の特徴的な景観であり、たとえば青山ほか(2000)においても、気候景観として特徴的なものとされている。また、小川(2001)の「井波風」も、岩田(1999)の 、富山市大沢野地区における不吹堂の分布も、どちらもフェーン現象に伴う高温で強い南成分を持った風を対象としており、日本海に低気圧が存在することによって吹く強風を仮定して論じているが、実際のフェーン現象は、台風がトリガーとなって発生する強風であることも多い。富山県の中でも有数の伝統行事である、富山市八尾町の「おわら風の盆」の、厄を払う対象となっている「大風」も、開催時期の関係を考慮すると、低気圧性のフェーンよりもむしろ、台風によるフェーン現象による「大風」であると考えることができる。また、この行事は、田口(1941)の 風祭の一種とも考えられる。富山県の平野部の市街地では、フェーン現象によって大火事がたびたび発生しており、たとえば、1956年の台風12号による魚津大火は、死者を多数出し、市街地が全滅した大災害である(たとえば、読売新聞社、2006)。魚津市では後に、これを教訓に防火地域を設定し、火災に強い街づくりを進めている。本稿では、1981~2000年 における台風の位置と富山県における強風の関係を解析したものである。富山県の強風については、吉野・福岡(1967)の気圧配置型を用いた気圧配置ごよみ(吉野・山川、2002)を用いてⅥ型(台風型)に分類された日の強風に関して、また他の型であっても台風を伴う風と判断した事例を用いた。
著者
田畑 弾 山川 修治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.211, 2011

はじめにKBSの大きな目的は、気象官署の観測網でとらえにくいAMeDASレベルの、気圧の急降下、メソ低気圧、前線内の気圧変動などのメソ擾乱に対して、気圧の行方を明瞭な形にすることである。たとえば、Kusunoki,et.al.,(2000)によって ドップラーレーダーで解析されている低層上空(850hPa程度)の低層上空に発生する安定層内における内部重力波や山岳波動の影響を、地上の観測で補完し、新たに地上での影響を考察することも可能となる。2010年4月より本格稼動したKBS(関東気圧システム解析プロジェクト)によって得られたデータのうち、2010年9月23日に前線内の気圧変動に関して顕著な事例が発生したため、今回はこの内容を報告する。データと方法気圧:KBS・気象官署の観測値→月平均をとりその偏差風向風速:AMeDASの10分値以上の関東地方の範囲で作成した図を解析の基本図とする。雨雲の動きは気象庁レーダーエコー図を参照。結果と考察09:00の総観場を見ると、秋雨前線(停滞前線)が関東地方の南岸にあり、銚子沖に低気圧が解析されている。雨雲レーダーを援用すると、この北側で台風の影響を受けた雨雲が発達している。 KBS各観測点の気圧データを挙げると、北関東では気圧の変動が強く、特に榛名山東麓では12:46~13:12の間に+1.9、小山では11:54→12:02で+2.1、直後12:10までに-2.9、さらに12:18までに+1.4という急変動が観測された。それに対して南関東では、長い時間での1.5以上の気圧の変動はあるものの、短い期間での急変動はあまり見られない。基本図とレーダーエコーの図を挙げると、基本的には前線内でNE5~10m/sの風が吹走しているが、前線南部と考えられる勝浦・鴨川付近はSW風となっている。10:30に宇都宮で+1.6と局地的に高い気圧を壬生と日光を巻き込む形で記録している。この領域は10:50までに東に移った。11:20に熊谷で+1.9を観測したときは、日光・宇都宮・壬生・小山・館林を巻き込んでいるが、この10分後には-1.4と-3.3hPa落ち込んだことになる。熊谷ではN→Eと風向が変化している。この後、栃木県内で局地的に高圧部が現れ、12:00では、高根沢で+1.9、小山では+1.4の値を示しているのに対して、宇都宮が+0.3、壬生が+0.1を出すといったコントラストがみられる。13:00には榛名山東麓で+1.3、前橋で+1.2、赤堀で+0.7、桐生で+0.8の高圧域を出し、この領域は14:00までに南に広がり、東に移動している。その後、栃木県内の各地点で-0.5を超す気圧の急下降域が観測された。KBSデータでの「波形」は、先述の通り北関東では周期的に気圧が変動し、南関東はその波が緩い。これを考察すると、雷雨高気圧・ダウンバースト的な下降流、周辺山地の影響による山岳波動が要因として考えられる。レーダーエコーの図を援用して考察すると、高圧域となっているところは基本的に雷雨高気圧によるものとみられる。さらに、09:00における館野の高層観測データを参照すれば、950~925hPaで安定層が認められ、前線面上の安定層が波動を伝えている可能性が考えられる。