著者
田窪 祐子
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.91-108, 1996-09-20 (Released:2019-03-26)

原発政策をめぐっては、巨大な影響を持つだけに様々な形の決定方法が模索されている。本稿ではカリフォルニア州で1976年に成立した「ウォーレン・アルキスト法修正条項」(通称“原子力安全法”)を取り上げ、日本の原発政策とは異なる意志決定過程を分析する。この条項は原発の新規建設を事実上不可能にすることでアメリカの原発政策におけるマイルストーンとなったものである。条項の成立の背景には「イニシアティブ」制度を利用した市民の側の法案提出の運動があった。州法政策決定に関わる複数のアリーナ(主張が公になされる場)に焦点を当てて原発がイッシューとして登場する時点から立法的措置がなされるまでを分析し、アリーナ間の相互作用と日本にはない「イニシアティブ」という公共アリーナの果たす機能について考察する。
著者
田窪 祐子
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.8, pp.24-37, 2002-10-31

本稿は,社会運動や自治体など政策過程に関わる諸主体の活動の「結果outcome」に注目して,エネルギー政策転換の可能性を左右する要因を検討しようとするものである。日本と,原子力・化石燃料から再生可能エネルギー重視へとシフトした西欧諸国,とくにドイツにおける,エネルギー政策の決定段階および実施段階における諸主体の役割の検討を行う。仮説的な結論として次の2点を提示する。国レベルの抜本的政策転換は,ドイツの脱原子力合意がなされた過程からみても,必ずしも直接的な「市民参加」を要請するものではなくむしろその逆である。逆に実施段階における新たな代替案としての再生可能エネルギーの導入には,アドボカシーのみではなく実践を行っていく運動がカギになる。
著者
田窪 祐子
出版者
富士常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては、2000年に「脱原子力合意」を達成し、同時に再生可能エネルギー促進を中心とするエネルギー政策の転換を行いつつあるドイツと、依然として原子力を主要エネルギー源と位置づけている日本を比較し、政策転換を規定する要因は何であるのかに焦点を当てて調査と分析を行った。調査の方法は、関係者へのインタビューと資料の収集分析を中心とする質的調査である。ドイツ調査におけるインタビュー対象者は、政党・環境省、経済省などを中心とする政府(98年以降の社民党と緑の党の政権)関係者・環境運動団体・電力業界関係者、等の諸主体のうち、脱原子力合意のプロセスに関わった担当者らを中心に選択した。研究成果として、以下のことが明らかになった。1)ドイツの「脱原子力合意」は、原子力からの撤退を大前提とするならば、電力業界にとって有利な受け容れやすいものであった。2)合意の背景には、電力市場自由化をはじめとするエネルギーをめぐる社会経済的条件の変化に加え、州の権限が強い連邦制国家において原子力推進に批判的な政権の誕生、反対運動の激化による社会的コストの上昇等々の政治的状況も大きく影響している。3)合意に至るプロセスは、政府関係者と電力業界トップとの話し合いによるものであり、極めて閉鎖的なものであった。より持続可能性の高い環境政策を策定するにあたっての政策策定過程は、必ずしも「環境民主主義」の達成を伴うものではないことが推測される。4)日本におけるエネルギー政策は、基本的に大きく転換したとはいえない。自治体・市民有志らによる導入の試みが各地でなされてきているが、全体的な構造転換を促すには至っていない。