著者
田窪 祐子
出版者
富士常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては、2000年に「脱原子力合意」を達成し、同時に再生可能エネルギー促進を中心とするエネルギー政策の転換を行いつつあるドイツと、依然として原子力を主要エネルギー源と位置づけている日本を比較し、政策転換を規定する要因は何であるのかに焦点を当てて調査と分析を行った。調査の方法は、関係者へのインタビューと資料の収集分析を中心とする質的調査である。ドイツ調査におけるインタビュー対象者は、政党・環境省、経済省などを中心とする政府(98年以降の社民党と緑の党の政権)関係者・環境運動団体・電力業界関係者、等の諸主体のうち、脱原子力合意のプロセスに関わった担当者らを中心に選択した。研究成果として、以下のことが明らかになった。1)ドイツの「脱原子力合意」は、原子力からの撤退を大前提とするならば、電力業界にとって有利な受け容れやすいものであった。2)合意の背景には、電力市場自由化をはじめとするエネルギーをめぐる社会経済的条件の変化に加え、州の権限が強い連邦制国家において原子力推進に批判的な政権の誕生、反対運動の激化による社会的コストの上昇等々の政治的状況も大きく影響している。3)合意に至るプロセスは、政府関係者と電力業界トップとの話し合いによるものであり、極めて閉鎖的なものであった。より持続可能性の高い環境政策を策定するにあたっての政策策定過程は、必ずしも「環境民主主義」の達成を伴うものではないことが推測される。4)日本におけるエネルギー政策は、基本的に大きく転換したとはいえない。自治体・市民有志らによる導入の試みが各地でなされてきているが、全体的な構造転換を促すには至っていない。
著者
帆足 養右 平林 祐子 船橋 晴俊 寺田 良一 池田 寛二 高田 昭彦 鳥越 皓之 海野 道郎 関 礼子 藤川 賢
出版者
富士常葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本プロジェクトでは、1)環境問題史および環境問題の社会調査史の整理、2)アジア・太平洋地域諸国における環境問題の歴史的展開と環境社会学的調査および研究動向の把握、3)わが国における環境社会学の形成・発展の過程の総合的検討、の3つの作業を行い、下記の成果をまとめた。(1)故飯島伸子・富士常葉大学教授が遺された、公害・環境問題の社会調査資料約6,000点の整理分類とデータベース作成作業を行い、それらを収めたCD(Ver.2)と文庫の概要を示すパンフレットを作成した。「飯島伸子文庫」は、環境社会学と社会調査についてのアーカイブとして完成し、一般に利用可能となった。(2)研究分担者らがそれぞれのテーマで、環境社会学の理論的、実証的研究を行い、26本の論文からなる報告書(全423頁)にまとめた。論文のテーマは、飯島伸子文庫と環境年表、日本の公害・労災問題、環境問題と環境運動、環境社会学理論と環境教育、地球とアジア・太平洋地位の環境、の5つに大別される。(3)飯島教授の代表的著作『公害・労災・職業病年表』(公害対策技術同友会,1977年)の索引付新版を出版し(すいれん社より2007年6月刊行)、さらにその「続編」に相当する(仮称)『環境総合年表(1976-2005)』のための準備資料として、『環境総合年表(1976-2005)準備資料1・統合年表』(全317頁)と、『環境総合年表(1976-2005)準備資料2・トピック別年表』(全166頁)を、本プロジェクトのメンバーらで分担・協力して作成した。これらは、主要な公害/環境問題について、分担者らがトピック別に重要事項を挙げた年表を作成する方式で編集され、全部で65のトピックを扱っている。今後更なるデータの吟味・追加が必要ではあるが、飯島教授の仕事を引き継ぎながら、環境問題および環境社会学と調査史について総合的に辿ることのできる資料となっている。