著者
田辺 晋 石原 与四郎
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.201-213, 2020-07-31 (Released:2020-08-07)
参考文献数
50
被引用文献数
4 5

東京湾の湾岸部を含む東京低地南部における5,767本のボーリング柱状図から,沖積層の基底深度を読み取り,クリキング法による空間補間を行うことで,沖積層の基盤地形を復元した.東京低地南部では,現在の荒川に沿って,古東京川開析谷が南北方向に縦断しており,その両岸には海洋酸素同位体ステージ(MIS) 5aとMIS 3,最終氷期最盛期(LGM)の前半に形成されたと考えられる3段の埋没段丘が分布する.古東京川開析谷の左岸と右岸の埋没段丘は,それぞれ行徳開析谷と古神田川開析谷によって開析される.行徳開析谷と古神田川開析谷の基底には沖積層基底礫層(BG)が認められず,礫による被覆効果が無かったために,LGMにかけた海水準低下に伴った河川の下刻による起伏地形が顕在化したと考えられる.
著者
田辺 晋 堀 和明 百原 新 中島 礼
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.135-153, 2016-04-15 (Released:2016-06-21)
参考文献数
94
被引用文献数
11 15

日本列島における「弥生の小海退」は,その存在が認められる地域と認められない地域が明確になっておらず,その存在が報告された地域においても,海水準インデックス・ポイントが連続的に得られていないことに問題がある.筆者らは,利根川低地最奥部において,水深が約1~2mと推定され,3~2cal kyr BPの海水準上昇に伴って形成されたと考えられる湖沼堆積物を発見した.その堆積年代と分布深度は,水深を推定値の最大の2mと仮定しても,海水準が3.0cal kyr BPには標高-2.2mまで低下したことを示す.この低下量は予想される圧密の総和よりも大きく,また,周辺では大規模なテクトニックな地殻変動は考えにくい.したがって,この事象は利根川低地最奥部に「弥生の小海退」が存在したことを意味する.このような相対的海水準低下の要因としては堆積物荷重の影響を今後最も検討しなければならない.
著者
田辺 晋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.127, no.10, pp.635-648, 2021-10-15 (Released:2022-01-01)
参考文献数
65
被引用文献数
3

関東平野の中央部には,北西・南東方向の中央構造線に沿って,最終氷期最盛期(LGM)までに形成された古東京川開析谷と中川開析谷,荒川開析谷,多摩川開析谷が分布する.これらの開析谷は台地を開析する小規模な枝谷を有し,その周囲には,海洋酸素同位体ステージ(MIS)5cの大宮面,MIS 5aのT1面,MIS 3のT2面,LGM前半のT3面の,少なくとも4段の埋没平坦面が存在する.本調査地域北部の加須低地に埋没する大宮面は緩やかに西に上がる傾斜を示しており,太田断層と関連した活構造の存在の可能性が指摘される.
著者
田辺 晋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.55-72, 2019-01-15 (Released:2019-04-15)
参考文献数
79
被引用文献数
5 4

東京低地と中川低地における沖積層のシーケンス層序と古地理を詳細に解明した結果,沖積層の形成機構に関する次の3つの知見を得ることができた.(1)蛇行河川堆積物を構成するチャネル砂層は,海水準上昇速度が大きい時期にはアナストモーズ状の形態を有し垂直方向に累重するのに対して,海水準上昇速度が小さい時期にはシート状の形態を有し水平付加する.(2)一部の海進期のエスチュアリーシステムは,河川卓越型エスチュアリーとして分類されるべきであり,その湾頭部の潮下帯にはローブ状で上方細粒化する砂体が存在する.(3)潮汐の卓越した溺れ谷などの内湾では,湾内に流入する河川が存在しなくても,湾外から運搬された泥質砕屑物が側方付加することによって埋積され,上方細粒化相が形成される.特に(1)は海水準の変動率が浅海成層と同様に沖積平野の河成層の地層形成に重要な支配要因であることを示す.
著者
田辺 晋 石原 与四郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.5, pp.350-367, 2013-05-15 (Released:2013-09-28)
参考文献数
57
被引用文献数
9 10

日本の沿岸河口低地の沖積層に一般的にみられる最上部陸成層は,これまでその分布深度や堆積年代にもとづいて“弥生の小海退”の根拠とされてきた.しかし“弥生の小海退”の存在は汎世界的なコンセンサスを得ているわけではない.東京低地と中川低地の最上部陸成層の堆積相と放射性炭素年代値を整理したところ,最上部陸成層を構成する氾濫原堆積物が標高-1 m以浅に分布し,最上部陸成層の下部(標高-7~-3 m,約3~2 ka)と上部(標高-3 m以浅,約2~0 ka)で河川システムの形態がシート状からアナストモーズする河川チャネル堆積物へと変化することが明らかになった.シート状とアナストモーズする河川チャネル堆積物はそれぞれ低海水準期と海水準上昇期に一般的である.したがって,これらの事象は,約3~2 kaに相対的な海水準が現在よりも低く,その後現在にかけて上昇したことによって整合的に説明することができる.
著者
田辺 晋 石原 与四郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.5, pp.350-367, 2013
被引用文献数
10

日本の沿岸河口低地の沖積層に一般的にみられる最上部陸成層は,これまでその分布深度や堆積年代にもとづいて"弥生の小海退"の根拠とされてきた.しかし"弥生の小海退"の存在は汎世界的なコンセンサスを得ているわけではない.東京低地と中川低地の最上部陸成層の堆積相と放射性炭素年代値を整理したところ,最上部陸成層を構成する氾濫原堆積物が標高-1 m以浅に分布し,最上部陸成層の下部(標高-7~-3 m,約3~2 ka)と上部(標高-3 m以浅,約2~0 ka)で河川システムの形態がシート状からアナストモーズする河川チャネル堆積物へと変化することが明らかになった.シート状とアナストモーズする河川チャネル堆積物はそれぞれ低海水準期と海水準上昇期に一般的である.したがって,これらの事象は,約3~2 kaに相対的な海水準が現在よりも低く,その後現在にかけて上昇したことによって整合的に説明することができる.
著者
中澤 努 中島 礼 植木 岳雪 田辺 晋 大嶋 秀明 堀内 誠示
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.5, pp.349-368, 2006 (Released:2006-09-14)
参考文献数
58
被引用文献数
7 12

大宮台地の地下に分布する更新統下総層群木下層の形成過程について,コアの層相および産出する化石群集を基にシーケンス層序学的な検討を行った.大宮地域の木下層は,開析谷システムにより形成された下部とバリアー島システムによって形成された上部に分けられ,下部および上部のそれぞれに上方細粒化と上方粗粒化のセットからなる堆積相累重様式が認められる.花粉化石とテフロクロノロジーおよびMISカーブの対比に基づくと,下部はMIS6~5e前期,上部はMIS5e後期に対比され,下部の開析谷システムは低海面期堆積体および海進期堆積体,上部のバリアー島システムは高海面期堆積体と解釈される.