著者
白尾 泰宏 小牧 順道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100477, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】上部体幹の不良姿勢として頭部前方位がある。この不良姿勢は頚部後方組織のメカニカルストレスの増大や、肩甲帯機能不全の主因とされており、その発生機序としてJandaが提唱する上部交差症候群といわれる筋のアンバランスが存在するといわれている。臨床上、腱板損傷やインピンジメント症候群等の肩疾患においてこの頭部前方位の不良姿勢が存在していることをよく経験する。今回の研究は、頭部中間位と前方位における肩甲帯周囲筋の筋活動を分析し肩甲帯機能への影響を調査するものである。【方法】健常成人11名(男性3名女性8名平均年齢31.5歳)を対象に、背もたれ付椅子に坐位となり利き手側肩関節中間位で90°屈曲し1kgの重錘バンドを手関節に乗せ、3秒間保持し頭部中間位、頭部前方位(5cm前方移動)での棘下筋、三角筋前部線維、前鋸筋、僧帽筋上部線維、僧帽筋下部線維の筋活動を調査した。頭部位置は椅坐位にて骨盤中間位としレッドコードを使用して矢状面での肩峰中心と外耳孔の位置を測定しそれぞれの頭部位置を決定した。筋活動分析にはキッセイコムテック社製コードレス表面筋電計MQ-AIRを使用し、測定筋の位置は、棘下筋は肩甲棘の中央下2横指、三角筋前部線維は肩峰前端と三角筋粗面を結ぶ線上の肩峰下2横指、前鋸筋は肩甲骨下角外側2横指、下1横指、僧帽筋上部線維は第7頸椎棘突起と肩峰を結ぶ中間、僧帽筋下部線維は肩甲棘内側と第8胸椎棘突起を結ぶ線上の肩甲棘内側を結ぶ上3分の2とした。測定筋はアルコール綿にて処理を行ないサンプリング周波数1000Hzにて測定した。得られたデータは同社製BIMUTAS-Videoにて解析し、1秒間の実効値(Root Mean Square RMS)を求めた。さらにKendall式徒手筋力テストにて各筋の最大筋力を測定し、1秒間のRMSを求め測定したRMSを最大筋力のRMSで除し%MVCを求め比較した。統計処理は頭部位置別筋活動測定値の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient ICC)を求め、excel statcel 2を用いて二つの頭部位置間の比較にはpaired-t testを、各頭部位置における各筋の筋活動の比較は一元配置分散分析をおこない有意差を認めたのでBonferroniにて多重比較検定を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】頭部位置別筋活動測定値のICCは棘下筋0.89、三角筋前部線維0.82、僧帽筋上部線維0.86、僧帽筋下部線維0.90で良好であった。頭部前方位では頭部中間位と比較し棘下筋、前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられた(P<0.05)。また、頭部中間位では前鋸筋と僧帽筋下部線維間に有意差を認めた(P<0.05)が、頭部前方位では各筋活動に有意差は認められなかった。【考察】頭部前方位での前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられたが、これはWeonら先行研究と同様の結果となった。その要因としてMcleanは頭部前方位では肩甲挙筋が過活動し、その拮抗筋である前鋸筋は相反神経抑制されるとしている。また、頭部中間位では前鋸筋が僧帽筋下部線維に比較し筋活動量が大きく有意差があり前鋸筋による肩甲骨安定化作用がみられるが、頭部前方位では僧帽筋下部の活動が増加し頭部中間位とは異なる肩甲骨安定化作用がみられた。したがって、僧帽筋下部線維の筋活動の増大は前鋸筋の代償作用と推察される。頭部前方位での棘下筋の活動性低下は肩甲上腕関節の求心位の低下を惹起し、さらに前鋸筋の活動低下による肩甲帯不安定性からouter muscle優位になり、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化が起こりImpingement症候群の一要因となる可能性が推察される。しかし、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化については筋活動からの推測であり、実際の上腕骨頭偏位の確認にはレントゲン等による比較検討が必要である。また今回の研究では肩関節挙上角度が90°のみであり、その他様々な角度や肩甲面での挙上による筋活動の検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】肩甲上腕関節の障害では肩甲帯の位置異常が臨床場面での問題点としてフォーカスされるが、頭部位置異常も肩甲帯機能に影響を及ぼす要因となること、そして頭部前方位の肩甲帯筋活動を明確にしていくことでImpingement症候群や腱板損傷の発生メカニズムの解明、治療、予防に応用できると思われる。
著者
白尾 泰宏 小牧 順道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100477, 2013

【はじめに、目的】上部体幹の不良姿勢として頭部前方位がある。この不良姿勢は頚部後方組織のメカニカルストレスの増大や、肩甲帯機能不全の主因とされており、その発生機序としてJandaが提唱する上部交差症候群といわれる筋のアンバランスが存在するといわれている。臨床上、腱板損傷やインピンジメント症候群等の肩疾患においてこの頭部前方位の不良姿勢が存在していることをよく経験する。今回の研究は、頭部中間位と前方位における肩甲帯周囲筋の筋活動を分析し肩甲帯機能への影響を調査するものである。【方法】健常成人11名(男性3名女性8名平均年齢31.5歳)を対象に、背もたれ付椅子に坐位となり利き手側肩関節中間位で90°屈曲し1kgの重錘バンドを手関節に乗せ、3秒間保持し頭部中間位、頭部前方位(5cm前方移動)での棘下筋、三角筋前部線維、前鋸筋、僧帽筋上部線維、僧帽筋下部線維の筋活動を調査した。頭部位置は椅坐位にて骨盤中間位としレッドコードを使用して矢状面での肩峰中心と外耳孔の位置を測定しそれぞれの頭部位置を決定した。筋活動分析にはキッセイコムテック社製コードレス表面筋電計MQ-AIRを使用し、測定筋の位置は、棘下筋は肩甲棘の中央下2横指、三角筋前部線維は肩峰前端と三角筋粗面を結ぶ線上の肩峰下2横指、前鋸筋は肩甲骨下角外側2横指、下1横指、僧帽筋上部線維は第7頸椎棘突起と肩峰を結ぶ中間、僧帽筋下部線維は肩甲棘内側と第8胸椎棘突起を結ぶ線上の肩甲棘内側を結ぶ上3分の2とした。測定筋はアルコール綿にて処理を行ないサンプリング周波数1000Hzにて測定した。得られたデータは同社製BIMUTAS-Videoにて解析し、1秒間の実効値(Root Mean Square RMS)を求めた。さらにKendall式徒手筋力テストにて各筋の最大筋力を測定し、1秒間のRMSを求め測定したRMSを最大筋力のRMSで除し%MVCを求め比較した。統計処理は頭部位置別筋活動測定値の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient ICC)を求め、excel statcel 2を用いて二つの頭部位置間の比較にはpaired-t testを、各頭部位置における各筋の筋活動の比較は一元配置分散分析をおこない有意差を認めたのでBonferroniにて多重比較検定を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】頭部位置別筋活動測定値のICCは棘下筋0.89、三角筋前部線維0.82、僧帽筋上部線維0.86、僧帽筋下部線維0.90で良好であった。頭部前方位では頭部中間位と比較し棘下筋、前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられた(P<0.05)。また、頭部中間位では前鋸筋と僧帽筋下部線維間に有意差を認めた(P<0.05)が、頭部前方位では各筋活動に有意差は認められなかった。【考察】頭部前方位での前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられたが、これはWeonら先行研究と同様の結果となった。その要因としてMcleanは頭部前方位では肩甲挙筋が過活動し、その拮抗筋である前鋸筋は相反神経抑制されるとしている。また、頭部中間位では前鋸筋が僧帽筋下部線維に比較し筋活動量が大きく有意差があり前鋸筋による肩甲骨安定化作用がみられるが、頭部前方位では僧帽筋下部の活動が増加し頭部中間位とは異なる肩甲骨安定化作用がみられた。したがって、僧帽筋下部線維の筋活動の増大は前鋸筋の代償作用と推察される。頭部前方位での棘下筋の活動性低下は肩甲上腕関節の求心位の低下を惹起し、さらに前鋸筋の活動低下による肩甲帯不安定性からouter muscle優位になり、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化が起こりImpingement症候群の一要因となる可能性が推察される。しかし、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化については筋活動からの推測であり、実際の上腕骨頭偏位の確認にはレントゲン等による比較検討が必要である。また今回の研究では肩関節挙上角度が90°のみであり、その他様々な角度や肩甲面での挙上による筋活動の検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】肩甲上腕関節の障害では肩甲帯の位置異常が臨床場面での問題点としてフォーカスされるが、頭部位置異常も肩甲帯機能に影響を及ぼす要因となること、そして頭部前方位の肩甲帯筋活動を明確にしていくことでImpingement症候群や腱板損傷の発生メカニズムの解明、治療、予防に応用できると思われる。
著者
白尾 泰宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0433, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】歩行中の進行方向に対する足部の角度(以下,足角)は重要なアライメント要素であり7°~13°外旋が正常であるとされている。その要因としては,股関節の回旋,脛骨大腿関節での回旋,大腿骨や脛骨の捻転など骨性,関節性,神経筋性の要因が考えられているが,骨性因子の報告は少ない。今回の研究は,その要因である骨性因子と歩行時足角の関係を調査することである。【方法】下肢疾患の無い健常成人22名44下肢(男性11名,女性11名,平均年齢31.4歳)を対象とした。足角(toe out angle)は,zebris社製FDM-TLRシステムを用いて,トレッドミル上を自由歩行で任意の速度を決定後,試技を1分間行い,その後の30秒間を解析ソフトWin FDM-Tで2回計測し,平均値を算出した。股関節捻転角(femoral neck torsion以下FNT)はブルースラントダイヤル式角度計(感度0.1146°精度±1.0°以内)足底に固定しcraig testに準じて測定した。脛骨捻転角(tibial torsion 以下TT)は腹臥位膝90°屈曲位で,脛骨内果と腓骨外果の中央を結ぶ線と,大腿骨顆部中央を結ぶ線のなす角度をゴニオメーターを用いて測定した。それぞれ2回測定し平均値を算出し,得られたデータは級内相関係数を求め,次にTOAとFNT,TTをスピアマン順位相関係数の検定を行なった。各角度の群間比較ではWelch’s t-testを行い,全ての有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した。【結果】級内相関係数は,足角(右0.97 左0.99),大腿骨前捻角(右0.97 左0.98),脛骨前捻角(右0.72 左0.77)であった。相関係数の検定では,足角とFNTには有意な相関がみられた(rs=-0.4719 P=0.0017)が,脛骨捻転角では低い相関はあるものの有意差はみられなかった(rs=0.02896 P=0.8387)。各平均値は足角(男性9.43±5.1°女性6.36±3.51°P=0.0258),FNT(男性15.27±6.13°女性23.88±8.34°P=0.00036)で有意差がみられたが,TTでは(男性15.02±3.35°女性13.2±3.38°P=0.0967)有意差はみられなかった。【考察】歩行時足角とFNTは負の相関であることから,FNTの増大は足角減少に作用することが示唆された。SahrmannらはこのFNTの増大は,中殿筋後部線維の延長・弱化による股関節内旋の優位性を報告しており,歩行時の股関節内旋が起こりやすい状態が推察される。また,宮辻らは,自由歩行における足角の男女比において女性の足角が有意に減少したと報告しており,今回の研究も同様の結果となった。また,女性高齢者では同若年者と比較し足角が増大したと報告している。つまり,加齢にともなうバランス能力・筋機能低下から,その代償作用として足角を変化させ安定性を獲得していると思われる。しかし,FNTが増大した条件下での足角増大は膝関節にknee in toe outの回旋ストレスを誘発させることが推察される。また,同様に女性non contactスポーツに発生頻度の高い膝前十字靱帯損傷の発生メカニズムの要因にも,このFNT増大の条件下での足角増大による回旋ストレスが関与しているのではないかと思われる。したがって,この3つの形態評価は膝障害へのマルアライメントの解釈に重要と思われる。しかし,今回の研究では歩行時の膝関節回旋角度の評価を行なっていないため,脛骨・大腿骨の回旋角度と,足角,FNT,TTをパラメーターとした調査が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】臨床において,歩行分析を行なう上で膝回旋ストレスを考える際,動的な股関節・足部の影響が考慮されるが,あらかじめ解剖学的構造的特性を評価することで,その解釈の情報の一部になると思われる。また,さまざまな膝疾患の発生メカニズム解明の一助として意義がある。
著者
村山 佑一郎 南野 大佑 多田 克史 白尾 泰宏
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.274, 2016

<p>【はじめに】</p><p>ジュニア期のサッカーにおけるスポーツ障害は膝関節が最も多いといわれている。菅原らはジュニア期のサッカー選手に圧痛検査を行い、脛骨粗面に圧痛が多かったことを報告している。臨床の中でも、ジュニア期のサッカー選手において脛骨粗面の圧痛を訴えることが多く、その要因に下肢筋の柔軟性低下があることが多いように感じる。そこで今回の目的は、ジュニア期のサッカー選手を対象に脛骨粗面の圧痛と、下肢筋の柔軟性低下が関連しているのか検討した。</p><p>【対象および方法】</p><p>サッカーのクラブチームに属している12~15歳の24 名48側(平均年齢:13.53±0.62歳、平均身長:151.11±7.31cm、平均体重:43.2±7.36kg)であった。脛骨粗面の圧痛検査を行い、圧痛有り群、無し群で下肢筋の柔軟性を比較した。腸腰筋はトーマス法(対側の膝窩から床までの距離を0.1cm単位で測定)、ハムストリングスはSLR角度(5°単位で測定)、大腿四頭筋はHBD(腹臥位で膝関節を他動的に屈曲していき軽度の抵抗で停止した位置での踵と殿部の距離を0.1cm単位で測定)、下腿三頭筋は膝伸展位での背屈角度(5°単位で測定)を測定した。統計学的処理にはShapiro-Wilkの正規性検定行いMann-Whitney検定行った。</p><p>【結果】</p><p>圧痛有り群は12膝、無し群は36膝であった。</p><p>腸腰筋では圧痛有り群5.02cm、無し群5.24cmで有意差はみられなかった (P>0.05)</p><p>ハムストリングスでは圧痛有り群57.9°、無し群62.9°で有意差がみられた(P<0.05)</p><p>大腿四頭筋では圧痛有り群7.43cm、無し群4.12cm、で有意差がみられた (P<0.05)</p><p>下腿三頭筋では圧痛有り群8.76°、無し群12.1°で有意差がみられた (P<0.05)</p><p>【考察】</p><p>梅原の報告では、中学生年代は成長期にあり、骨の成長により筋が相対的に短縮した状態となり、筋の柔軟性は低下するとされている。そのうえ、スポーツ活動の負荷が加わることで、腱やその付着部の疼痛、筋の損傷といったスポーツ障害が生じやすいとされている。武井らは大腿四頭筋と下腿三頭筋の柔軟性低下がキック動作におけるBall impact時の軸足の下腿前傾の減少、上半身重心の後方変位に影響を及ぼす傾向があり膝伸展機構障害のリスクになりうると報告されている。また、倉坪らは、キック動作時に身体重心が後方化することでハムストリングスの柔軟性が低下し骨盤後傾位でのキック動作となるため膝関節伸展モーメントが増加し、大腿四頭筋が過活動となることを報告されている。大腿四頭筋が過活動することで脛骨粗面への牽引ストレスが増加し、脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え、牽引性の慢性スポーツ障害の発症の要因となりうると考える。高橋らは運動後にストレッチを行うことで痛みを有する可能性が低くなることを報告している。故にストレッチを行い、下肢筋の柔軟性を向上させることがスポーツ障害を予防する一助となると考える。</p><p>【まとめ】</p><p>中学生年代のサッカー選手は下肢筋の柔軟性が低下しやすく、脛骨粗面の圧痛の要因となり得ることがわかった。その為、ストレッチの重要性を監督、選手に理解してもらい練習の中に取り入れ、柔軟性の向上、スポーツ障害の予防につなげていきたいと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき、監督、選手に十分な説明と同意を得て、個人情報の保護など倫理的配慮を行った</p>