- 著者
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白岩 広行
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2007
日本語の推量形式には「明日はたぶん雨だろう」のように単に話し手の見込みを示す<推量>の用法と「ほら、あそこにポストがあるだろ」のように聞き手に確認を求める<確認要求>の用法がある。本研究は、これら推量形式について、より基本的な<推量>の用法から<確認要求>の用法が拡張してゆく過程を通時的に記述するものである。近世後期以降の中央語である江戸・東京のことばにおいて、ダロウにそのような通時的変化が見られること、また近年の諸方言ではそれがさらに進み、「推量」形式としての特性を失い、確認要求専用形式化しつつある例があることは、昨年度までに明らかになっている。本年度は、静岡・湘南などの若年層話者を対象に、方言推量形式の記述を進めつつ、言語接触の関わる事例として、沖縄・北海道の方言も視野に入れた。沖縄若年層方言(ウチナーヤマトグチ)の場合、伝統的な方言形式ハジを引きずる形で、ハズという形式が「推量」の意味を強固に担っているため、標準語から取り入れられた推量形式ダロウ・デショウの使用が<確認要求>に偏っている。これは南米の沖縄系移民コミュニティでも同様のようである。また、北海道(内陸部)方言の場合、開拓による方言接触後、いわゆる「北海道共通語」が形成された時点で、推量形式ベ・ショは文末でしか用いられなかったであろうことが、移住後3世にあたる現在の後年層話者への聞き取りで確かめられた。また、ベ・ショは、標準語の「デハナイカ」相当の用法(驚きの表示など)にまで、文末詞的な性格を強く保ちながら、意味を拡大していることを確かめた。