著者
白川 千尋
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.115-137, 2004-06-30

本稿は、日本のテレビ番組におけるメラネシア地域とそこで生活する人々の取り上げられ方について検討したものである。対象とした番組は1998年から2002年までの約5年間に放映された44件である。序論の第I章に続く第II章において、メラネシアのなかでとりわけどのような地域や人々が番組の対象としてより頻繁に選び出されているのかという点を明らかにした後、第III章と第IV章では、選び出された地域や人々の描かれ方の分析を行なった。また、第V章では、対称の選択の仕方や描き方をめぐる複数の番組間、あるいは番組と雑誌や図書などの間の参照関係を具体的に跡づけるとともに、そうした関係に対する民族誌的著作物の関与のあり方を明らかにすることも試みた。検討の対象とした番組ではイリアンジャヤやヴァヌアツ、パプアニューギニアの集落部や、腰蓑やペニスケースなどの「伝統的装束」を身につけた人々がとりわけ頻繁に取り上げられていた。また、番組ではもっぱらこれらの地域や人々の「近代的な世界」からの隔絶性が強調され、そうした世界との交流を示す事象は遠景に退けられたり捨象されていた。こうしたなかで、民族誌的著作物は番組製作者側によって番組を制作する際の情報源ないしアイデアの供給源として利用されることにより、対象の選択の仕方や描き方をめぐる参照関係のネットワークのなかに取り込まれていることが明らかになった。結論の第VI章では、こうした状況において人類学者が取り組むべき課題について触れた。
著者
白川 千尋
出版者
国立民族学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一昨年度と昨年度に続き、本年度も戦後日本のマスメディアにおけるオセアニア表象、とりわけメラネシア地域に関する異文化表象を主たる対象としながら、主に以下の研究活動を行った。1.1960年代から本研究に着手する前年(2002年)までに放映されたメラネシアを取り上げたテレビ番組における異文化表象のあり方の検討。2.同じ時期に出版されたメラネシアを取り上げた図書における異文化表象のあり方の検討。3.1.で検討の対象としたテレビ番組の制作過程に対する文化人類学者の関与のあり方の検討。その結果、主に以下の知見を得た。1.テレビ番組においては、各年代を通じて集落部を対象とした番組がきわめて多く、対照的に都市部のみを取り上げたものは皆無に等しい。また、番組のなかで取り上げられる人々はペニスケースや腰蓑といった出で立ちであることが多い。そして、これらの地域や人々に対して「秘境」、「未開」、「裸族」などの語が使われ、「近代的な世界から隔絶した世界に生きる人々」や「外部者を容易に寄せつけない未開人」といった提示の仕方がなされている。こうした傾向は1960年代から2002年まで大きく変化することなく続いている。2.図書においては、テレビ番組にみられたものと同じような傾向が、1960年代から70年代に出版されたものに関して認められる。しかしながら、そうした傾向は1980年代以降に出版されたものに関しては希薄になり、都市部を取り上げたもの、あるいはTシャツやズボン、ワンピースといった出で立ちの人々の写真を多く掲載したものも目立つようになっている。3.テレビ番組の制作過程に対する文化人類学者の関与は1960年代においては顕著であったが、海外での調査研究に関する基盤整備(科研費の充実化など)が進むとともに希薄化し、近年では番組制作者が番組の制作過程で文化人類学者の研究成果を一方的に「流用」する形になっている。上の1.で指摘したように、テレビ番組のなかでメラネシアとそこで暮らす人々は、1960年代からこの方、一貫して「未開」や「秘境」といったキーワードに収斂する形で表象されてきた。こうした表象が維持されてきた背景には、それがテレビ界の視聴率競争との関連で、視聴率を獲得するための重要な「資源」と目され、利用され続けてきたことがあると考えられる。なお、以上に述べた知見などについては、別に作成した報告書(『日本のマスメディアにおけるオセアニア表象の文化人類学的研究-平成15〜17年度科学研究費補助金研究成果報告書』)で詳述した。