- 著者
-
白木 彩子
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.1, pp.85-96, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
- 参考文献数
- 37
- 被引用文献数
-
4
2004年2月、北海道苫前町においてオジロワシの風車衝突事故による死亡個体が日本で初めて確認された。それ以降、本種の衝突事故の発生は続いているが、事故の対策はとられていない。オジロワシのような法的な保護指定種が多数死亡しているにも関わらず、実質的に放置されている現状には問題がある。そこで本報告は、これまでに発生したオジロワシの風車衝突事故の事例から事故の特徴や傾向について分析することと、事故の発生要因についてオジロワシの生活史や生態学的な特性から考察することを主な目的とした。また、これまでの保全の経緯も踏まえつつ、今後の保全対策のあり方について考えを述べた。2003年から2011年5月までに、北海道内の風力発電施設で確認された鳥類の風車衝突事故は20種を含む82件だった。このうちもっとも多いのはオジロワシの27件で、齢別にみると幼鳥を含む若鳥がほとんどを占め、主として越冬期にあたる12月から5月に事故が多い傾向がみられた。風車衝突事故による死亡個体のうち半数程度は北海道で繁殖する集団由来の留鳥であると推測されたが、個体群へのインパクトを正しく評価するためにも、今後、衝突個体が留鳥か渡り鳥なのかを明らかにすることは重要である。オジロワシの風車への衝突事故は風車が3基の施設で11件と最も多く、小規模の施設でも多数の事故が発生し得ることが示された。事故の発生した風車は海岸部の段丘崖上や斜面上にあるものが半数以上を占め、これらの地形はオジロワシにとって衝突するリスクの高い条件のひとつと考えられた。死骸の多くは衝突事故の発生から数日以内に発見されており、このことから、確認された死骸は実際に衝突死したオジロワシのうちの一部であることが推測された。現在のところ、風力発電施設によるオジロワシ個体群に対するインパクトを評価するために必要なデータは不十分な状況であるが、とくに地域集団に対する悪影響が懸念されることから、衝突事故の防止は急務と考えられる。具体的には、施設建設前の適切な立地選定と、稼働後に発生した事故対策措置である。衝突事故が発生している既存の風車については、今後の衝突の可能性を査定した上で、オジロワシの利用頻度の低い場所への移設や日中の稼働停止も含めた有効な事故防止措置の実施が望まれる。