著者
目加田 英輔 水島 寛人 麻野 四郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

エクトドメインシェディングとは、細胞膜蛋白質が細胞表面でプロテアーゼによる切断を受け、その細胞外ドメインが培養液中に放出される現象を示し、膜タンパク質の活性制御に非常に重要な意味を持つ。本研究の目的は、これまでのHB-EGF研究をベースに、シェディングに関る分子群を明らかにし、シェディングの調節機構と生物学的意義の解明を行うことである。この目的のために、以下の実験を計画した。1)HB-EGFを発現したヒト細胞にsiRNA発現ライブラリーを組み込まれたレンチウィルスベクターを感染し、siRNA発現細胞を得る。2)この細胞にエクトドメインシェディング誘導薬であるTPAを作用させると、ほとんどの細胞ではシェディングが誘導されるが、シェディングが起こらない細胞群を抗HB-EGF抗体で染色して、これをセルソーターで選別する。3)得られた細胞群の中で発現が低下している遺伝子をDNAアレイの手法で同定することで、エクトドメインシェディングに関わる遺伝子を網羅的に明らかにする。4)シェディングに関わることが示唆された遺伝子について個別に詳しく検証し、シェディング機構にどのように関わっているのか明らかにする。まず我々はジフテリア毒素耐性細胞のスクリーニングを行い、この手法が実際に稼働するかどうかの検証を行い、本法によって既知の遺伝子に加えて新規遺伝子の同定が可能であることを明らかにした。続いて、同手法にて、シェディングに関る分子群をスクリーニングし、候補遺伝子のリストを得た。現在、得られた候補遺伝子のリストから、個別にその遺伝子の機能を調べ、シェディングに関るかどうかを調査中である。
著者
宮本 新吾 目加田 英輔 園田 顕三
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の一つで、タキサン系・プラチナ系抗癌剤によりQOLの改善を認めるものの、その予後は未だ不良である。新たな抗癌剤開発が困難な現状では、卵巣癌に対する標的治療薬の開発が切望されている。しかしながら、現在まで、EGFRを中心にして分子標的治療の開発が行われているが、有効な卵巣癌治療薬は開発されていない。そこで、我々は、卵巣癌への新たな分子標的治療の開発を目的に、本研究において標的分子の同定およびその特異的抑制剤を用いた治療開発を行った。卵巣癌腹水中にはLPA(Lysophosphatidic acid)が高値に存在し、癌増殖活性化因子として作用していることが報告されている。LPAはEGFRリガンドを分泌型に変換し卵巣癌細胞増殖の中心的役割を担うEGFRを活性化する。したがって、EGFRリガンドの標的分子の可能性について明かにする目的で、腹水中および卵巣癌組織中ではEGFRリガンドの発現を検討した。その結果、HB-EGFが他のEGFRリガンドに比較し著明に発現が亢進していることを明らかにした。また、1)HB-EGFの発現を抑制すること2)HB-EGF分泌型にすることを抑制することで卵巣癌細胞のヌードマウス上での腫瘍形成が著明に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、HB-EGFは卵巣癌における標的分子であるあることを同定した。さらに、HB-EGFの特異的抑制剤であるCRM197投与がヌードマウス上での腫瘍形成を抑制することを証明した。このことから、無毒でありヒトへの投与可能であるCRM197は、卵巣癌分子標的治療薬として臨床応用可能であることを明らかにした。