著者
直井 萌香 釜江 陽一 植田 宏昭 Wei MEI
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.3, pp.655-668, 2020 (Released:2020-06-20)
参考文献数
48
被引用文献数
11 15

中緯度の細い水蒸気輸送帯は大気の川と呼ばれ、東アジアにしばしば重大な社会・経済的影響をもたらす。夏季東アジアにおける大気の川の活動は、先行する冬季エルニーニョの発達に大きく左右される一方で、冬季から夏季にかけてのENSOの季節的な遷移が大気の川の活動にどの程度影響するのかは、明らかになっていない。本研究では、大気再解析と高解像度大気大循環モデルによるアンサンブル実験の結果を用いて、ENSOの季節的な遷移と夏季東アジアにおける大気の川の活動の関係を調査する。先行する冬季のエルニーニョから夏季のラニーニャへと早く遷移した年には、エルニーニョが持続または衰退した年に比べ、西部北太平洋の下層の高気圧偏差がより北へ拡大することにより、東アジア北部でより多くの大気の川が通過する。この高気圧の北への拡大は、海洋大陸と赤道太平洋上の凝結熱加熱偏差に対する大気の定常応答と整合する。再解析と大気大循環モデル実験とでは、中緯度の大気の川と循環の偏差が生じる位置が南北にずれており、これにはサンプル数が限られることとモデルバイアスが影響している可能性があり、東アジアにおける大気の川に関連した地域ごとの自然災害リスクの季節的な予測には課題が残されていることを示唆している。