著者
相場 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.313-321, 2017 (Released:2017-12-05)
参考文献数
50
被引用文献数
4

日本から台湾・東南アジア島嶼部・ニューギニア・オーストラリア東岸を経てタスマニアとニュージーランドに至る西太平洋湿潤地域では、巨視的に見ると、寒冷な気候で針葉樹と落葉広葉樹が優占し、温暖な気候では常緑広葉樹が優占する。ただし、針葉樹が優占する植生帯は、北半球だけに存在する「落葉広葉樹林」(暖かさの指数、WI=45〜85℃、寒さの指数、CI<−15℃)を挟んで、「北方針葉樹林」と南北両半球にまたがる「温帯・熱帯針広混交林」という2つの森林帯に別れている。北方針葉樹林は夏が短く冬が厳しい大陸性気候(WI=15〜45℃、CI<−15℃)に成立するのに対し、両半球にまたがる温帯・熱帯針広混交林は寒い冬を欠く海洋性気候(WI<144℃、CI>−15℃)に成立する。さらに、熱帯低地を中心とするWI>144℃の地域には「熱帯・亜熱帯常緑広葉樹林」が分布し、西太平洋湿潤地域の森林帯は以上4つに大別される。北方針葉樹林は日本の高緯度または高標高に分布し、亜高山帯林や亜寒帯林とも呼ばれる。温帯・熱帯針広混交林は、日本では太平洋側の狭い標高帯に限って分布する(いわゆるモミ・ツガ林など)が、台湾やニュージーランドではより広い標高帯に渡って(より暖かい気候にまで)分布する。これら両半球の温帯針広混交林は、東南アジアやニューギニアの熱帯山地の針広混交林へと連続的に変化していく。以上のことから、針葉樹が優占する温帯・熱帯林を総称して、北方針葉樹林とは独立した、温帯・熱帯針広混交林と名付けたのである。温帯・熱帯針広混交林では、比較的涼しい夏(熱帯山地では年を通じた低温)が常緑広葉樹の生育を制限する一方、温暖な冬(熱帯山地では冬がないこと)が落葉広葉樹の生育を制限することで、針葉樹が優占しているのであろう。巨視的に見た時に針葉樹が寒冷な気候で優占することは、土壌の貧栄養条件と関連している可能性があり、広葉樹が優占する気候帯であっても貧栄養土壌上では局所的に針葉樹が優占しうることは、その可能性を支持する。西太平洋地域と世界各地を比較すると、東太平洋地域で2つの針葉樹林帯が連続するのと対照的であることを指摘した。
著者
北山 兼弘 清野 達之 里村 多香美 相場 慎一郎 長谷川 元洋 鈴木 静男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

この研究の目的は、樹木多様性がどのように熱帯降雨林生態系の機能を支配しているのかを明らかにすることであり、地域レベルの種多様性が極端に異なるハワイ諸島とマレーシアの比較を行った。4年間に渡り、2地域に設けた土壌発達傾度に沿った複数の森林試験地において毎木調査を行い、木部の肥大成長量を算出した。また、全試験地に設置されたリタートラップからリター回収を2週間から1ヶ月毎に行い、回収したリターの器官別仕分け及び乾重測定を行い、リターの生産速度を明らかにした。ハワイ諸島については過去2年の、マレーシアについては過去4年のリター生産量が明らかになった。肥大成長量にリター生産量を加味して、森林の地上部純一次生産量を算定した。土壌栄養の減少に植物や従属生物がどのように適応しているのかを明らかにするため、特に共生菌根菌に焦点を絞り、マレーシアの代表的なサイトに於ける菌根バイオマスと菌体バイオマスの定量化を行った。各サイトから土壌を採取し、細根、菌根、土壌の3つに仕分けし、エルゴステロールを生化学マーカーとして菌体量の定量分析を行った。また、土壌微生物群集の群集解析を生化学的PLFA法を用いて行った。また、貧栄養に対する樹木の適応を組織解剖学的に明らかにするために、材の通導組織観察と葉の水ポテンシャル測定を行った。以上の結果、地域の種多様性が高いと、土壌栄養塩の減少に対して、組織的、生態生理的により栄養塩利用効率の高い(適応的)種への入れ替わりが起こり、熱帯降雨林の機能は維持されるとの新たな知見が得られた。一方、地域の種多様性が低いと、種の入れ替わりが起こらず、土壌栄養塩量を反映して森林の機能は大きく変化した。この結果により当初の作業仮説は指示された。