著者
相川 拓也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.292-298, 2012

昆虫類には体内に微生物を宿し, その微生物と共生関係を築いている種が数多く存在する。ボルバキアは昆虫を含む節足動物や線虫類に広く感染している細胞内共生細菌で, 細胞質不和合, 雄の雌化, 雄殺し, 産雌性単為生殖などの方法で宿主生物の生殖機能を操作し, 自らを効果的かつ急速に宿主個体群中に広めてゆく。これまで, マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリからもこのボルバキアの遺伝子が検出されていたことから, マツノマダラカミキリにもボルバキアが感染していることが示唆されていた。ところが, その後の研究によって, ボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく, ボルバキアの遺伝子だけがマツノマダラカミキリの常染色体上に転移していることが明らかとなった。この事実は, マツノマダラカミキリに感染していたボルバキアは, 自らのゲノムの一部を宿主に残し, その後, 宿主から消え去ったことを示唆している。本稿ではこれまでの研究で明らかにされたマツノマダラカミキリとボルバキアの間の特異的な関係を詳しく紹介するとともに, それらの知見から導かれる今後の研究の方向性についても議論する。
著者
相川 拓也 杉木 章義 加藤 和彦
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌コンピューティングシステム(ACS) (ISSN:18827829)
巻号頁・発行日
vol.5, no.5, pp.138-151, 2012-10-15

サーバのチューニングは,性能を左右する重要なタスクである一方で,管理者にとって困難をともなう.パラメータの最適値は多くの場合, 1 回のチューニングでは求まらず,さまざまな試行錯誤を行う必要がある.また, 1 回の試行においても,サーバの設定を変更するだけではなく,複数台からなるクライアントの設定を変更し,起動するなど,煩雑な手続きが必要である.本研究では,このチューニングにおける試行錯誤の過程を効率化するスクリプティング環境を提案する.本提案では,サーバやクライアントなどチューニングに関連する要素をすべて分散オブジェクト化し,統一的な環境で高水準に試行の過程を記述可能とする.また,自動チューニングアルゴリズムのライブラリ化を行うことで,利便性の向上を図る.実験では, SPECweb2005 ベンチマーク下の Apache ウェブサーバと Hadoop を対象として実験を行い,本環境を利用してチューニングができることを確認した.Although parameter tuning is critical for server performance, that tuning process is error-prone and time consuming. An administrator must repeat many iterations to find an optimal configuration and even at each step non-trivial tasks, including proper configuration of a server and launching benchmark clients, are required. In this paper, we present a scripting environment for efficiently describing such tuning process. We offer distributed objects as ways to manipulate a server and benchmark clients. By this way, tuning process can be described by scripting them in an integrated environment. We also provide automatic tuning as a library for further efficiency. In the experiments, we confirmed that tuning of an Apache web server under SPECweb2005 benchmark and a Hadoop cluster were successfully possible in our tuning environment.
著者
中村 仁 佐々木 厚子 相川 拓也 市原 優 田端 雅進
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.98, 2011

岩手県の栽培ウルシ林の衰退原因について紫紋羽病の関与が疑われている.日本では紫紋羽病の病原菌として知られる<I>Helicobasidium mompa</I>の他に,<I>H. brebissonii</I>が青森県に分布することから,当該ウルシ林で発生している紫紋羽病菌の種同定を行った.2009年および2010年10~11月に岩手県北部10ヶ所のウルシ林で採集した子実体60試料から得た分離菌株の形態観察を行い,一部菌株についてはrDNA ITS領域の塩基配列を決定した.また2011年5月にウルシ林3ヶ所で胞子形成している子実体を採集し,形態観察を行った.その結果,46菌株のうち32菌株(8ヶ所由来)が<I>H. mompa</I>,7菌株(3ヶ所由来)が<I>H. brebissonii</I>と同定された.<I>H. brebissonii</I>については青森県以外での初確認であり,本種は東北地方北部に分布していることが示された.残り7菌株(2ヶ所由来)については,上記2種とは異なっていた.本未同定菌は,酸性V-8ジュース寒天培地上では菌糸塊形成がまれで気中菌糸の少ない菌叢となり,オートミール寒天培地上では貧弱な菌叢生長を示すなど上記2種の培養菌叢と区別できた。子実体上では前担子器のない,2個の小柄を有する,湾曲した円筒状の担子器を形成し,担子胞子は無色,卵形~楕円形で,大きさは7.5-12.8 x 4.5-8 &micro;mであり,これら特徴は<I>H. brebissonii</I>とほぼ一致あるいはその範囲内であった.また,国内の他紫紋羽病菌との分子系統関係を類推するためrDNA ITS領域を用いた系統樹を作成した結果、<I>H. brebissonii</I>とは異なるクレードを形成した.<I>H. brebissonii</I>と近接した場所で発生している場合があり,生殖的な隔離が存在すると推察されたことから,本菌を国内既知種とは異なる種,<I>Helicobasidium</I> sp.と同定した.以上から,岩手県の栽培ウルシ林には,国内初確認の種を含む,<I>Helicobasidium</I>属3種が分布することが明らかになった.
著者
相川 拓也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.292-298, 2012-12-01 (Released:2013-03-07)
参考文献数
52

昆虫類には体内に微生物を宿し, その微生物と共生関係を築いている種が数多く存在する。ボルバキアは昆虫を含む節足動物や線虫類に広く感染している細胞内共生細菌で, 細胞質不和合, 雄の雌化, 雄殺し, 産雌性単為生殖などの方法で宿主生物の生殖機能を操作し, 自らを効果的かつ急速に宿主個体群中に広めてゆく。これまで, マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリからもこのボルバキアの遺伝子が検出されていたことから, マツノマダラカミキリにもボルバキアが感染していることが示唆されていた。ところが, その後の研究によって, ボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく, ボルバキアの遺伝子だけがマツノマダラカミキリの常染色体上に転移していることが明らかとなった。この事実は, マツノマダラカミキリに感染していたボルバキアは, 自らのゲノムの一部を宿主に残し, その後, 宿主から消え去ったことを示唆している。本稿ではこれまでの研究で明らかにされたマツノマダラカミキリとボルバキアの間の特異的な関係を詳しく紹介するとともに, それらの知見から導かれる今後の研究の方向性についても議論する。