著者
渡辺 敦史 田村 美帆 泉 湧一郎 山口 莉未 井城 泰一 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.298-304, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

二つのDNAマーカー,EST-SSRマーカーとgenomic SSRマーカーを利用してウルシ林の多様性評価を行った。EST-SSRマーカーは次世代シーケンサーを利用して新たに開発した。得られたEST情報から2塩基または3塩基モチーフの一定繰り返し数以上を示した21領域にプライマーを設計した結果,最終的に8マーカーが利用可能であった。8 EST-SSRマーカーおよび7 genomic SSRマーカーを利用して,全国各地のウルシ林9集団から採取した377個体を対象として分析した。ウルシは,渡来種であり,クローン増殖が容易であることから遺伝的多様性の喪失が懸念されたが,遺伝的多様性は近縁種であるハゼノキよりもやや高く,著しい喪失は認められなかった。クラスター分析・主座標分析・STRUCTURE分析の結果は,集団によっては特異性が維持されていることを示す一方で,種苗が移動したことによる集団内の遺伝構造の存在を示していた。クローンの存在や小集団化に伴うボトルネックは限定的であり,現在のウルシ林を適切に保存すれば,ウルシ遺伝資源は維持できると考えられる。
著者
田端 雅進 井城 泰一 田村 美帆 渡辺 敦史
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.87-95, 2023-03-01 (Released:2023-03-29)
参考文献数
32

国宝・重要文化財の保存・修復のために日本産漆の増産や安定供給が不可欠である。しかしながら,漆滲出量の多いクローンはほとんど明らかになっていない。本研究ではDNA分析によって茨城県7カ所の分根由来のウルシ林におけるクローン構造を解明し,複数のウルシクローンの漆滲出量を測定した。さらに漆滲出長,成長特性および葉特性と漆滲出量との関連性を調べ,漆滲出量の間接的な評価が可能な指標を探索した。その結果,調査したサイト1~7においてクローンA~Jの10クローンが検出され,検出されたクローンEが全体の約50%を占め,植栽個体に特定クローンの偏りが生じていた。漆滲出量はクローン間で有意な違いがあり,また胸高直径においてもクローン間差が認められ,胸高直径が大きいクローンで漆滲出量が多かった。また,成長・葉特性についてはサイトが異なってもクローンの順位がほとんど変わらず,10年生前後から20年生の個体を対象に漆滲出量の多いクローンを漆滲出長に加えて胸高直径や葉特性から簡易に判別できると考えられた。
著者
橋田 光 田端 雅進 久保島 吉貴 牧野 礼 久保 智史 片岡 厚 外崎 真理雄 大原 誠資
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.48-54, 2014-01-25 (Released:2014-01-28)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

未利用なウルシ材を染色用途に利用するため,ウルシ材の織布への染色特性を検討した。ウルシ材フェノール成分の効率的な熱水抽出条件を検討した結果,炭酸ナトリウムの添加が有効なことを明らかにした。抽出液による染色特性を検討したところ,ナイロン,羊毛及び絹で良好な染色性を示した。また,炭酸ナトリウム添加抽出による染液に酢酸を添加することで,熱水抽出より効率的な濃染が可能であり,金属塩を用いた媒染においてもより濃色に発色することが示された。洗濯処理により,未媒染の染色布は大きく脱色したが,媒染や濃染により脱色の抑制が可能であり,特に酢酸鉄(II)を用いた媒染による抑制効果が高かった。また,ウルシ材による染色布は,黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対し,明確な抗菌性を有することを明らかにした。
著者
松尾 晶穂 岩切 鮎佳 松下 範久 田端 雅進 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.254-261, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
34

ウルシの種子は,物理的休眠と生理的休眠を併せ持つ複合休眠状態にあると推測されている。ウルシ種子の発芽率を向上させるために,発芽促進に効果があると報告された方法を種子の物理的休眠と生理的休眠の打破に分けて評価した。ウルシ種子の物理的休眠の打破には,濃硫酸への60~120分の浸漬,または内果皮の一部除去が有効であった。濃硫酸に90分浸漬した後の種子では,種子の2カ所から吸水が始まることが観察された。濃硫酸浸漬後の種子に対する生理的休眠打破の方法としては,4~12週間の低温湿層処理が有効であった。しかし,内果皮を一部除去した後に低温湿層処理した種子は発芽しなかった。濃硫酸に90分浸漬させた後に8週間の低温湿層処理を行った種子の発芽率(73.2±2.7%)は,濃硫酸浸漬処理と低温湿層処理を単独で行った場合(それぞれ,0.8±1.0%,0.4±0.9%)や無処理の場合(0.0±0.0%)の発芽率よりも有意に高く,二つの処理を組み合わせた方法がウルシ種子の発芽促進に有効であることが確認された。
著者
佐藤 重穂 前藤 薫 田端 雅進 宮田 弘明 稲田 哲治
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.75-80, 2004-09-30
被引用文献数
1

ニホンキバチの成虫脱出数が樹木個体によってばらつく要因を明らかにするために,スギの間伐放置木からのニホンキバチの羽化成虫数を調べ,あわせて産卵痕数,孵化幼虫数を調べた.産卵強度および孵化幼虫密度と羽化成虫密度との間にはそれぞれ正の相関があった.寄主木の胸高直径,含水率,寄生蜂オオホシオナガバチの寄生率とニホンキバチの各ステージの密度との関係を調べたところ,胸高直径と含水率が羽化成虫密度との間に正の相関があり,寄生蜂の寄生率はニホンキバチの羽化成虫密度との間に相関がみられなかった.含水率は孵化率,羽化率とも正の相関があった.胸高直径,含水率,産卵強度,孵化幼虫密度,羽化成虫密度の間の因果関係を仮定してモデルを作り,解析した結果,これらの関係を説明することができた.この結果から,寄主木サイズが含水率を通じてニホンキバチの羽化成虫数を決める要因の一つとなっていると考えられた.
著者
中村 仁 佐々木 厚子 相川 拓也 市原 優 田端 雅進
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.98, 2011

岩手県の栽培ウルシ林の衰退原因について紫紋羽病の関与が疑われている.日本では紫紋羽病の病原菌として知られる<I>Helicobasidium mompa</I>の他に,<I>H. brebissonii</I>が青森県に分布することから,当該ウルシ林で発生している紫紋羽病菌の種同定を行った.2009年および2010年10~11月に岩手県北部10ヶ所のウルシ林で採集した子実体60試料から得た分離菌株の形態観察を行い,一部菌株についてはrDNA ITS領域の塩基配列を決定した.また2011年5月にウルシ林3ヶ所で胞子形成している子実体を採集し,形態観察を行った.その結果,46菌株のうち32菌株(8ヶ所由来)が<I>H. mompa</I>,7菌株(3ヶ所由来)が<I>H. brebissonii</I>と同定された.<I>H. brebissonii</I>については青森県以外での初確認であり,本種は東北地方北部に分布していることが示された.残り7菌株(2ヶ所由来)については,上記2種とは異なっていた.本未同定菌は,酸性V-8ジュース寒天培地上では菌糸塊形成がまれで気中菌糸の少ない菌叢となり,オートミール寒天培地上では貧弱な菌叢生長を示すなど上記2種の培養菌叢と区別できた。子実体上では前担子器のない,2個の小柄を有する,湾曲した円筒状の担子器を形成し,担子胞子は無色,卵形~楕円形で,大きさは7.5-12.8 x 4.5-8 &micro;mであり,これら特徴は<I>H. brebissonii</I>とほぼ一致あるいはその範囲内であった.また,国内の他紫紋羽病菌との分子系統関係を類推するためrDNA ITS領域を用いた系統樹を作成した結果、<I>H. brebissonii</I>とは異なるクレードを形成した.<I>H. brebissonii</I>と近接した場所で発生している場合があり,生殖的な隔離が存在すると推察されたことから,本菌を国内既知種とは異なる種,<I>Helicobasidium</I> sp.と同定した.以上から,岩手県の栽培ウルシ林には,国内初確認の種を含む,<I>Helicobasidium</I>属3種が分布することが明らかになった.
著者
渡辺 敦史 田村 美帆 泉 湧一郎 山口 莉未 井城 泰一 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.298-304, 2019
被引用文献数
1

<p>二つのDNAマーカー,EST-SSRマーカーとgenomic SSRマーカーを利用してウルシ林の多様性評価を行った。EST-SSRマーカーは次世代シーケンサーを利用して新たに開発した。得られたEST情報から2塩基または3塩基モチーフの一定繰り返し数以上を示した21領域にプライマーを設計した結果,最終的に8マーカーが利用可能であった。8 EST-SSRマーカーおよび7 genomic SSRマーカーを利用して,全国各地のウルシ林9集団から採取した377個体を対象として分析した。ウルシは,渡来種であり,クローン増殖が容易であることから遺伝的多様性の喪失が懸念されたが,遺伝的多様性は近縁種であるハゼノキよりもやや高く,著しい喪失は認められなかった。クラスター分析・主座標分析・STRUCTURE分析の結果は,集団によっては特異性が維持されていることを示す一方で,種苗が移動したことによる集団内の遺伝構造の存在を示していた。クローンの存在や小集団化に伴うボトルネックは限定的であり,現在のウルシ林を適切に保存すれば,ウルシ遺伝資源は維持できると考えられる。</p>
著者
河原 孝行 平岡 裕一郎 渡辺 敦史 小岩 俊行 滝 久智 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

ウルシは日本の伝統工芸を支える漆を得るための重要な特用林産物である。文化財修復など国産漆の需要は高まっており、安定供給が求められているが、その伝統に反し、ウルシの育林技術は確立されていない。健全な育苗を行っていくために、ウルシ林がどのような繁殖構造を持っているか遺伝解析によって検討した。<br> 北海道網走市及び岩手県二戸市浄法寺町に植栽されるウルシ林を材料として用いた。SSR10座を用い、multiplexによるPCR増幅後ABI prism 3100XLにより遺伝子型を決定した。 網走の2林分において6mx6m内の全ラメットを採取し、クローン構造を決定した。成長良好箇所はラメット数が少なく(134)、22のマルチジェノタイプ、不良個所はラメット数が多く(223)、24のジェノタイプが検出された。この結果、約20年での萌芽枝の最大伸長は4m前後であり、自然実生による更新も行われていることが示された。また、上伸成長がよい個体では萌芽枝を発生しないか少ないことが示された。 <br> 両地域の代表的な母樹を選び、父性分析を行ったところ、隣の林分からの遺伝子フローもあることが示された。
著者
田端 雅進 高野 麻理子 渡辺 敦史 福田 健二 井城 泰一 本多 貴之 小谷 二郎 黒田 克史
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

我々の研究グループは国産漆の増産に向けたDNAマーカーなどに関する研究を行い,ウルシクローン間で漆滲出量やウルシオールの成分組成等に違いがあり,漆の硬化時間に影響を与えることを明らかにした。本研究では,これまでの成果を発展させ,傷とシグナル物質による樹体反応のウルシクローン間の相違性,及び漆滲出量に関与する組織構造と遺伝子の解析を行い,漆滲出量増加に対するシグナル物質の作用機序を明らかにする。さらに,漆の硬化時間に直接影響するラッカーゼの構造と生合成に関する遺伝子発現をクローン間で解析し,漆成分の生化学的特性の多様性が漆の品質に与える影響を明らかにする。
著者
升屋 勇人 田端 雅進 市原 優 景山 幸二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.318-321, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

国産漆の需要拡大とともに国産漆増産の機運が高まる中,これまでに多くのウルシの植林が全国で行われてきたにも関わらず,漆液の収穫にこぎつけている地域は多くない。そこにはウルシの育成時における何等かの阻害要因が存在すると考えられた。実際に全国で植林したウルシの衰退傾向が著しい地域において調査を行った結果,北海道や岩手県を除く衰退林のほとんど全てで土壌より植物疫病菌の1種Phytophthora cinnamomiが検出された。分根苗を用いた土壌混和による接種試験では,菌を入れていない土壌と比較して明らかな衰退枯死が見られた。本研究により,P. cinnamomiは日本のウルシ植林において阻害因子の一つとなり得ると考えられた。また,本病害を新病害「ウルシ疫病」とすることを提案した。
著者
久保島 吉貴 外崎 真理雄 橋田 光 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.184, 2013 (Released:2013-08-20)

ウルシ材は耐湿・耐水性に優れるため水桶や馬桶などに用いられ,材が軽いことから網浮木として用いられてきた。また材色を活かして寄木細工にも使用されている。しかし材の特性は一部の地域産材に関しては得られているものの十分な知見が得られているとは言えない。現状では伐採後に放置されている樹液採取後のウルシ材の利用し新たな産業の創出や漆産業の維持・拡大につなげて行くには,材の特性を解明し,特性を活かした利用法を開発する必要がある。そこでウルシ材の主に物理的,力学的な物性を検討した。その結果,静的曲げヤング率,静的曲げ強度および衝撃曲げ吸収エネルギーは小さいものはスギと同程度で大きいものはカラマツおよびアカマツと同程度であり,密度と有意な相関関係が存在した。従って材の強度は密度から推定される妥当な範囲であると考えられるが,樹液採取が樹齢10-15年程度で行われるため丸太の直径が小さいことと,生産本数がスギ,ヒノキおよびカラマツなどと比較して極めて少ないことなどを考慮した用途開発が望まれる。用途としては既に開発されているものに加え産地の小中学校や体験教室などの教材にも利用出来るのではないかと考えられる。