著者
赤井 龍男 上田 晋之助 真鍋 逸平 古野 東洲 吉村 健次郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究は種々の公益的機能の発揮に有効な林型であるとされる複層林を、耐陰性と生長速度の異なる樹種の段階混交した林分として造成し、しかも山村労務の減少、林業経営の不振に対応するため、一般の単純林施業のような集約技術ではなく、低コストの育林技術体系として確立させようとするものである。しかし現在日本には明確な技術によって育成された混交型複層林はないので、手入れ不足等の比較的粗放な方法で成林した各種の針広混交林の実態を調査し、解析する研究を主体とした。本年度にえられた主な研究成果は次のようである。昨年度は多雪地帯における不成績造林地について調査、解析したので、今年度は少雪地帯における事例として、和歌山県新宮営林署管内大又国有林の56年生スギ、ヒノキおよび大越国有林の33年生スギ不成績造林地の構造と成長経過を調査、解析した。その結果大又国有林の不成績林分には高木性の常緑、落葉広葉樹が多く混交し、スギ、ヒノキの樹高10m以上の優勢木は集中的に、広葉樹はランダムに分布し、全立木材積は約350m^3/haであるのに反し、大越国有林の場合には高木性の広葉樹は落葉樹のみで、しかもスギ造林木の本数が多く、両樹種ともランダムに分布し、その材積は約230m^3/haで少なく、両林分の現在の構造にはそれぞれ特徴があることがわかった。しかし樹高分布からみて両林分とも造林木は10mの高さで分離し、また直径成長から判断すると、劣勢木は下刈り終了後間もなく成長を減退させているほか、両林分の土壌は深く、物理性は良好であるなど類似点もあることから、両林分の不成績の原因は手入れ不足にあると結論された。また両林分はこのまま推移させても、前者は造林木を約40%、後者は約70%混交した複層林に育つ可能性が高い。それ故多雪地帯と同様、自生種の再生力の旺盛な地域では、むしろ粗放的に混交複層林に仕立てる方が有利と考えられた。