著者
古野 東洲
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.16-30, 1982-11-20

マツノザイセンチュウに起因するクロマツ, アカマツの集団枯損は, 関東以西の西日本に大きな被害をあたえ, さらに拡大している。また, わが国に植えられている外国産マツ属にも被害をあたえている。本報告は, 主として, 京都大学農学部附属演習林上賀茂, 白浜および徳山の3試験地に植えられている外国産マツ属のマツノザイセンチュウによる枯損を調査した結果をとりまとめたものである。枯損マツ属は, P. thunb. × P. masso. のF_1雑種を含めて20種に達し (表-2 - 6), 一般に, マツノザイセンチユウに対して抵抗性があるとみなされている P. taeda, P. elliottii, P. palustris, P. massonianaの枯損も観察された。枯死マツの枯死年の樹高生長は, アカマツ・クロマツ型の伸長をするものでは, 大部分が正常であったが, テーダ・スラッシュマツ型のものは, 前年の伸長量に比べてすくなかった。直径生長も前年生長量よりすくなく, マツノマダラカミキリの次世代幼虫が繁殖している幹には, 春材のみで秋材がみられなく, カミキリが繁殖していない幹には秋材が形成されていた。マツノザイセンチユウに対するマツ属の感受性 (抵抗性) を, 前報の接種試験と本調査の結果から, 前報で未分類であった樹種を加えて4段階lこ分類すると表-7のようになった。
著者
二井 一禎 古野 東洲
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.23-36, 1979-12-20

西南日本の海岸線を中心に, 日本の各地でマツ林に激しい被害をもたらしているマツノザイセンチュウに対するマツ属各種間の抵抗性の違いを調査するために1977, 1978の両年に, 京都大学農学部附属演習林上賀茂試験地および白浜試験地に植栽されているマツ属30種, のべ約600本に対してマツノザイセンチュウの接種試験を行なった。接種にあたっては1本の供試木あたり2, 000頭のマツノザイセンチュウを接種したが, さらに, P. strobus, P. taedaには接種密度を変えて, 1本につき2, 000頭ずつ3ヶ所に計6, 000頭を接種した。接種後2および5週目に早期症状の調査のため樹脂浸出量を測定した。その後, 経時的に1年間供試木の外見的異常を観察し, しかる後に供試木からの線虫の再分離を試みた。これらの調査・観察の結果の大要は次のようである。(1) マツノザイセンチュウを接種された木の樹脂量はその後の外見的症状の有無とは無関係に減少する傾向が見られた。(2) 外見的病徴にもとづく異常発生率の供試樹種間における違いは, 育種学的知見にもとづいて築きあげられた Critchfield & Little の分類体系で比較的うまく類別できる。すなわち, Australes 亜節に含まれる種は最も抵抗性が強く, Contortae 亜節の種がこれに準じる。Ponderosae, Oocarpae 両亜節の種はいずれも感受性であり, 日本産のクロマツやアカマツが含まれる Sylvestres 亜節の中には強度の感受性樹種から抵抗性樹種まで, さまざまな反応が見られた。また Strobus 亜属の各種の異常発生率は高かったが, いくつかの種では Pinus 亜属の感受性反応と異なり異常を部分で食い止め, 全体としては健全性を保ち枯れない可能性をうかがわせる反応が見られた。(3) 接種密度が高くなると抵抗性の P. taeda でも異常発生率が高まり, これらの樹種の抵抗性が本質的には絶対的なものではないことを示唆した。(4) 1977年度の接種試験で生き残った個体を1978年度, 再度接種に供したところ, いくらかの種で, それらの異常発生率は新規に接種した場合の異常発生率より低い傾向がうかがわれた。これはそれらの種内に抵抗性の個体間差が存在することを示唆している。(5) 供試木から接種一年後に線虫を再分離したところ, 異常を発現し, 枯死したような木や部位からは普遍的にマツノザイセンチュウが分離された。一方健全なまま生存した個体や部位からはマツノザイセンチュウは分離されず, マツ属内に見られる抵抗性と樹体内での線虫の増殖の密接な関係が明らかになった。
著者
古野 東洲 渡辺 弘之
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-55, 1970-03-25

この研究は, 愛媛県下の西条営林署管内および今治市長沢にあるフランスカイガンショウ林のマツノシンマダラメイガによる被害と雪による被害を, 1968年10月21 - 24日および1969年1月30日に調査し, その被害の状況を記録したものである。雪害は1968年2月14 - 16日にみられた降雪のために, 冠雪によりおこったもので, 当時あ降雪量は西条の林分では40 - 50cm, 今治市長沢の林分では20 - 30cmであったようである。調査したフランスカイガンショウの林分は調査時つぎのような状態になっていた。西条の林分は, 約1haで, 1930年に造林され, 平均胸高直径は18. 5cm, 平均樹高は推定13m, ha当り1257本で, フランスカイガンショウの純林であったが, 雪害で大きな被害をうけていた。今治市長沢の林分は, 西南向きの斜面に成立し, 約0. 2haにフランスカイガンショウに少数のアカマツ, クロマツが混生していた。ha当りの立木本数は7033本の高密度で, そのうちフランスカイガンショウは6368本であった。この林分は, 1952年秋に40年生のフランスカイガンショウを伐採した跡地に天然更新でできあがったもので, 胸高直径は1cmから12cmまで, 樹高は2. 1mから8. 9mまでの各種の大きさの個体よりなり, それぞれの平均値は4. 5cmと5. 5mであった。この林分も雪害で激しい被害をうけていたが, 約100m離れた尾根に植栽されている約0. 1haの小林分 (平均胸高直径9. 7cm, 平均樹高7. 2m, ha当り2000本) では, 雪による被害は軽微であった。雪害調査は, 幹の折損および幹の曲りを記録し, 折れたものでは, その状況 (幹が全く切断されているもの, 幹は折れているが一部で付いているもの, 幹が割れているもの) およびその位置 (樹冠内および下枝より下部) を調べ, 折損高を測った。さらに長沢の林分では折損部の直径を測り, 折損部を分枝部, 分枝部上部, 分枝部下部および節間に分け調査した。フランスカイガンショウに対するマツノシンマダラメイガの加害はすべて幹に限られ, その被害率は, 西条の林分では43%, 長沢の斜面の林分では3%, 尾根の林分では6%で, 西条と長沢で差がみられた (表-1)。雪害は幹の折れと曲りが大部分で, 幹の割れや枝抜けは数例みられたにすぎなかった。雪害率は西条の林分では71%, 長沢の斜面の林分では80%で雪害は激しかったが, 長沢の尾根の林分では13%の微害で, 長沢での両林分の雪害差の原因は, 林分を構成している個体の形状比にあるようであった (表-1, 2, 3)。雪により激害をうけた両林分を比較すると, 西条では幹の折れが雪害木の大部分 (98%) を占めていたが, 長沢では幹の折れと曲りがほぼ半々であった。さらに, 幹の折損で, 西条では折損木のうち完全に切断されたものが72%であったが, 長沢では4%とすくなく, 両林分で雪害のあらわれ方に大きな違いがあった。この原因の1つに両林分の幹の形状比の違いが考えられる (図-1)。幹の曲ったものは形状比の大きいものに, また胸高直径の細いものに多くあらわれている。幹の折損部は胸高直径が太いものは樹冠内で, 細くなるにしたがって樹冠の下で折れる個体が多くなっているが, 長沢の林分では, 折損木の23%が, 西条の林分では75%が樹冠内で折れていた (図-3)。さらに長沢の林分では, 枝階の分枝部の直ぐ上で折れているものが67%で最も多く, 分枝部 (15%), 分枝部の直下 (10%), 節間 (8%) の順になった。折損高は, 長沢では樹高の0. 2 - 0. 5倍の位置に集中 (69%) し, 大部分 (91%) は樹高の0. 6倍より下で折れていた (図-4)。西条では樹高の0. 6 - 0. 8倍のところで折れたものが多かった。折損部の直径は, 大部分の個体では, 胸高直径の0. 7倍より太く, 折損個体の約半数は胸高直径の0. 7 - 0. 9倍の太さのところで折れていた (図-5)。附近のアカマツと比較して, フランスカイガンショウは雪に対してやや弱いようであった (表-1, 4)。西条の林分で, マツノシンマダラメイガの被害をうけていた73本中, 虫害部で折れていたものは4本で, また, 雪で折れた119本中, 42本は虫害をうけていたにもかかわらず, 健全部で折れていた。すなわち, 本調査でのフランスカイガンショウの雪による折損はマツノシンマダラメイガによる幹の被害とは, とくに関係がないことがわかった。以上の結果から, フランスカイガンショウは, マツノシンマダラメイガによる被害に加えて, 雪に対しても相当に弱いことがわかり, 生長が非常に良いということで, これらの要因を考慮せずに利用することには, 大きな危険がともなうのではないかと考えられる。
著者
赤井 龍男 上田 晋之助 真鍋 逸平 古野 東洲 吉村 健次郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究は種々の公益的機能の発揮に有効な林型であるとされる複層林を、耐陰性と生長速度の異なる樹種の段階混交した林分として造成し、しかも山村労務の減少、林業経営の不振に対応するため、一般の単純林施業のような集約技術ではなく、低コストの育林技術体系として確立させようとするものである。しかし現在日本には明確な技術によって育成された混交型複層林はないので、手入れ不足等の比較的粗放な方法で成林した各種の針広混交林の実態を調査し、解析する研究を主体とした。本年度にえられた主な研究成果は次のようである。昨年度は多雪地帯における不成績造林地について調査、解析したので、今年度は少雪地帯における事例として、和歌山県新宮営林署管内大又国有林の56年生スギ、ヒノキおよび大越国有林の33年生スギ不成績造林地の構造と成長経過を調査、解析した。その結果大又国有林の不成績林分には高木性の常緑、落葉広葉樹が多く混交し、スギ、ヒノキの樹高10m以上の優勢木は集中的に、広葉樹はランダムに分布し、全立木材積は約350m^3/haであるのに反し、大越国有林の場合には高木性の広葉樹は落葉樹のみで、しかもスギ造林木の本数が多く、両樹種ともランダムに分布し、その材積は約230m^3/haで少なく、両林分の現在の構造にはそれぞれ特徴があることがわかった。しかし樹高分布からみて両林分とも造林木は10mの高さで分離し、また直径成長から判断すると、劣勢木は下刈り終了後間もなく成長を減退させているほか、両林分の土壌は深く、物理性は良好であるなど類似点もあることから、両林分の不成績の原因は手入れ不足にあると結論された。また両林分はこのまま推移させても、前者は造林木を約40%、後者は約70%混交した複層林に育つ可能性が高い。それ故多雪地帯と同様、自生種の再生力の旺盛な地域では、むしろ粗放的に混交複層林に仕立てる方が有利と考えられた。