著者
矢吹 悌 福永 浩司
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.39-43, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
20

要旨 脳梗塞の約23%が一過性脳虚血発作によって引き起こされる.活性酸素種産生による酸化ストレスの亢進は,脳虚血による神経障害を悪化させる要因の一つである.現在臨床適応されている抗酸化薬はエダラボンのみである.しかしながら,エダラボンは急性腎不全および肝障害などの重篤な副作用や治療可能時間域の短さが問題となっている.故に,一過性脳虚血発作に続く重篤な脳梗塞発症を予防するために新たな治療薬の開発が望まれる.本稿では,生体内で合成される抗酸化物質グルタチオン(GSH)に着目し,脳においてGSH 生合成を高める薬物の基礎および臨床研究結果と,われわれのGSH 経口投与による一過性脳虚血に伴う脳機能障害を改善効果について紹介する.
著者
福永 浩司 矢吹 悌 高畑 伊吹 松尾 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.4, pp.194-201, 2018 (Released:2018-10-05)
参考文献数
34
被引用文献数
6 7

心的外傷後ストレス症候群(PTSD:post traumatic stress disorders)は戦争体験,交通事故,自然災害,性被害など深刻なイベントにより引き起こされる.わが国の生涯有病率は1.3%と報告されている.PTSDでは文脈記憶への過剰反応,恐怖記憶消去系の障害に加えて,軽度の認知機能,注意力,学習障害が見られる.ヒトや動物実験では扁桃体,前頭前野,海馬を含む情動・恐怖の神経回路の感受性亢進が関わる.しかし,PTSDのメカニズムは不明であり,根本治療薬もない.最近,オメガ3(ω3)多価不飽和脂肪酸の摂取が自動車事故や東北大震災後のPTSD症状を軽減することが報告されている.脳型脂肪酸結合タンパク質(FABP7)の遺伝子欠損マウスではPTSD様の不安行動と恐怖記憶の固定が亢進される.私達はFABP3欠損マウスにおいて恐怖記憶消去系が障害されること,多動と認知機能障害がみられPTSD様症状を呈すること見出した.さらに,睡眠障害治療薬でメラトニン受容体作用薬であるラメルテオンの経口投与がFABP3欠損マウスのPTSD様行動を改善することを見出した.FABP3欠損マウスでは前帯状回皮質(ACC)のCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の活性が低下していた.逆に扁桃体基底外側部(BLA)のCaMKII活性は上昇した.CaMKII活性化と相関して扁桃体基底外側部での恐怖条件に伴うc-Fosタンパク質の発現は著しく亢進した.これらの反応もラメルテオンの慢性投与で改善された.これらの知見から,ACCの機能低下による扁桃体の過剰興奮がPTSDの発現に関わること,睡眠障害治療薬ラメルテオンはPTSD症状の治療薬としての臨床応用が期待できる.