著者
松山 知弘 中込 隆之
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.145-149, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
23

要旨 脳血管ペリサイト(血管周皮細胞)は血管内皮細胞やアストロサイトとともにBrood Brain Barrier/Neurovascular unit の恒常性の維持にとって重要な働きをしている.以前よりペリサイトは血管内皮細胞や平滑筋細胞に分化することが知られているが,我々は,脳虚血負荷後にペリサイトが脱分化して神経幹細胞になることを報告してきた.本シンポジウムでは虚血負荷を受けたペリサイトが神経幹細胞にとどまらず,血管内皮細胞やミクログリアにも分化しうる多能性幹細胞としての特性を獲得することを示し,脳血管ペリサイトが脳保護のみならず脳修復生機構にも関与する可能性について紹介する.
著者
矢吹 悌 福永 浩司
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.39-43, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
20

要旨 脳梗塞の約23%が一過性脳虚血発作によって引き起こされる.活性酸素種産生による酸化ストレスの亢進は,脳虚血による神経障害を悪化させる要因の一つである.現在臨床適応されている抗酸化薬はエダラボンのみである.しかしながら,エダラボンは急性腎不全および肝障害などの重篤な副作用や治療可能時間域の短さが問題となっている.故に,一過性脳虚血発作に続く重篤な脳梗塞発症を予防するために新たな治療薬の開発が望まれる.本稿では,生体内で合成される抗酸化物質グルタチオン(GSH)に着目し,脳においてGSH 生合成を高める薬物の基礎および臨床研究結果と,われわれのGSH 経口投与による一過性脳虚血に伴う脳機能障害を改善効果について紹介する.
著者
豊田 一則
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.293-297, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
6

Bleeding with Antithrombotic Therapy Study(BAT 研究)の前向き観察研究では,脳血管障害や心臓血管病に対して抗血小板薬かワルファリンを服用する患者を4009 例登録し,抗血小板薬の二剤併用やワルファリンと抗血小板薬の併用が単剤治療に比べて出血イベントを増やすことを,日本人患者集団ではじめて示した.そのサブ研究として,登録患者の観察期間中の血圧値と出血イベント発症との関係を調べ,観察期間中に頭蓋内出血を発症した患者で,収縮期・拡張期ともイベント発症までに血圧が漸増していた.頭蓋内出血発症の至適カットオフ値として観察終了時収縮期血圧130/81 mmHg 以上を提示し,国内ガイドラインで抗血栓薬服用者への厳格な血圧管理を推奨する根拠となった.また後ろ向き観察研究では発症24 時間以内に入院した脳出血患者1006 例を登録し,発症前の抗血栓薬服用が早期血腫拡大や急性期死亡に関連することを示した.
著者
野田 百美
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.77-81, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

要旨 脳白質のモデルとして使われているマウス視神経を用い,飲用水中の分子状水素(H2)が虚血による視神経機能障害を改善させるかどうかを検討した.視神経機能の測定には,摘出後,複合活動電位(CAP)の面積を測定した.灌流チャンバーを脱酸素・脱グルコース(OGD)にすると,CAP は速やかに消失し,再灌流後は25%程度しか回復しない.ところが,10~14 日間,H2 水を飲用したマウスの視神経では,CAP が完全に消失することはなく,再灌流後の回復も顕著に改善された.虚血・再灌流後の視神経線維の脱落は,H2 水飲用群で有意に減少しており,グリア細胞(とくにオリゴデンドロサイト)の核8-オキソグアニン(nu8-oxoG:酸化DNA 障害のマーカー)の蓄積は,H2 水飲用群において,有意に抑制されていた.これらの結果は,有髄神経が占める白質の保護にH2 水飲用が有効であることを示唆しており,酸化ストレス耐性と治療の有用性が期待される.
著者
中込 隆之
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.203-206, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
15

要旨 脳がひとたび梗塞性変化をきたすと,その変化は不可逆的であり,脳梗塞巣には壊死組織や炎症細胞しか存在しないという考えがこれまでの通説であった.しかし,我々は,マウス大脳皮質脳梗塞モデルを用い,脳梗塞巣には幹細胞が誘導されていることを発見した.この幹細胞は神経系の細胞に分化可能であったことから,我々は脳傷害誘導性神経幹細胞(injury-induced neural stem/progenitor cells; iNSPCs)と命名してきたが,その後の研究により,iNSPCs は神経系以外の細胞にも分化可能な多能性幹細胞であることが明らかとなった.本稿では,我々がこれまでに得た知見をもとに,この脳由来虚血誘導性多能性幹細胞(Brain-derived ischemia-induced multipotent stem cells; BiSCs)に関する特性やその起源を中心に,BiSCs を介した再生治療の展望に関して紹介する.
著者
森﨑 雄大 輪島 大介 明田 秀太 米澤 泰司 中川 一郎 中瀬 裕之
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.33-37, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
6

要旨 【はじめに】脳静脈血栓症は脳静脈の閉塞に伴い脳出血や静脈性脳梗塞を発症するが,急性期診断を行い治療経過を報告したものは少ない.今回,我々は連続2 症例の急性期症例を経験し考察を加えて報告する.【症例】1:79 歳女性.突然の意識消失で受診.脳血管撮影検査で左S 状静脈洞とvein of Labbe 閉塞を認め抗凝固療法を行い症状改善を認めた.2:48 歳男性.突然の左上肢麻痺が出現し受診.脳血管撮影にて上矢状静脈洞閉塞を認め抗凝固療法を行い症状改善を認めた.【考察】脳静脈血栓症の基礎研究では梗塞病変周囲penumbra 類似病変の救済の可能性があり,急性期での診断と治療が重要である.T2*での閉塞静脈洞の低信号所見が急性期診断に有用であり,急性期に抗凝固療法を行った.【結語】脳静脈洞血栓症においては急性期早期診断と治療を行うことが重要と考えられ,T2*画像での低信号所見は有用と考えられた.
著者
佐々木 雄一 佐々木 祐典 佐々木 優子 中崎 公仁 岡 真一 浪岡 隆洋 浪岡 愛 柿澤 雅史 本望 修
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.281-289, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

脳梗塞は本邦における要介護者の原因疾患第1位であり,新しい治療法の開発が望まれてきた.我々は骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)の移植が,脳梗塞を含む神経疾患に対して治療効果を発揮することを報告してきた.現在,基礎・臨床研究の良好な結果を受けて,自己培養MSCの静脈投与による医師主導治験を,脳梗塞および脊髄損傷に対して実施している.MSC移植の治療効果によって,失われた運動・感覚機能が回復する過程には,脳の可塑性の変化が大きく関わっていることが示唆されている.また,我々は実験的脳梗塞モデルに対するMSC移植にリハビリテーションを付加した結果,運動能力のさらなる回復が得られることを報告した.この基礎研究の結果から,MSC治療が臨床で実用化された暁には,再生医療におけるリハビリテーションの役割はますます重要になると考えられる.
著者
宮脇 哲 今井 英明 斉藤 延人
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.341-345, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
15

虚血性脳卒中(脳梗塞)の主要な原因の一つである頭蓋内主幹動脈狭窄はアジア人種に多い発症が知られており,遺伝的要因の関与が示唆されてきた.近年,もやもや病の疾患感受性遺伝子としてring finger protein 213(RNF213)が同定された.我々はRNF213上の単一のミスセンス変異(c.14576G>A, p. R4859K, rs112735431)がもやもや病のみならず,様々な程度の頭蓋内主幹動脈狭窄に関連することを明らかにしてきた.この結果は,従来の画像所見や既往歴といった表現型を主体としたもやもや病や頭蓋内主幹動脈狭窄の診断基準・疾患概念のパラダイムに一石を投じる可能性がある.また,RNF213 c.14576G>A変異は一般の日本人の2%程度と比較的高頻度に存在する.日本の脳卒中の領域においては重要な遺伝的要因(リスクアレル)であると言える.RNF213 c.14576G>Aの遺伝子診断は,新たな脳卒中のリスク評価,より適切な診断・予防的加療につながる可能性がある.
著者
上野 祐司 田中 亮太 卜部 貴夫 服部 信孝
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.65-69, 2018 (Released:2018-10-03)
参考文献数
22

脳梗塞後の軸索再生は,損傷後の組織再構築において重要な役割を担い,機能回復とも関連する.筆者は,ラット中大脳動脈閉塞モデルのperi-infarct area において,7 日後の急性期に脱落した軸索や樹状突起は56 日後の慢性期では再生していることを確認した.In vitro では,虚血後軸索の再生にはphosphatase tensin homolog deleted on chromosome 10/Akt/Glycogen synthase kinase 3β シグナルが関わることを報告した.ラット慢性脳低灌流モデルでは,L-carnitine 経口投与により脳白質において軸索再生とoligodendrocyte の再生によるミエリンの増強が生じ,慢性脳虚血ラットの認知機能障害が改善した.脳梗塞後の軸索再生,機能回復のメカニズムは多岐にわたり,今後軸索再生を目的とした脳梗塞新規治療薬の開発,実用化が期待される.
著者
寺尾 聰
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.327-331, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

ケモカインは白血球などの遊走を促して炎症形成に関与するサイトカイン群で,その一つRANTES(別名CCL5)は一般的にはT細胞・血小板・マクロファージ・内皮細胞などから分泌され,受容体CCR1, CCR3, CCR5を介してT細胞・単球などの遊走を促す.脳梗塞巣内では炎症性メディエーターの刺激でastrocyteやmicrogliaからもRANTESが産生され,炎症細胞の活性化や遊走に寄与する.また血管内では放出されたRANTESは血管内皮上のグリコサミノグリカンに沈着し,組織内へ炎症細胞を動員する「道しるべ」として機能する.一方で梗塞巣辺縁ではCCR3, CCR5を介してRANTESが神経保護的に作用するとの報告もあり,RANTESには神経障害的にも神経保護的にも働く多面性があると考えられる.その機能の解明が脳梗塞の新たな治療へつながると期待される.
著者
吉村 紳一 内田 和孝 髙木 俊範 山田 清文 白川 学 立林 洸太朗
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.17-22, 2018 (Released:2018-07-24)
参考文献数
20
被引用文献数
2

我々が行っている急性期脳梗塞の予後改善を目指した基礎・臨床研究とその展望を紹介する.1)血栓回収療法普及プロジェクト(RESCUE-Japan Project):本治療の有効性は確立したが,未だ十分に普及していない.このため,全国調査の結果をもとに,治療の推進に取り組んでいる.2)救急隊用脳卒中病型予測スコア開発:脳梗塞患者の予後改善のためには迅速かつ適切な搬送が必須である.我々が開発したこのアプリケーションは診断率が高く,救急搬送に応用していく.3)急性期脳梗塞および頸部・頭蓋内動脈狭窄に対する脂質低下療法に関する臨床試験:スタチンを用いた研究をベースにPCSK-9 阻害薬を用いた研究を開始する予定である.4)急性期脳梗塞に対する細胞療法の基礎・臨床研究:梗塞後の機能回復を目指した再生医療研究として,骨髄単核球,傷害誘導性多能性幹細胞,羊膜由来間葉系幹細胞を用いた臨床研究を行う予定である.
著者
山口 修平
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

要旨 我が国には600 カ所以上の脳ドック施設があり,未破裂脳動脈瘤や無症候性脳梗塞およびその危険因子の早期発見に貢献している.脳ドックの受診者は中高齢者が多く,近年は脳卒中に加え物忘れの精査を希望する例も増加している.脳ドック学会ではT2*強調画像による脳内微小出血(CMB)の検出が新たに施設認定条件に加えられた.CMB は無症候性脳梗塞や白質病変と同様,将来の脳出血および脳梗塞の重要な危険因子である.皮質に多発する場合はアミロイド血管症も考慮する必要がある.また脳ドック学会は認知機能検査実施も施設認定の条件に加えた.現在約3 割の施設で認知機能検査が実施されているが,人員と時間が必要なためiPadを用いた簡易なスクリーニング検査(Cognitive Assessment for Dementia, iPad version: CADi)などが推奨される.MRI では脳小血管病変の検討とともに,海馬萎縮の検討も勧められる.さらに認知症の早期発見のために,安静時機能的MRI も将来有力な検査項目と考えられる.
著者
髙木 俊範 原 英彰
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.277-280, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
15

脳卒中には様々な病態が含まれることは周知の事実である.脳梗塞の最も有効な治療が閉塞した血管の再開通であることは間違いないが,その中にも様々な病態が含まれ,それぞれに対し個別治療が望まれるようになってきた.またそれらは極めて短期間の間で時代とともに変遷してきた.直接神経を保護する薬剤の検討から始まり,組織プラスミノゲンによる再開通療法が始まれば,その時間的制約や出血性合併症に対する検討が必要となった.また神経保護のために,neurovascular unit を包括した保護戦略が謳われ始めた.こうしたその時々の臨床課題に対し,当研究室ではシロスタゾールという単一の薬剤での解決を目指し,基礎研究の視点からアプローチしてきた.抗血小板薬として開発されたシロスタゾールを用いた一連の研究を通して,薬は単一の薬効をのみを有するのではなく,マルチファンクションを有することがあると示された.
著者
中村 幸太郎 中村 朱里 大星 博明 七田 崇
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.77-81, 2018

<p>脳梗塞後の炎症は,次世代における脳卒中医療のための治療標的として注目されている.脳梗塞では,細胞死に伴って放出されるダメージ関連分子パターン(DAMPs: damage-associated molecular patterns)がマクロファージ・好中球を活性化し,炎症性サイトカインが産生されると,さらにT 細胞を活性化して炎症を遷延化させる.発症3 日目にはスカベンジャー受容体MSR1 を発現する修復性マクロファージが脳内に出現し,DAMPsを排除して炎症を収束させ,神経栄養因子を産生することによって修復に働く.脳梗塞における無菌的炎症は,DAMPs の働きのように,脳が自律的に制御する生体防御の一環であると捉えることができる.</p>
著者
横田 千晶
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.51-56, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨 急性脳卒中例におけるバイオマーカーとして,終末糖化産物(advanced glycation end products; AGE)とその可溶性受容体(soluble RAGE; sRAGE)に着目した.発症後3 日以内の急性期脳卒中例の検討より,sRAGE 低値と重症白質病変,入院時重症度,喫煙習慣,正常糸球体濾過率は有意に関連した.急性期脳卒中例におけるsRAGE とesRAGE には良好な相関があった(R=0.85).急性脳梗塞例と年齢をマッチさせた吹田コホートとの比較より,AGE の一つである血中ペントシジン(PENT)値は,他の危険因子で補正後も有意に急性脳梗塞と関連した.脳卒中発症後平均3 日と14 日にsRAGE,esRAGE,PENT を測定し,健常例と比較した.sRAGE,esRAGE は,脳出血発症早期に低下しており,脳出血発症に関連している可能性がある一方,PENT は,脳卒中発症リスクのバイオマーカーとなる可能性がある.
著者
日浦 幹夫 織田 圭一 石渡 喜一 前原 健寿 成相 直 牟田 光孝 稲次 基希 豊原 潤 石井 賢二 石橋 賢士 我妻 慧 坂田 宗之
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.297-302, 2017

<p>運動介入が脳機能の保持・改善に重要な役割をもつことが疫学および臨床研究により提唱されてきた.運動が脳機能に及ぼす影響と関連する生理学的背景を探索する目的で,PETを活用して有酸素運動による局所脳血流量(regional cerebral blood flow: rCBF)と脳μ-オピオイド受容体系の変化を検討した.oxygen-15-labeled water(<sup>15</sup>O-H<sub>2</sub>O)を用いたPET研究では有酸素運動中に一次運動感覚野,小脳,島皮質などで広範な脳領域でrCBFが増加することが示され,このような変化は局所の神経活動の亢進や周辺の神経受容体への影響を介して運動による神経可塑性の発現のメカニズムに関与することが推測される.<sup>11</sup>C-Carfentanil を用いたPET研究では有酸素運動後に生じるポジティブな気分変化や激しい運動に伴う疲労の発現に辺縁系や下垂体に分布するμ-オピオイド受容体系が関与し,その変化には運動強度の違いや気分変化の個人間差が影響することが提示された.PETを活用した神経画像研究は,運動に伴う脳機能変化のメカニズムに関与する要因であるrCBFおよび神経受容体系の変化を検証するために有用な手法である.</p>
著者
細見 直永 松本 昌泰
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.125-128, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
20
被引用文献数
1

要旨 アテローム動脈硬化病巣においてPCR により歯周病菌の存在が示されており,歯周病菌感染症がアテローム動脈硬化に関与していることが示唆されている.歯周病と脳卒中との関連に関して,歯周炎による脳卒中の発症への影響が報告されている.脳梗塞患者の病型別における各種歯周病菌の血清中抗体価の検討により,歯周病菌の一つであるprevotella intermedia に対する抗体価がアテローム血栓性脳梗塞において高値を示しており,頸動脈のアテローム動脈硬化病変との関連性が示唆された.また異なる歯周病菌であるporphyromonas gingivalis に対する抗体価の上昇により心房細動との関連性が示唆され,異なる歯周病菌の影響により,機序の異なる脳梗塞が発症する可能性を示した.このように,脳梗塞の新たな危険因子として歯周病の関与を解明することにより,脳梗塞の発症抑制法として新たに歯周病対策を考慮する必要性が示唆されるが,歯周病対策による脳卒中発症予防効果はまだ明らかになっていない.
著者
田中 耕太郎 高嶋 修太郎 田口 芳治 道具 伸浩 温井 孝昌 小西 宏史 吉田 幸司 林 智宏 山本 真守
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.57-62, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
12
被引用文献数
1

要旨 我々の施設の非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓症(NVAF-CE)入院患者について入院時の抗血栓薬を検討すると,NOAC 登場前は,ワルファリン(W)32%,抗血小板薬(P)23%,抗血栓薬なしが45%であった.NOAC 登場後はW が35%,NOAC が18%,P が9%,抗血栓薬なしが38%であり,NOAC 登場前に比しP 処方患者が明らかに減少,抗血栓薬なしも軽度減少していた.以前ならW の代わりにP を処方していた症例に,NOAC が処方されている症例が増加していると考えられた.NOAC 服用中のNVAF-CE 発症患者の入院時NIHSS は平均1.4 であり,W 服用中の8.8,抗凝固薬非服用中の10.9 に比し,有意に(p<0.05)低値であった.入院時D-dimer 値についても,NOAC 服用群で有意に(p<0.05)低値であった.NVAF-CE の退院時の抗凝固薬は,NOAC 登場前はW 76%,処方なしが24%,登場後はW 44%,NOAC 43%,なしが13%で,抗凝固薬処方なしが減少していた.NOAC 使用が普及しつつあるが,長期の安全性と有用性については今後も検証が必要である.
著者
浦上 克哉
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.169-172, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
4
被引用文献数
1

要旨 日本に認知症は462 万人,認知症予備群は400 万人と報告され,認知症予防対策は急務と考えられる.認知症予防対策を実践していくために,平成23 年に日本認知症予防学会を立ち上げた.本学会の目指すところは,認知症予防活動の実践普及,認知症予防に携わる人材の育成,多職種協働と地域連携,認知症予防のエビデンス創出である.認知症予防の取り組みは,鳥取県琴浦町から始まり全国へと広がっている.認知症予防に携わる人材の育成としては,認知症予防専門士と認定認知症領域検査技師である.認知症予防のエビデンス創出は,エビデンス創出委員会を立ち上げ体制を構築しつつある.日本認知症予防学会が目指すところは,日本脳循環代謝学会が目指すところとの共有部分も多いと思われる.