著者
福永 浩司 矢吹 悌 高畑 伊吹 松尾 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.4, pp.194-201, 2018 (Released:2018-10-05)
参考文献数
34
被引用文献数
6 7

心的外傷後ストレス症候群(PTSD:post traumatic stress disorders)は戦争体験,交通事故,自然災害,性被害など深刻なイベントにより引き起こされる.わが国の生涯有病率は1.3%と報告されている.PTSDでは文脈記憶への過剰反応,恐怖記憶消去系の障害に加えて,軽度の認知機能,注意力,学習障害が見られる.ヒトや動物実験では扁桃体,前頭前野,海馬を含む情動・恐怖の神経回路の感受性亢進が関わる.しかし,PTSDのメカニズムは不明であり,根本治療薬もない.最近,オメガ3(ω3)多価不飽和脂肪酸の摂取が自動車事故や東北大震災後のPTSD症状を軽減することが報告されている.脳型脂肪酸結合タンパク質(FABP7)の遺伝子欠損マウスではPTSD様の不安行動と恐怖記憶の固定が亢進される.私達はFABP3欠損マウスにおいて恐怖記憶消去系が障害されること,多動と認知機能障害がみられPTSD様症状を呈すること見出した.さらに,睡眠障害治療薬でメラトニン受容体作用薬であるラメルテオンの経口投与がFABP3欠損マウスのPTSD様行動を改善することを見出した.FABP3欠損マウスでは前帯状回皮質(ACC)のCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の活性が低下していた.逆に扁桃体基底外側部(BLA)のCaMKII活性は上昇した.CaMKII活性化と相関して扁桃体基底外側部での恐怖条件に伴うc-Fosタンパク質の発現は著しく亢進した.これらの反応もラメルテオンの慢性投与で改善された.これらの知見から,ACCの機能低下による扁桃体の過剰興奮がPTSDの発現に関わること,睡眠障害治療薬ラメルテオンはPTSD症状の治療薬としての臨床応用が期待できる.
著者
松尾 和哉 能登 肇 深山 篤
雑誌
研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:21888779)
巻号頁・発行日
vol.2022-NL-252, no.12, pp.1-7, 2022-06-22

複数の深層学習モデル(顔認識や音声合成など)から成るヒトデジタルツイン(ヒト DT)を元の人間(フィジカルツイン:PT)らしく振舞わせるためには,PT からしか取得できないデータを収集・意味づけし,そのデータを DT に学習させる必要がある.しかし,一つのモデルを作るためには学習データが大量に必要であり,かつその大量のデータが PT ごとに必要になるため,手動で学習データを作成することは非現実的である.そこで本研究では,この学習データの自動生成を目指す.本稿ではまず,顔画像に名前が付与されたデータを映像データから自動的に作成することを目的とし,複数人の対話を文字起こししたデータから,各話者名を推定する手法を提案する.提案手法では,人名が含まれる発言の内容の解析結果と,当該発言の直前直後のターン・テイキングを応用して,話者名を推定する.提案手法の性能を,2 種類の会話コーパスを用いて定量評価を行った.
著者
松尾 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.5, pp.513-519, 2022-05-01 (Released:2022-05-01)
参考文献数
14

Genetic information is replicated and transmitted from a parent cell to two identical daughter cells through mitotic cell division. To accomplish this dynamic process with high accuracy and precision, various motor proteins work in a concerted manner. Especially in the metaphase, mitotic chromosomes are delivered by the motor protein of centromere-associated protein E (CENP-E) to the cell equatorial plane (metaphase plate) along mitotic spindles. However, the critical functional failure of CENP-E can activate the spindle assembly checkpoint through the misalignment of chromosomes at the metaphase plate. In this symposium review, the reversibly photoswitchable CENP-E inhibitor PCEI-HU (5) is reported. Compound 5 exhibited almost quantitative trans-cis photoisomerization of the arylazopyrazole photoswitch by illuminating light at 365 nm and 510 nm. Depending on the photoisomerization, CENP-E activity was regulated not only in vitro but also in cells. We successfully established a novel technique using 5 to dynamically photocontrol the CENP-E-dependent chromosome movement and mitotic progression in a living cell.