著者
上田 佳秀 山敷 宣代 安冨 栄一郎 矢野 嘉彦 蔵満 薫 木戸 正浩 福本 巧 上本 伸二 児玉 裕三
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.55, no.Supplement, pp.279_1, 2020 (Released:2021-09-18)

【目的】アルコール性肝障害に対する肝移植適応決定の現状と課題を明らかにするとともに、アルコール代謝酵素遺伝子多型(SNP)による移植後再飲酒予測の可能性を検討することを目的とした。【方法】(1) 肝移植目的にて2010年から2019年に紹介されたアルコール性肝障害症例の経過の検討。(2) 24例のレシピエント・ドナーのアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)遺伝子のSNPと移植後再飲酒の関係を解析。【成績】(1)アルコール性肝障害に対する肝移植目的紹介43例中、肝移植が行われたのは4例(9%)のみであった。他の39例の移植に至らなかった理由は、飲酒継続11例、精査・待機中死亡8例、本人拒否6例、時期尚早6例、レシピエントの医学的不適格4例、ドナー不適格4例であった。追跡可能な35例中25例が死亡した。(2)レシピエントのALDH2のSNPは22例が活性型*1/*1、2例が*1/*2であった。肝移植後の再飲酒はドナーのALDH2のSNPと関連があり、*1/*1の10例中4例、*1/*2の12例中1例、不活性型*2/*2の2例中0例に習慣的な再飲酒を認めた。【結論】アルコール性肝障害の適応決定には多くの課題があり、肝移植に至るのは一部の症例のみであった。移植後の再飲酒予測にはグラフト肝のALDH2遺伝子多型が有用である可能性が示唆された。
著者
土山 真司 鷲尾 健 高砂 恵美 正木 太郎 福永 淳 小川 聡 斉藤 雅也 矢野 嘉彦 錦織 千佳子
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.51-56, 2016 (Released:2016-06-02)
参考文献数
13

40歳代,女性。幼少時期よりアトピー性皮膚炎と診断され加療を受けてきたが,最近では治療を自己中断していた。2015年春頃より全身のそう痒が増悪したため近医より当科に紹介受診となり,精査加療目的に入院した。季節の変わり目に皮疹が悪化するとの訴えがあり,うつ熱症状もあったため発汗機能異常を疑い全身温熱発汗テストを施行したところ顔面や体幹部の発汗低下を認めた。齲歯も複数あり,外分泌腺機能低下を疑い精査を進めたところ,抗 SS-A,SS-B 抗体陽性であり小唾液腺の導管に多数の細胞浸潤を認めシェーグレン症候群との診断に至った。アトピー性皮膚炎に対して外用治療を開始したところ,皮膚所見や好酸球の減少とは逆に肝逸脱酵素の数値が上昇した。シェーグレン症候群合併例のため,他の自己免疫疾患の併発についても精査したところ原発性胆汁性肝硬変が判明した。アトピー性皮膚炎では一般的に発汗機能異常が認められるが,発汗低下が著明な場合はシェーグレン症候群の合併も考慮に入れる必要があると考えられた。またアトピー性皮膚炎治療中に原発性胆汁性肝硬変に関連した肝逸脱酵素の数値が上昇した原因につき,Th1/Th2/Th17 バランスを含めて考察した。(皮膚の科学,15: 51-56, 2016)