著者
宮崎 謙一 石井 玲子 大串 健吾
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.780-788, 1994-10-01 (Released:2017-06-02)
参考文献数
15

単独に提示された音の音楽的音高名を音高コンテクストとは無関係に絶対的に同定することができる絶対音感の能力は、従来から音楽に深い関わりを持つ能力とされてきた。しかし音楽が本質的に相対的音高関係の上に成り立つものであることを考えると、この絶対音感の能力が音楽にとってどのような意義を持つものであるかが問題となる。そこで、絶対音感を持つ音楽専攻の大学生が、相対的音高関係をどのように認知するかを調べる目的で実験を行った。絶対音感テストの結果から、被験者を3グループに分けた。実験課題は、音譜で視覚的に提示されたハ長調の7音メロディと、ハ長調、1/4音低いホ長調及び嬰ヘ長調の3通りのいずれかの調で聴覚的に提示された7音メロディとが旋律的に同じか違うかを判断することである。実験の結果、どのグループもハ長調でメロディが提示された場合に比べて他の調で提示された場合に正答率が低下し、反応時間も長くなるという結果が得られた。また、正確な絶対音感を持つグループでは、絶対音感と巧妙なストラテジを組み合わせて判断したものが多くみられた。これらの結果から、音楽的音高処理において絶対音感が持つ問題点について考察した。
著者
石井 玲子 Ishii Reiko
出版者
新潟人間生活学会
雑誌
人間生活学研究 (ISSN:18848591)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.11-24, 2018-03

本研究の目的は、アメリカの作曲家・ピアニストであるフレデリック・ジェフスキーの≪「不屈の民」変奏曲≫の楽曲構成を理解し、テーマと36の変奏曲の分析をしながら、シンプルな歌の旋律を複雑な現代曲に変奏していく過程を明らかにすることである。また、各変奏曲の多面的な探究を通して、曲に込められたメッセージが楽曲にどのように表現されているかを考察する。原曲の「不屈の民」はチリの民主化運動の時にセルヒオ・オルテガによって作曲された革命歌である。ジェフスキーはこの曲のメロディをテーマとして、36のピアノ変奏曲としてまとめた。楽曲構成としては、異なる音楽的特徴を持つ変奏曲が第1~第5ステージまで発展し、第6ステージではそれまでのすべての要素を要約していることが確かめられた。また、各変奏曲の分析結果から、サイクル5以外の変奏曲は三つの共通した音楽的特徴、①短2度と完全5度のモチーフ、②半音階や全音階のバス進行、③五度圏の調の動き、を持つことが分かった。本研究の結果から、三つの音楽的特徴が様々な要素を結びつける役割を果たし、巧みな変奏技法で長大な曲を一つに統合する過程を検証することができた。ジェフスキーはこれらのテクニックを使って、様々な人々が集まり、対立や衝突を経て団結し、新たな権力に抵抗していく姿を音楽で見事に表現したと言える。日本の演奏家や聴衆にとって、本研究がジェフスキーや彼の作品を理解するための一助となることを期待する。 This study examines The People United Will Never Be Defeated! composed by Frederic Rzewski, a prominent American composer-pianist, through an investigation of overall structure of the work and an analysis of the theme and 36 variations. This examination reveals the complexity and diversity of the work and how this complexity is related to the power of uniting the diverse groups of people. The theme is based on a Chilean revolutionary song,“¡El pueblo unido, jamás será vencido!” (The People United Will Never Be Defeated!), composed by Sergio Ortega, and Rzewski composed 36 variations from this theme. It is clear that Rzewski achieves an incredibly elaborate formal plan for the entire work and the momentum from the first stage to the sixth stage represents how the Chilean people united to oppose the new power. An analysis of the theme and variations reveals that the whole music except for cycle 5 has three common musical features: the minor 2nd /perfect 5th motive (6-20 hexachord according to Allen Forte’s classifications), descending diatonic/chromatic bass line, and the circle-of-fifths sequence of the harmonic progression. These musical elements are used both in tonal and atonal variations so that the composer manages to maintain a certain unity through the lengthy work. This work is a wonderful gift from the twentieth century and a landmark in the history of variations. The present study has aimed to introduce Rzewski’s piano works to pianists and audiences in Japan, and give them the opportunity to perform/understand his pieces.
著者
宮崎 謙一 石井 玲子 大串 健吾
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.780-788, 1994-10-01
被引用文献数
2 1

単独に提示された音の音楽的音高名を音高コンテクストとは無関係に絶対的に同定することができる絶対音感の能力は、従来から音楽に深い関わりを持つ能力とされてきた。しかし音楽が本質的に相対的音高関係の上に成り立つものであることを考えると、この絶対音感の能力が音楽にとってどのような意義を持つものであるかが問題となる。そこで、絶対音感を持つ音楽専攻の大学生が、相対的音高関係をどのように認知するかを調べる目的で実験を行った。絶対音感テストの結果から、被験者を3グループに分けた。実験課題は、音譜で視覚的に提示されたハ長調の7音メロディと、ハ長調、1/4音低いホ長調及び嬰ヘ長調の3通りのいずれかの調で聴覚的に提示された7音メロディとが旋律的に同じか違うかを判断することである。実験の結果、どのグループもハ長調でメロディが提示された場合に比べて他の調で提示された場合に正答率が低下し、反応時間も長くなるという結果が得られた。また、正確な絶対音感を持つグループでは、絶対音感と巧妙なストラテジを組み合わせて判断したものが多くみられた。これらの結果から、音楽的音高処理において絶対音感が持つ問題点について考察した。