著者
石原 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>1.研究の背景と目的:地域活性化のためにはバルイベントは単発ではなく継続開催することが重要と考えられる。東大阪市内においては比較的近接する3地域でバルイベントが継続的に実施されている。地域的特性に応じた運営方法と継続性の視点からの調査が必要と思われる。そこで、本研究では、東大阪市の3地域で行われているバルイベントについて運営方法を比較することを目的とする。</p><p>2.研究対象地域と研究方法:東大阪市は、大阪府中河内地域に位置する市である。市域の面積は61.81㎢、人口は502,784人の中核市である。日本有数の中小企業の密集地であり、また、花園ラグビー場のある「ラグビーのまち」でもある。本研究では、同市内で継続開催されている「布施えびすバル」、「小阪・八戸ノ里なのはなバル」(以下、「なのはなバル」)、「長瀬酒バル」を対象とする。バルイベントの実施状況を把握するため、2018年5月26日に「なのはなバル」、2018年9月8日に「長瀬酒バル」、2018年10月20日に「布施えびすバル」の現地調査をそれぞれ行った。2019年6月に、それぞれの事務局にヒアリングを行った。また、バルマップ等の提供を受け、参加店舗数やバルイベント実施範囲を把握した。考察にあたっては、各バルイベント実施地域内の駅一日乗降客数や<b>『</b>東大阪市小売商業の現状と主要商店街の規模・構造調査結果』を参考とした。これらより得た情報から地域的特性と運営方法について比較を行う。</p><p>3.結果と考察</p><p>(1)布施えびすバル:「布施えびすバル」は2013年10月に第1回が開催され、2018年10月に第6回が開催されている。チケット制度である。一日乗降客数の最も多い布施駅があり、商店街の規模も最も大きく飲食店割合が高い。布施えびすバル実行委員会の事務局は、バルイベントに参加している飲食店のオーナーであるA氏が担っている。ヒアリングによれば、最初は商店街の枠の中で動いていたが、制約が大きく飲食店だけのイベントとして出来ず、物販やサービスを入れるとぼやけてしまう傾向にあった。このため、飲食店のみに転換している。</p><p>(2)なのはなバル:「なのはなバル」は2013年3月3日(日)に第1回が東大阪市で初めてのバルイベントとして開催されている。2018年5月に第6回が開催されている。河内小阪駅は布施駅に次いで一日乗降客数が多く、商店街の規模も同様に次ぐが、飲食店割合は低い。なのはなバル実行委員会の事務局は、週刊ひがしおおさかの代表であるB氏が担っている。ヒアリングによれば、7年前に店の人同士が小阪でもバルイベントをやりたいと話し、中学校区が同一の八戸ノ里にも話が及び、開催の機運が高まった。6回目の開催にあたり、従前のチケット制からリストバンド方式に移行した。</p><p>(3)長瀬酒バル:「長瀬酒バル」は2014年7月4日(金)〜6日(日)の3日間で第1回が開催され、その後、2018年9月に第4回が開催されている。本報告で取り上げる3地域の中で3番目となる。長瀬駅の一日乗降客数や商店街の規模は3番目で、飲食店割合は高い。長瀬酒バル実行委員会の委員長は、バルイベントに参加している飲食店のオーナーであるC氏が担っている。ヒアリングによれば、お客様とコミュニケーションのとれるカウンターのあるお店に地元の住民の方々に足を運んでもらう機会を作ろうと開催した。チケット制や参加証方式ではなく、チラシを持っていけばよく、各参加店舗で1コイン(500円)を支払うという極めて簡素なシステムを導入している。</p><p>4.まとめ:東大阪市の3地域で行われているバルイベントは、チケット方式、リストバンド参加証式、チラシ持参といった3地域でそれぞれが異なる運営方法で実施されていることが確認できた。実行委員会が目指すバルイベントの姿、バルイベントの実施範囲にある商店街の規模や飲食店の割合などを勘案して、それぞれが適切であると判断した方法がとられたからだと考えられる。これは、バルイベントが地域の実情に適った運営方法をとれる柔軟なイベントであることを示唆している。なお、2019年秋にはラグビーワールドカップ開催に伴うバルイベントが市域全域で企画されている。</p>
著者
石原 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2018 (Released:2018-12-01)

Ⅰ はじめに毎日フォーラム(2017)によれば,地方自治体と企業が協力しながら地域が抱える課題に取り組む「包括連携協定」などの連携協定が,全国で急速に増えているとされている.経営学の津久井(2017)は,包括連携協定とは,地方自治体と企業とが,経済・観光・教育・災害対策・環境保全等,幅広い分野で協働することを協議して決定するものと定義している.また,津久井(2014)は,包括連携協定は,企業からはCSRとして,地方自治体からはコミュニティ政策として捉えられるとし,神奈川県とコンビニエンスストア(以下,CVS)のサークルK(当時)とのそれを事例として課題を見出している.国の「PPP/PFI」担当者であった町田(2009)は,横浜市の企業との包括連携協定についてCVSのローソンやセブンイレブンとの協定を事例として記している.また,行政学で児玉(2018)は,公民連携の先駆的取組みを行っている地方自治体として神戸市を取り上げ,企業との包括連携協定の具体的な事例として,CVSの大手三社(セブンイレブン,ローソン,ファミリーマート,以下同様)それぞれとの包括連携協定を取り上げている.これらでは,個々の事例として取り上げられており,包括連携協定が締結された市区の地域的特性は把握していない.そこで,本発表では,地方自治体,特に基礎的自治体である市区とCVSとの包括連携協定に着目し,全国的にみた締結の状況と地域的特性を把握することを目的とする. Ⅱ 全国的な締結状況業界誌『Franchise age』のCVSの包括連携協定特集記事を2009年以降収集し,都道府県および基礎的自治体とCVSとの包括連携協定の締結状況を全国的に把握した.その結果,大手三社が全国的な展開をしていることから,各社HPより現状を把握した.地方自治体とCVSとの包括連携協定がなされたのは,都道府県では和歌山県とローソンが2003年8月に,市区町村では神奈川県藤沢市とセブンイレブンが2003年11月に,それぞれ締結したのが始まりである.大手三社のその後の都道府県との締結状況をみると,ローソンは2017年5月1日現在で1道2府42県と,セブンイレブンは2017年5月31日現在で1道2府39県と,ファミリーマートは2016年9月1日現在で1道2府42県と,それぞれ締結している.また,同様に市区との締結状況をみると,ローソンは7市と,セブンイレブンは36市3区と,ファミリーマートは6市と,それぞれ締結している.なお,各社の上記のとりまとめ以降の進展について各社のニュースリリースから捕捉した結果,ローソンとファミリーマートでは新たな締結はないが,セブンイレブンは2018年6月30日までの間に14市1区と締結していた.大手三社を比較すると,都道府県との締結に大きな差はないが,市区との締結はセブンイレブンが圧倒的に多い状況にある. Ⅲ 包括連携協定の協定事項とそれらの優先順位Ⅱより,セブンイレブンが基礎的自治体と包括連携協定を締結したニュースリリース(場合によれば基礎的自治体の公表資料)を収集し,包括連携協定の協定事項の優先順位を把握した.1番目の事項として最も多くあげられているのは地産地消で約4割を占めており,大都市近郊や地方都市に多い.次いで2番目に多い事項は,市内産品の販路拡大となっている.大都市の市区においては,地産地消の項目が無い市区が見受けられるものの,市内産品の販路拡大をあげている市区は多い.これらの情報を基に,セブンイレブンに聞き取りを行ったところ,協定事項の取捨選択や優先順位については,当該市との協定締結に向けた協議の結果であるとのことであった.なお,発表時に大阪府八尾市の事例について簡単に触れる. Ⅳ 今後の課題基礎的自治体とCVSとの間で結ばれる包括連携協定数は,大手三社のうちセブンイレブンが突出しており,同社が提案できる地域資源のある市区と包括連携協定が結ばれる傾向にあるともとれる.基礎的自治体は選ばれる立場とも考えら,地域資源の有無で左右されるとも考えられる.地方自治体とCVSとの協定は,包括連携協定にとどまらない.都道府県とCVSとの間では災害時の協定が締結されている.近年は,基礎的自治体とCVSとの間で見守り協定や宅配協定が結ばれ始めており,これらがいかなる地域で締結されているかを今後把握していくことも必要と考える.
著者
石原 肇 Hajime ISHIHARA
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
芸術工学2018
巻号頁・発行日
2018-11-27

本稿は、芸術工学を専攻している学生に合わせた教養教育としての人文地理学の講義を目指した実践と今後の課題について報告することを目的とする。高校での地理の履修状況について把握したところ、全体的には履修している学生は少ない状況にある。このため、学生が人文地理学を体系的に理解することができるよう、テキストを使用することが必要であると考える。学生は自らが将来創作するであろう作品と人文地理学との間の関係性は希薄であると考えている場合が多い。一方、学生は自らが将来創作するであろう作品と風土との間の関係性はあるものと考える者の数が増える。人文地理学と風土は同義ではない。しかし、人文地理学は風土を理解する学問の1つである。学生が人文地理学により強く関心を持つことができるよう、自らが将来創作するであろう作品と風土との関係にも触れて講義を展開する工夫が必要と考えられた。