著者
松山 周一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2018 (Released:2018-12-01)

アニメやマンガなどに登場した実在の場所を巡る,いわゆる「聖地巡礼」と呼ばれる現象が登場して久しく,地域とのかかわりという観点からこれまでの間に多くの研究がなされてきた.これらの研究を整理すると,「聖地巡礼」の登場と発展の中において,次第に「聖地巡礼」を誘発させる表象が作中で意識的に施されるようになっていったということがうかがえる. 本研究では,「聖地巡礼」が活発に行われている作品の表象とその特性から,「聖地巡礼」など地域に何らかの事象を発生させる場所の表象について明らかにすることを目的とする.研究方法としては,「聖地巡礼」が活発に行われている作品を検討し,作品内における場所の表象と位置づけなどから,「聖地巡礼」など場所を主体とした展開がなされると考えられる要因について明らかにしていく.研究対象としては2015年に発表され,現在も作品の展開が続いており,「聖地巡礼」が活発に行われている作品である『ラブライブ!サンシャイン!!』とした. 『ラブライブ!サンシャイン!!』では,企画開始当初から内浦や沼津といった地名を用いて場所を言及するなど,「聖地」となる場所を全面的に押し出して作品の展開を実施している.そして,これらに基づくようにして,作中において1)写実的な背景,2)強調された背景,3)パスを意識した演出という3点を特徴とした場所の表象がなされていることがわかった.また「聖地巡礼」の場所や観光名所などがまとめられたガイドブックである『ラブライブ!サンシャイン!!Walker』などのように「聖地巡礼」のための観光ガイドブックも制作者が直接出版するなど,「聖地巡礼」をより実施しやすくするための商品展開がなされていることもわかった. さらに,作中においてほんの少しでも登場した場所を所有している,あるいは作中で登場した商品を実際に販売している個人ないし団体は,スタッフロールの中において「協力」という形でクレジットがなされた.「協力」としてクレジットされた個人ないし団体はテレビアニメ第1期,第2期だけで50件近くにもおよび,それらはアニメに関連するグッズなどを扱う企業から,作中で登場した地域の旅館,ホテル,あるいは特産物を扱う企業,小規模な個人商店,さらには静岡県や沼津市といった地方自治体に至るまで幅広いジャンルのものが並んでいる. 以上の点から,作中において地域をできる限り現実に近づける形で描き,さらに地域の様々な団体や企業を作中において「協力」として名前などを明らかにさせるなどによって「聖地巡礼」を誘発させているということがうかがえる.また,専用のガイドブックも並行して出版させるなど,制作者が「聖地巡礼」を意図的に,また戦略的に行っているということもうかがえる.
著者
小島 泰雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.86, 2018 (Released:2018-12-01)

1.中国の辛い地域 四川料理が辛いことを説明するのは、夏が暑いことを論じるようなある種の徒労を感じる作業である。「麻辣」が正しい辛さの表現である、四川料理にも辛くない料理がある、湖南人の方が「怕不辣」であるといったことも、耳を傾けるべき指摘であるが、ここでは中国のどこが辛い料理を好むのかについてなされた興味深い報告を紹介したい。藍勇(2001)は、シリーズとして刊行された中国12省市の料理書の調味記載を定量的に分析(「辣度」)し、辛さの地域分化を提示している(下表)。この表は、中国食文化の多様な地域的展開において、一つの特色ある地域文化として四川料理を捉えるべきことを示唆している。2.とうがらしの伝播 辛い四川料理はそれほど長い歴史をもつものではない。その辛さにはとうがらしが主たる貢献をなしていることから、新大陸原産のそれが四川に到達して以降であることは容易に思い至るだろう。 この方面の研究も近年、詳細さを深めている。丁暁蕾・胡乂尹(2015)は、明清期の地方誌に記載されたとうがらし関連の記載を全国にわたって丹念にたどり、とうがらしの中国国内での伝播を復原している。初期のとうがらしの呼称である「番椒」は、明朝末期から18世紀までは主に東南沿海地区と黄河中下流という離れた2つの地域で確認され、19世紀前半に東南沿海から北上および内陸に展開している。四川の方志にとうがらしの記載が見られるのは、19世紀になってからとする。方志が数十年間隔で編纂されたことを加味するならば、四川でのとうがらしの普及が18世紀に遡る可能性はあるが、それにしても清朝中期のことである。 新大陸原産の作物が、現代中国の農業と食において欠くべからざる存在となっていることは、とうもろこしやさつまいも、じゃがいもといった主食となる作物、あるいはトマト、なす、かぼちゃといった野菜の名を挙げるだけで十分に理解されよう。これらの入っていない中国料理はなんとみすぼらしいことだろうか。こうした新大陸原産作物の伝播は、時間と空間において決して単純なものではなく、繰り返し様々なルートでもたらされたものとされる(李昕昇・王思明2016)。3.自然地理と歴史地理 熱帯で栽培される胡椒と異なり、とうがらしは温帯でも栽培できる香辛料であり、新大陸から運び出された種子は持ち込まれた世界各地に定着していった。食文化の地域性は、その素材となる動植物の分布・農牧業を媒介項として、気候や地形といった自然地理と結びつけられて解釈されることが一般的である。中国は季節風により夏季温暖多雨であり、とうがらしは農耕地域であればほとんどの地域で栽培しうる。したがって中国における辛さを好む地域性は異なる理路で説明されることが求められることとなる。 とうがらしは、寒冷や湿潤に伴う身体的反応と結びつけられてきたが、類似の気候条件で辛さを好まない地域を容易に提示できることから明らかなように、環境決定論的な単純な推論は説得力を持ち得ない。そこで考慮すべきなのが、社会経済的な、あるいは文化的な、言い換えれば歴史地理的な推論である。 現在、中国では各地で四川料理が食べられているが、共通するのがその庶民性である。とうがらしの入った料理は素材の善し悪しをそれほど問わない。とうがらしが定着していった清朝中期、四川はまさにフロンティアであった。多くの移民を受け入れ、人口過剰な情況になった四川には普遍的な貧しさがあり、「開胃」(食欲増進)に顕著な効果のある(山本紀夫2016)とうがらしは、地域住民に歓迎されたと考えられる。 ただし前近代の農村の不安定性は、四川に特権的な貧しさを認めないであろう。そこで食文化の連続性が浮かび上がる。中国在来の香辛料である花椒が陝西から四川にかけて多く使われていたとする指摘は、さらに深く考究してゆくに値するであろう。 モンスーンアジアに視野を拡げると、胡椒産地であるインドが熱烈なとうがらし受容地域であるのに対して、食文化に関して多様な地域性をもつ中国がとうがらしの受容において選択的であることは、まさに食文化の連続性を物語る対照性と言えるのではないであろうか。
著者
大谷 真樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.154, 2018 (Released:2018-12-01)

植民地の開発・経営において、インフラストラクチャー事業は、重要な要素である。しかし、鉄道や都市計画など、日本統治期の朝鮮における他のインフラストラクチャー事業に対する研究が盛んな一方、河川に関する研究は限定的であった。これは、河川事業が治水、灌漑、電源開発など多方面に渡り、研究も断片的であったことが考えられる。本発表では、河川の持つ自然資源という側面と、河川事業の植民地的性格、そこに携わった土木技術者の流動性と開発思想に着目し、日本統治期の朝鮮における植民地開発を、河川事業の展開という観点から明らかにする。
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.53, 2018 (Released:2018-12-01)

スポーツの地理学的研究は19世紀から散発的に行われてきたが,その数が増加したのは1960年代になってからである。それ以降,地域差の記述から計量分析,人文主義的考察,知覚分析,GISの活用へと,地理学全体の動向に対応するかたちで研究が断続的に行われてきたが,スポーツは一貫して地理学の周辺領域に位置づけられてきた。しかし,スポーツは現代では経済的・社会的・政治的に重要な役割を果たすようになっており,空間や場所はスポーツの重要な要素となることから,地理学的な立場・観点からスポーツ研究を行う意義・必要性は高まっている。以上を踏まえ,本研究は,英語圏諸国におけるスポーツを対象とした地理学的研究の動向を整理し,主な論点を提示することで,日本におけるスポーツの地理学的研究への示唆を得ることを目的とする。 1960年代以降の英語圏諸国においてスポーツの地理学的研究を牽引したのは,「スポーツ地理学の父」と呼ばれるアメリカ人地理学者ルーニーRooneyである。彼は,スポーツの起源,伝播,地域差,組織,景観などの分析の必要性を提起し,計量分析の手法を用いて,主に合衆国におけるスポーツ活動の地域差を分析した。その集大成がAtlas of American Sportsであり,各競技組織のデータをもとに合衆国における82競技の普及状況を地図に表すとともに,13地域各々のスポーツ活動の特徴を記述した。 ルーニーに続いて,英語圏諸国のスポーツ地理学を牽引したのがイギリス人地理学者ベイルBaleである。彼もイギリスにおけるスポーツ活動の地域差の描出から研究を始めたが,次第に研究関心を広げ,サッカースタジアムの立地と地域への影響,選手のキャリアと地域間移動,スポーツ景観,スポーツを通じたトポフィリアの形成など,人間と場所に着目した人文主義的な研究成果を次々と発表した。また彼は,スポーツ地理学の確立を目指して,概ね10年おきにスポーツ地理学の研究動向と課題を整理した著作を発表した。このうちBale(2000)は,1960年代以降のスポーツの地理学的研究について,①ルーニーらを中心とするスポーツ活動の地域差を描き出す研究に加え,②スポーツの伝播や選手の移動,フランチャイズの移転など空間的流動に関する研究,③スポーツイベントやスタジアム建設が地域に与える影響に関する研究,④文化地理学や社会地理学の分析枠組を用いたスポーツ景観に関する研究,の4つに分類した。 ルーニーそしてベイル以降のスポーツ地理学は,商業化・グローバル化の進展という時代の変化を踏まえつつ,実証的研究が積み重ねられてきた。このうち②については,サッカーや野球,陸上競技などを例に,(エリート)スポーツ選手の国際的移動のメカニズムがグローバル・バリュー・チェーン(GVC)やグローバル・プロダクション・ネットワーク(GPN),ソーシャル・キャピタルなどの概念を用いて説明されたりしてきた。③については,スタジアム建設が地域社会に与えるプラスの効果とマイナスの影響が距離減衰効果やNIMBYの概念を用いて検討されたり,オリンピックやサッカーW杯などの大規模イベントが都市再生や地域社会にもたらすプラスの効果(知名度向上,集客促進,スポーツ振興など)とマイナスの影響(ゴーストタウン化,社会的弱者の排除など)が考察されたりしてきた。④については,ルフェーブルLefebvreの空間的実践や差異空間などの概念を用いてプレイヤーの身体と競技施設の関係性が考察されたり,トゥアンTuanのトポフィリアの概念を用いて住民等のチームやスタジアム,街に対する愛着が説明されたり,スリフトThriftの非表象理論を用いて身体運動を分析する必要性が指摘されたりしている。Koch(2017)は,これらの研究をさらに進めるために,批判地理学の概念や手法を取り入れて,スポーツと権力(国家・企業等),エスニシティ,ジェンダー,空間などについて実証的に解明していく必要があると提起している。 上述したように,英語圏諸国ではルーニーやベイルの先駆的業績を受けて,地理学全体の動向に対応しつつ,多様な観点からの研究が蓄積されてきた。今後取り組むべき(残された)研究課題としては,a) スポーツ施設やスポーツイベントのレガシー効果の検証,b) スポーツツーリズムの実態分析,c) スポーツ用品産業の実態解明,などがあげられよう。また,英語圏諸国の地理学者が取り上げたのは主に競争的スポーツであり,余暇・レジャー,保健(健康維持・増進),教育としてのスポーツを取り上げた研究は少なく,そうした研究の充実が期待される。さらに,対象地域は英語圏諸国が主であり,スポーツの地理あるいはスポーツ空間のさらなる理解のためには,日本を含めた他の国・地域における実態解明も必要となろう.
著者
村山 良之 黒田 輝 田村 彩
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.68, 2018 (Released:2018-12-01)

自然災害は地域的現象であるので,学校の防災教育(および防災管理)の前提として学区内やその周辺で想定すべきハザードや当該地域の土地条件と社会的条件を踏まえることが必要である。災害というまれなことを現実感を持って理解できるという教育的効果も期待できる。福和(2013)の「わがこと感」の醸成にもつながる。 学校教育において,児童生徒に身近な地域の具体例を示したりこれを導入に用いたりすることは,ごく日常的である。しかし,山形県庄内地方では,新潟地震(1964年6月16日,M7.5)で大きな被害を経験したが,多くの教員がこのことを知らず,学校でほとんど教えられていない。発災から約50年が経ち,直接経験の記憶を持つ教員が定年を迎えており,教材開発が急務であると判断された。そこで,既存の調査記録(なかでも教師や児童生徒,地域住民が記した作文等)および経験者への聞き取り調査を基に,当時の災害を復元し,それをもとに教材化することを目指した。庄内地方における1964年新潟地震災害の復元 鶴岡市においては,被害が大きい①京田地区②大山地区③西郷地区④上郷地区について調査した。①と②について記す。 ①京田地区は,鶴岡駅の北西に位置し,集落とその周辺は後背湿地である。小学校の校舎を利用して運営されていた京田幼児園では,園児がグラウンドへ避難する際に園舎二階が倒壊し,保母と園児16名が下敷きとなった。学校職員をはじめ,地域住民やちょうどプール建設工事を行っていた従業員によって13名が救出されたが,3名の園児が亡くなった。当時の園児Sさんは,倒壊部分の下敷きとなったうちの1人である。逃げる途中に机やいすから出ていた釘で左の頬を切った。自分もグラウンドに逃げたかったが,体が倒壊した建物にはさまれて動かず,「お父さん!お母さん!」と叫んで助けを求めるしかなかった。その後泣き疲れて眠ってしまい,気付いた時にはすでに救出されていたそうだ。 ②大山地区は,鶴岡市西部に位置する。地区の西部は丘陵地,東部は低地である。町を横断するように大戸川と大山川が流れており,当時の市街地は大戸川の自然堤防上にあった。ここは家屋被害が鶴岡市でもっともひどく,道路に家が倒壊したものもあった。家を失った人々は公民館や寺の竹藪,旧大山高校などで数日間生活した。大山は酒造業が盛んで,醤油作りも行われていたが,これらの被害も大きかった。酒造会社のWさんによると,町中を流れる水路に酒が流れ込み,酒と醤油の混ざり合った異臭が数日間消えなかったそうだ。大山小学校においては,明治時代に造られた木造校舎の被害が大きかった。当時3年生だったOさんの話によれば,教室後方の柱が倒れてきたとのことだった。大山小学校ではちょうど3日前の避難訓練の成果がでて,職員と児童全員がけがすることなく避難することができた。 酒田市においては,既存文献で被害の大きい①旧市街地②袖浦・宮野浦地区の2地域について調査した。うち①について記す。 ①旧市街地は最上川右岸の砂丘とその周辺に位置する。水道被害が深刻でとくに上水道の被害が大きく,6月17~19日にかけて完全断水となった。その間は自衛隊の給水車で水を賄っていた。酒田第三中学校で2年生の女生徒がグラウンドに避難する途中に,地割れに落ちて圧迫死した。グラウンドには,何本もの地割れが走り,そこから水が噴き上げため,落ちた生徒の発見が遅れた。犠牲者と同学年のIさんの話によると,校庭でバレーボールをしている際に地震が起こった。先生の指示で最上川の堤防に逃げようとした時,グラウンドにはすでに地割れが起こっていた。地割れが自分に向かって走ってきた恐怖は,今でも地震の際に思い出すそうだ。水道管の被害,グランドの地割れや憤水から,酒田では広域にわたって激しい液状化が発生したことがわかる。新潟地震の教材化 現行の小学校社会科学習指導要領では,3年「市の様子」,「飲料水・電気・ガス」,4年「安全なくらしを守る」,「地域の古いもの探し」,5年「国土と自然」,6年「暮らしと政治」の各単元で,上記結果を用いた授業展開が考えられる。このうち3,4年社会科では地元教育委員会作成の副読本を用いることが一般的である。鶴岡市と酒田市の現行副読本には新潟地震災害は含まれていないため,これに追加可能な頁を,上記の研究成果を基に試作した。 鶴岡市教育委員会では,次期改訂で新潟地震を取り上げることとし,2018年度から検討を開始した。以上の研究成果が次期副読本に活用される見通しである。
著者
小池 司朗 菅 桂太 鎌田 健司 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.60, 2018 (Released:2018-12-01)

国立社会保障・人口問題研究所は2018年3月,「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」(以下,地域推計)を公表した。この地域推計は,2015年の国勢調査人口を基準として,2045年までの地域別人口を男女5歳階級別に推計したものである。推計手法はコーホート要因法を採用し,推計に必要となる仮定値は過去に観察された出生・死亡・人口移動の地域差を反映させて設定している。したがって,人口移動の地域差が推計結果に大きな影響を与えていることはいうまでもないものの,出生力と死亡力の地域差も推計結果に無視できない影響を及ぼしていると考えられる。本研究では,地域推計の仮定値を利用し,出生力と死亡力に地域差が存在することによって,将来人口にどの程度の差が生じるかについて検証する。 地域推計においては,出生に関する仮定値として子ども女性比,死亡に関する仮定値として男女年齢別生残率を,それぞれ用いている。そこで,仮に子ども女性比と男女年齢別生残率が全国一律の値であったとした場合,具体的には国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位・死亡中位仮定)から得られる全国水準の子ども女性比と男女年齢別生残率を各地域に一律に適用した場合の推計値を試算し(以下,出生死亡地域差なし推計),地域推計の結果と比較することによって,出生力と死亡力の地域差が将来推計人口に及ぼす影響を抽出した。また,出生力と死亡力それぞれの地域差の影響をみるために,死亡力のみ地域差が存在しないとした場合の推計値も併せて試算した。なお,両推計値の試算に必要となる人口移動に関する仮定値は地域推計と同じ値とした。 出生死亡地域差なし推計による2045年の人口の試算値を基準とする同年の地域推計の人口との乖離について,出生力と死亡力それぞれの地域差の影響を変化率の形で表すと,都道府県別にみれば,出生力の地域差による影響が最もプラスなのは沖縄県(+9.1%),最もマイナスなのは東京都(-3.3%),死亡力の地域差による影響が最もプラスなのは長野県(+1.2%),最もマイナスなのは青森県(-2.5%)となった。沖縄県以外でも,九州の各県では出生力の地域差による変化率が+2~+5%にのぼり,相対的な高出生率が人口減少の緩和に少なからぬ効果を持っていることが明らかになった。
著者
浅田 晴久 松田 正彦 安藤 和雄 内田 晴夫 柳澤 雅之 小林 知 小坂 康之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.73, 2018 (Released:2018-12-01)

1.はじめにモンスーンアジア、中でも東南アジア大陸部稲作圏の国々ではすでに食糧自給がほぼ達成されたことから、農業技術開発・普及および農村開発は、国家戦略の中では優先順位が下がっている。つまり「緑の革命」期の政府による、「技術の押し売り」的状況が改善し、近代農業技術の画一的な普及状況が一変している。国によっては農民の自発的な技術変革が顕著に見られるようになってきており、農業技術発展において各国の状況にはかなり大きな温度差が生じつつある。伝統農業時代に存在した、地域による多様性が再び出現しつつあると言える。また、世界の農業技術が向かっている方向も、多収技術から持続性、安定性、安全性、低投入技術へと移り、脱化学農業の動きも活発である。この変化を国際的な比較を通じて整理し、地域発展の共時的現象として確認し、地域の固有性との関連で農業技術発展における意義を明らかにすることが本研究の目的である。近年、特に2000年以降、地域研究およびそれに隣接する分野の諸研究において農業技術の現状を具体的に記述し、その変容等の意義を問う研究事例がほとんど見られなくなってきている。これは「緑の革命」という東南アジア諸国に共通した農業・農村開発国家戦略が主政策でなくなりつつあることにも関係している。しかし、そのような状況下であるからこそ、東南アジア各国では、国家の圧力から放たれた農民の自由意志による近代と伝統の統合によるもう一つの技術革新が静かに進行していると言える。まさに東南アジア大陸部では、地域の固有性に強く立脚した農業技術発展がその多様性を大きく開花させつつあると言える。このことは現在までほとんどまとまった形で報告されていない。本研究は、水田稲作に着目して、その現象の実態と現代的意義を明らかにする。それにより、地域研究に携わる研究者コミュニティと東南アジアの人々とともに、将来の農業技術のあり方について考えるという意義ももつ。2.研究手法本研究は、京都大学東南アジア研究所の共同研究として2016~2017年度の2年間、浅田が代表を務めて実施した。各国を担当する研究チームを、インド・アッサム(浅田)、バングラデシュ(安藤)、ミャンマー(松田)、ラオス(小坂)、カンボジア(小林)、ベトナム(柳澤)、という形で編成した。研究期間と予算が限られていたため、新たに現地調査を実施するという形式はとらず、各担当者が、これまで現地のカウンターパートとともに行ってきた研究成果を持ち寄り、研究会を定期的に開催して情報交換を行った。各国で近年みられるようになった新しい稲作技術の動向を整理し、モンスーンアジア全域で共通している問題を考察した。 3.結果と考察本研究の成果として、以下の知見が得られた。「緑の革命」の推進期まで、アジア各国では、食料自給を高めるために、政府によるトップダウンにより農民の間に稲作技術が普及していったが、現在は、農民が自由に技術を選択できる状況になっている。各国において機械化農業が進んでいるが、省力化・効率化など技術面での多様性が増している。各国政府は自給率を達成した後もなお収量を重視しているが、農民はコストを重視しており、両者にギャップが生じている。特に農外就労機会の増加、農村から都市への人口移動により、農業就業者の数はいずれの地域でも減少傾向にあり、稲作の持続性にとって大きな問題となりつつある。農業・農村の魅力を高めるには、国家が一方的に関与するだけでなく、農民の主体性も認められなければならない。もはやトップダウン型の政策が通用する時代ではないため、農村の現場で起こっている変化を肯定的に捉えて評価しないと、いかなる農業政策も定着させることは難しいと考える。
著者
松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2018 (Released:2018-12-01)

1 アジアのモンスーン気候気象学・気候学では,モンスーン(季節風)気候とは,季節によって卓越風向が反対になる現象のことである。Ramage (1971)では,1月と7月を夏と冬の代表月として,1) 地表風の卓越風向が120度以上変化, 2) 卓越風の出現頻度の平均が40%以上,3) 卓越風の平均風速が3 m/s以上,4) 経緯度5度以内での高低気圧中心の出現が2年に1回以下,との4条件によって,世界のモンスーン気候の分布を示した。この図によると,日本や韓国・中国を含む東アジアは,上記の4)の条件によってのみ,モンスーン気候ではない,とされた。このような地域は世界の他の中緯度から亜熱帯地域には存在しない。1990年代になると,気象衛星観測の充実により,モンスーン気候のもう一つの側面である夏雨気候が注目され,モンスーン地域の定義を雲活動や降水量から行う研究が主流となってきている。例えばWang and Ding (2008) では,1) 北半球の夏(5~9月)と冬(11~3月)の降水量の差を年降水量で除したモンスーン降水指標(MPI)が0.5以上,2) 夏と冬の降水量の差が300 mm以上の地域をモンスーン気候域とすることを提案している。この定義によると,アジアからアフリカにかけての伝統的なモンスーン地域以外に,世界の全大陸とその周辺域にモンスーン気候が存在することとなり,グローバル・モンスーンとも呼ばれる。しかし,この定義においても,緯度30度より極側にモンスーン気候がみられるのは,アジアだけであり,亜熱帯から中緯度にかけて広がるモンスーンアジアの気候の特異性は,依然として明白である。2 大陸東西での大きな乾湿コントラスト グローバル・モンスーン気候論の一つの主眼点は,多雨の夏雨モンスーン気候と,その西側のやや極側に隣接する乾燥域とが,対で存在することである。この乾燥域が大陸上に広く東西に広がっている大陸は,ユーラシア大陸だけである。換言すると地中海性気候が広大な面積を占めている大陸は,ユーラシア大陸だけである。 ジャレド・ダイヤモンド(2000)は,東西に長いユーラシア大陸が,農耕の発展に有利であったとし,また,藤本(1994)や佐藤(2016)などは,ユーラシア大陸東部の夏雨地域と,西部の冬雨地域の違いを論じている。ユーラシア大陸東西の気候コントラストが人類史に果たしてきた役割はきわめて大きかったといえる。3 モンスーンと稲作 ユーラシア大陸東部のモンスーンの降雨による夏雨地域には,水田が広がっている。篠田他(2009)によれば,この水田から蒸発した水蒸気が,中国大陸上の梅雨前線帯における対流活動を活発化させているという。水田という人間活動が作り出した陸面状態が,モンスーンアジアに特有の大気陸面相互作用をもたらしている可能性がある。浅田と松本(2012)は,ガンジス川・ブラマプトラ川の下流域において,近年洪水が頻発する一方,バングラデシュでは乾季作が拡大し,1998年の大洪水以降は,乾季米が雨季後期米の生産量を上回るようになったことを示した。洪水を契機とした灌漑の普及が,モンスーンアジアの稲作を大きく変貌させている。4 大陸東西での気候の将来変化IPCC(2013)などによる地球温暖化に伴う気候の将来予測においては,熱帯アジアモンスーン域では降水が増加し,地中海性気候域では,乾燥が強まる可能性があることが指摘されている。現在でも大きいユーラシア大陸の東西の乾湿気候コントラストがより強まる方向に向かうことになる可能性が高い。
著者
小岩 直人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.142, 2018 (Released:2018-12-01)

自然環境と食の関連性は,おもに気候から考察が行われることが多く,地形学の視点から食を掘り下げて検討した例は少ない.中学校社会地理,高校地歴科地理の教科書では台地面は果樹園や畑,低地は水田といった小地形~微地形スケールでの土地利用との対応についての記述がされ,それが地形構成物質の透水性の違いによるものであることが解説されているが,研究レベルでの議論は活発ではない. 近年,巽(2014)は地質学的(地球科学的)な観点から,和食の美味しさについて,「出汁」,「寒鰤」,「ボタンエビ」などの12のテーマについて,ユニークな解説を行っている.これは,地球科学の観点から食についての興味深い考察の可能性が示されたものといえるであろう.本報告では,食を取り巻く地形環境について,巽(2014)が扱った時間・空間スケールを,より人間生活に近づけたスケールにおいて地形学的な視点,とくに地形発達史を考慮した試みを報告する. モンスーンアジアに位置する日本は,湿潤変動帯,中緯度偏西風帯にも分布しているともいわれ,活発な地殻変動,火山活動がみられるとともに,気候変動に敏感に応答した地形変化が生じやすい場所でもあるといえるであろう.これらをふまえると農業,漁業などにおいても,現在の気候・地形環境のみならず,過去の環境変化も含めて食を検討することができると思われる.本発表では発表者がこれまで行ってきた地形発達に関する研究の中から,海跡湖をとりあげ,食に関する考察を行った事例を述べる. 青森県太平洋側の小川原湖では,現在,汽水環境のもとでヤマトシジミ,シラウオ等の漁業が行われている.汽水環境は太平洋と小川原湖の間に発達する沿岸州によるものであるが,この沿岸州の発達以前と推定される縄文時代早期~前期前葉の貝塚である野口貝塚では,アサリ・シオフキガイ・ハマグリが見出され,当時の人々は現在よりも塩分の高い環境で生育する貝類を食していたことが明らかにされている.これらの貝は,泥質の海底には適しておらず,砂地を好むものである.発表者らは野口貝塚周辺でボーリングを実施し,そのコアの解析の結果,縄文海進に伴って海食崖の侵食が進み多量の砂層が,間欠的に供給されることにより海底の埋積が急激に進んだことを明らかにした(髙橋ほか,季刊地理学へ投稿中).このように,地形変化を考慮すると,塩分変化のみならず,地形環境が当時の「食」の背景に関する情報を得ることができる. 青森県岩木川最下流部に位置する十三湖は,日本でも有数のヤマトシジミの漁獲量をあげる汽水湖である.岩木川下流部では,縄文海進時以降に形成された水深の大きな湖(潮流口からの海水が流入し,湖水の成層化が生じていた)が,岩木川等の河川が運搬する土砂により埋積されつつある.十三湖はその埋め残された水域である(最大水深約2m).湿潤変動帯ならではの急峻な山地,火山からのモンスーンに起因した降水による多量の土砂供給,(ヤマトシジミの成長に必要な)珪酸の供給,汽水湖となるように浅い水深の湖沼を攪拌する冬季の季節風と暖向期のヤマセなど,その多くがモンスーンアジアの特徴によるものといえるであろう.また,人為のインパクトは十三湖に流入する土砂を自然状態の1/10程度の量に減少させ,湖の埋め尽くされる時間を延ばしている.また,河口部の導流堤が適度な海水の流入をもたらすなど,ヤマトシジミには人為の影響もかなり大きい.一方,人為のインパクトはヤマトシジミの好む砂の堆積を妨げ,泥質の湖底の面積を増加させている.十三湖では,微妙なバランスの中でシジミ漁が営まれている. 周知のように,日本では地形編年に関する研究成果の蓄積が著しい.食に関する地形学的な視点での研究は,新たな研究を開始することも必要かもしれないが,まずは(とくに自然地理学,地形学の)系統地理学の成果を用いて食を説明することからはじめることが現実的であると思われる.たとえば山地斜面も発達史と,植生分布,それに基づく山菜の分布,生業としている人々の生活との関係や,海水準変動と海流と漁業とのかかわりなど,食と自然環境を検討するための素材は数多く存在しているといえるであろう.引用文献高橋未央・小野映介・小岩直人 投稿中.青森県野口貝塚周辺における完新世初頭から中期の地形環境.季刊地理学.巽 好幸 2014.和食はなぜ美味しい.岩波書店.181p.
著者
川口 夏希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.151, 2018 (Released:2018-12-01)

1.ジェントリフィケーションと「ルーラル」ジェントリフィケーション ジェントリフィケーションは従来,大都市内部のインナーシティで生起する,極めて都市的な現象として理解されてきたと言えよう.産業構造の転換の中で衰退したかつての工業地域が再価値付与され,地区の景観および居住者の社会階層の変化,低所得者層やマイノリティといった旧住民の立退きが引き起こされるという現象である. ジェントリフィケーションをめぐっては,ニール・スミスの議論に代表される,地代格差によって利潤を得ようとする資本の動きや,ポストフォーディズム期の社会集団と嗜好性の変化といった,様々な論点から議論が蓄積されてきたが,そこに共通しているのは,インナーシティという大都市内部の衰退した(価値が損なわれた)空間に対する価値の再付与をめぐった諸力のせめぎ合いであるという点であろう. しかしながら近年,インナーシティだけではなく,都市とは大きく背景の異なる「ルーラル」エリアにおいてもジェントリフィケーションが生起することが提起されている.このルーラル・ジェントリフィケーションと呼ばれる現象を,どのように理解すればよいのであろうか.ルーラルな空間への価値の再付与はどのようにして起こっているのであろうか.どのような社会経済的背景において,誰によって,何が価値付けられるのであろうか.そして,その過程において,どのようにジェントリフィケーションへと帰結していくのか,明らかにする必要がある.2.「豊穣化」による可能性とジェントリフィケーション 「価値の再付与」をめぐっては,市場経済自体の変化に目を向けることが重要である.現在,とりわけ先進諸国では,企業は過去の物語を内包する,「すでにあるもの」の価値の再付与によって利潤を得る傾向にある.フランスの社会学者であるボルタンスキーとエスケールによって「豊穣化の経済」として近年論じられるものである.その議論の中で強調されるのは,豊穣化の経済において,歴史的な地区,アート・文化によって意味づけをされた場所が豊穣化されるという点である.加えて,その豊穣化のプロセスは,衰退した地域(たとえば,脱工業化によって衰退した工業地域)に「再生」の可能性を与える一方で,ジェントリフィケーションのリスクをも併せ持つことが指摘されている.地域のコモンズの生産なのか,あるいは,ジェントリフィケーシォンの生起なのか,価値の再付与が有する両義性の指摘であるとも換言できよう.3.兵庫県篠山市の経験 以上のような問題意識を踏まえて,本報告では,兵庫県篠山市で行われている地域再生に向けた取り組みを事例として取り上げる.篠山市は,大阪市,神戸市,京都市から約50kmに位置する人口4万人強の小都市である.近年,日本においても,歴史的な街区や建造物のリノベーションが注目を集め,農村部への若年層の移住が増加する中,篠山市もまた,若年層の移住と古民家のリノベーションやコンバージョンが顕著な地域である. 他方で,人口減少,高齢化,空き家問題,限界集落といった日本の地方都市に共通する深刻な問題を抱えながら,地域に残る歴史的景観や古民家,里山での生活の価値を見直し,地域再生へとつなげようとする政策や取り組みが実践されている. 篠山市の事例を通じて,価値の再付与(豊穣化)がルーラルな地域に再生をもたらすのか,それともジェントリフケーションへと帰結してしまうのか,検討したい.
著者
石原 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2018 (Released:2018-12-01)

Ⅰ はじめに毎日フォーラム(2017)によれば,地方自治体と企業が協力しながら地域が抱える課題に取り組む「包括連携協定」などの連携協定が,全国で急速に増えているとされている.経営学の津久井(2017)は,包括連携協定とは,地方自治体と企業とが,経済・観光・教育・災害対策・環境保全等,幅広い分野で協働することを協議して決定するものと定義している.また,津久井(2014)は,包括連携協定は,企業からはCSRとして,地方自治体からはコミュニティ政策として捉えられるとし,神奈川県とコンビニエンスストア(以下,CVS)のサークルK(当時)とのそれを事例として課題を見出している.国の「PPP/PFI」担当者であった町田(2009)は,横浜市の企業との包括連携協定についてCVSのローソンやセブンイレブンとの協定を事例として記している.また,行政学で児玉(2018)は,公民連携の先駆的取組みを行っている地方自治体として神戸市を取り上げ,企業との包括連携協定の具体的な事例として,CVSの大手三社(セブンイレブン,ローソン,ファミリーマート,以下同様)それぞれとの包括連携協定を取り上げている.これらでは,個々の事例として取り上げられており,包括連携協定が締結された市区の地域的特性は把握していない.そこで,本発表では,地方自治体,特に基礎的自治体である市区とCVSとの包括連携協定に着目し,全国的にみた締結の状況と地域的特性を把握することを目的とする. Ⅱ 全国的な締結状況業界誌『Franchise age』のCVSの包括連携協定特集記事を2009年以降収集し,都道府県および基礎的自治体とCVSとの包括連携協定の締結状況を全国的に把握した.その結果,大手三社が全国的な展開をしていることから,各社HPより現状を把握した.地方自治体とCVSとの包括連携協定がなされたのは,都道府県では和歌山県とローソンが2003年8月に,市区町村では神奈川県藤沢市とセブンイレブンが2003年11月に,それぞれ締結したのが始まりである.大手三社のその後の都道府県との締結状況をみると,ローソンは2017年5月1日現在で1道2府42県と,セブンイレブンは2017年5月31日現在で1道2府39県と,ファミリーマートは2016年9月1日現在で1道2府42県と,それぞれ締結している.また,同様に市区との締結状況をみると,ローソンは7市と,セブンイレブンは36市3区と,ファミリーマートは6市と,それぞれ締結している.なお,各社の上記のとりまとめ以降の進展について各社のニュースリリースから捕捉した結果,ローソンとファミリーマートでは新たな締結はないが,セブンイレブンは2018年6月30日までの間に14市1区と締結していた.大手三社を比較すると,都道府県との締結に大きな差はないが,市区との締結はセブンイレブンが圧倒的に多い状況にある. Ⅲ 包括連携協定の協定事項とそれらの優先順位Ⅱより,セブンイレブンが基礎的自治体と包括連携協定を締結したニュースリリース(場合によれば基礎的自治体の公表資料)を収集し,包括連携協定の協定事項の優先順位を把握した.1番目の事項として最も多くあげられているのは地産地消で約4割を占めており,大都市近郊や地方都市に多い.次いで2番目に多い事項は,市内産品の販路拡大となっている.大都市の市区においては,地産地消の項目が無い市区が見受けられるものの,市内産品の販路拡大をあげている市区は多い.これらの情報を基に,セブンイレブンに聞き取りを行ったところ,協定事項の取捨選択や優先順位については,当該市との協定締結に向けた協議の結果であるとのことであった.なお,発表時に大阪府八尾市の事例について簡単に触れる. Ⅳ 今後の課題基礎的自治体とCVSとの間で結ばれる包括連携協定数は,大手三社のうちセブンイレブンが突出しており,同社が提案できる地域資源のある市区と包括連携協定が結ばれる傾向にあるともとれる.基礎的自治体は選ばれる立場とも考えら,地域資源の有無で左右されるとも考えられる.地方自治体とCVSとの協定は,包括連携協定にとどまらない.都道府県とCVSとの間では災害時の協定が締結されている.近年は,基礎的自治体とCVSとの間で見守り協定や宅配協定が結ばれ始めており,これらがいかなる地域で締結されているかを今後把握していくことも必要と考える.