- 著者
-
石山 裕菜
鈴木 直人
及川 昌典
及川 晴
- 出版者
- 一般社団法人 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.1, pp.1-10, 2020-03-30 (Released:2020-05-01)
- 参考文献数
- 37
- 被引用文献数
-
3
悲観主義者は楽観主義者よりも不安を感じやすく不適応な傾向にあるが,その一部には不安を手かがりに予防的な対処を行い,パフォーマンスを向上させる防衛的悲観主義者が含まれる(Spencer & Norem, 1996)。表現筆記には,パフォーマンスの向上を含む様々な効用が報告されているが,それに関する知見は混交している。本研究では,表現筆記の効用が個人の認知方略と一致した内容を筆記することによって調整される可能性を,客観的なパフォーマンス指標であるダーツ課題を用いて検討した。参加者97名は,課題を行う前に,失敗する可能性に注目して対処を考えるコーピング筆記,成功する可能性に注目して課題に集中するマスタリー筆記,課題とは無関係な内容を考える統制筆記のいずれかを行った。その結果,防衛的悲観主義者においては,コーピング筆記条件のパフォーマンスが他の筆記条件よりも高かった一方で,方略的楽観主義者においては,差が観察されなかった。表現筆記の効用は,適応に優れる楽観主義者よりも不安を感じやすい悲観主義者において顕著であり,また,防衛的悲観主義者の持つ慢性的な認知方略と整合した内容で表現筆記を行うことが,パフォーマンスの向上に有効である可能性が示唆された。