著者
石島 このみ 根ヶ山 光一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.326-336, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
40
被引用文献数
4

本研究では,乳児と母親のくすぐり遊びにおいて,いかに相互作用がなされているのかを明らかにし,そこにおいて意図理解がなされている可能性とその発達について検討した。観察開始時生後5ヶ月の母子1組を対象とし,3ヶ月間,家庭での自然観察を縦断的に行った。その結果,生後6ヶ月半の時点で,くすぐり刺激源(母親の手)と母親の顔との間で交互注視が起こり,その生起頻度は発達的に増加していた。さらに生後6ヶ月半頃のくすぐり遊びの行動連鎖について検討したところ,くすぐったがり反応が生じた事例では,身体に触れずにくすぐり行動を顔の前に提示する「くすぐりの焦らし」がなされた後に乳児がくすぐり刺激源を見る,くすぐり刺激源と母親の顔に視線を配分させる,「くすぐりの焦らし」において予期的にくすぐったがる,といったパターンが生起していた。このことから,生後6ヶ月半の時点で,乳児は母親とくすぐりの文脈を共有し,母親の意図を読みとりながら能動的に相互作用を楽しんでいることが示唆された。くすぐりの場は,身体部位を対象化することで成り立つ「原三項関係 proto-triadic relationship」(Negayama, 2011)の一例であると言える。そのような母子の身体を媒介項とした自然な相互作用における萌芽的な意図の読みとりが,三項関係における意図理解の成立への橋渡し的役割を担っている可能性が指摘された。