- 著者
-
外山 紀子
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.4, pp.244-263, 2017 (Released:2019-12-20)
- 参考文献数
- 93
ここ10年ほどの間に,幼児の選択的信頼(あるいは選択的な社会的学習)について多くの研究が行われるようになった。選択的信頼とは情報源としての信頼性という点から他者を区別し,特定の他者から学ぼうとする傾向をいう。これらの研究は,伝統的な子ども観,すなわち子どもは他者を信じやすく(あるいは騙されやすく),たとえ自分の考えとは異なるものでも他者の言うことを信じる傾向があるという見方に異議を唱えるものである。本稿では幼児期の選択的信頼に関する研究を,他者の認識論的属性(情報の正確さや確信度,専門性など)と非認識論的属性(年齢,馴染み,話しことばの特徴,身体的魅力や社会的地位など)という点から分けて,整理を行った。これまでの研究は幼児(とりわけ3歳児)の能力をどう評価するかについて,一種の緊張状態の中にあり,幼児が他者の情報を鵜呑みにせず合理的な手がかりに基づいて情報源を選択する能力があることをアピールする研究もあれば,逆に,他者の情報に懐疑的な目を向けることがいかに困難であるかを強調した研究もある。本論文では現在までの研究の概観をふまえた上で,このまだ若い研究分野が実践的,学術的にどのような意義をもつのか,そして今後の課題について論じた。