著者
石川 和樹 中山 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.125-136, 2017-03-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
14

近年,地理情報システムを用いた歴史地理学研究が活発化しており,歴史的な地理情報の整備が進んでいる.しかし整備には多くの時間を費やし,また大量の歴史的な地理情報の取得や作成に適したシステムの整備は不十分である.住所を位置座標に変換する手法であるアドレスジオコーディングを用いたシステムは存在しているが,どれも現在の住所を対象とするものであり,明治・大正期の住所は扱うことができない.そこで本研究では旧東京市15区の住所を位置座標に変換するシステムを構築し,歴史的な住所を位置座標に変換する作業の効率化を図った.処理時間について計測を行った結果,十分実用的な速度で動作することを確認した.また,時期の異なる住所による認識率の比較を行った結果,1890年代から1920年代の住所において高い認識率を示すことが明らかとなった.構築したシステムは「近代東京ジオコーディングシステム」という名称で公開した.
著者
石川 和樹 中山 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.&nbsp;&nbsp;&nbsp;</b><b>はじめに<br> </b> 地名とはその地域に付与された名称であるが,その由来は山や川などの自然由来のものから,方位に由来するもの,施設に由来するものなど様々である.また,漢字表記される地名であればその読み方が存在するが,時間経過に伴い読み方が変化する地名の存在や,難読地名の存在などから,地名を漢字のまま分析することでより地名の本質的な分析が可能となる.そこで本研究では,地形図に記述してある地名を漢字のままDPマッチングを行い地名間の類似性を求めたうえで,ある特定の漢字を含む地名の時間的変化を定量的に求めることを目的とした. DPマッチングとは,Dynamic Programming(動的計画法)を用いて2つの対象間の類似性を数値化できるアルゴリズムで,音声認識や画像認識において多用される手法である.<br>&nbsp;<b><br> 2.&nbsp; </b><b>研究手法<br></b> 1/50,000旧版地形図「菊池(隈府)」,「阿蘇山」,「御船」,「高森」の範囲を対象地域とし,地形図は1902年から1984年のうちなるべく同時期になるように選択した各図郭6枚,計24枚を用いた.同時期の地形図ごとに1枚のレイヤーにまとめ,時代の古いものからlayer1~6 とした.そしてこれらの地形図をデジタルデータ化し,座標(日本測地系・公共測量座標系)を付与した.次にlayer1~6に表記されている全ての文字列についてデジタイズし,そのうち居住地域名のみ(6680地名)を抽出した.これらの居住地域名の表記から,DPマッチングを用いて2つの地名間の類似性(不一致度)を求めた.この際,文字不一致のペナルティを50,1文字ずれのペナルティを1とした.これにより求まった類似性を2地名間の距離とし,全ての地名間の距離行列を作成した.この行列に対して,統計ソフトRを用いてWARD法によるクラスター分析を行った.得られたデンドログラムを非類似度5000で切り,22個のクラスターを得た.これにより,同一クラスターには同じ漢字を含む地名が分類されたことになる. 次に,河川と現在の小地域境界に対してコストを与えて地名の代表点からの加重コスト距離を計算し,これに基づいて空間分割を行って地名のかかる範囲を決定した.この際,河川または小地域境界のある部分をコスト10,それ以外を1とした.このようにして6時期分の地形図に対して地名のかかる範囲を決定し,22個のクラスターのうち減少傾向にあったクラスター3個についてその分布の変化を地図化した.そしてそれらの要素を確認し,減少している地名の特徴を探った.<br><br><b>3.&nbsp; </b><b>結果</b><br> 得られた22個のクラスターのうち,含まれる地名の傾向が明確なクラスターは17個あり,傾向が明確ではなかったクラスターは5個であった.17個のクラスターのうち時間経過とともに含まれる地名数が減少するクラスターは3個みられた.一方,地名数が増加するクラスターはみられなかった.以降,減少するクラスター3個の結果について述べる.減少するクラスターは「田」,「尾」,「古閑」のつく地名であった.「田」地名においては「無田」・「牟田」の付く地名の消滅がみられた.「尾」地名はデータの精度の問題から,減少した結果となった.「古閑」地名においては,特に対象地域西部の熊本市街地の拡大にともなう宅地開発による消滅がみられた.「無田」・「牟田」や「古閑」の付く地名は九州に多い地名であることから,本研究ではその地特有の地名の減少傾向が確認された.