著者
岩田 大介 小林 豊 石本 万寿広
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.79-83, 2020
被引用文献数
1

フェロモントラップは,従来から利用されている予察灯と比較し,廉価で,設置も容易であることから,多くの害虫でそのモニタリングに用いられている。捕獲虫を自動で計数するフェロモントラップは,調査を省力化する目的で,以前から研究開発が行われており,その対象はチョウ目害虫やカメムシ目害虫,貯穀害虫にまで及び,計数の手法は,画像解析,光電センサ,電撃電極などが報告されている。市販・実用化された事例もあり,自動昆虫捕獲装置「ムシダス2000」((株)エルム)は,ショック電極に触れて落下した誘引虫を高圧電流を付加した計数用ローラで巻き込み,その際に生じる電気信号を用いて計数する装置で,計数結果を自動で送信するシステムを実装することで調査の自動化を可能とした。しかし,ムシダス2000は,本体価格が約70万円と高価であったため,広く普及するには至らず,2019年現在では,販売終了となっている。近年,情報通信技術の発達により,コンピューターの小型化,低価格化が進んでおり,センサ制御可能なシングルボードコンピューターが数千円で販売されている。吉田・植野は,シングルボードコンピューターと各種環境センサ(気温,湿度,気圧,風速,降水量)を用いた低価格環境センサシステムを構築し,野外でも安定稼働することを実証した。光電センサは,投光器から出る光が物体に遮られたり,反射すると反応するセンサで,片山はファネルトラップの漏斗部の先端に,ガラス管と光電センサを取り付け,ガラス管を通過したハスモンヨトウSpodoptera litura Fabricius(チョウ目: ヤガ科)を計数できることを報告している。筆者らは,これらの技術を利用し,市販品を組み合わせてフェロモントラップを改良することで,従来よりも廉価にフェロモントラップ調査の自動化ができると考えた。そこでハスモンヨトウを対象として,ファネルトラップに光電センサとシングルボードコンピューターを搭載し,捕獲虫の自動計数を試みたので,報告する。
著者
石本 万寿広
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.107-114, 2007-05-25
被引用文献数
1 11

登熟期のイネにおけるアカヒゲホソミドリカスミカメ幼虫の発育に対するイネの登熟段階と割れ籾発生の影響を明らかにするため,割れ籾が多い品種「わせじまん」と割れ籾が少ない品種「コシヒカリ」を用いて,出穂日,出穂10日後,出穂20日後,出穂30日後の各登熟段階のイネに1齢幼虫を放飼し,放飼10日後の生存個体数と被害粒数,割れ籾数を調査した.割れ籾数は,出穂日は0,出穂10日後はわずかであり,幼虫生存率は,出穂日は高く,出穂10日後は低かった.出穂20日後, 30日後では年次による変動はあったが,「わせじまん」で幼虫生存率が高く,割れ籾数も多かった.出穂20日後, 30日後の被害粒数と幼虫生存率の間には有意な正の関係が認められ,幼虫の発育には玄米の吸汁が密接に関係していると考えられた.この被害粒のほとんどは割れ籾であり,割れ籾数と幼虫生存率の間には有意な正の関係が認められたことから,玄米の吸汁は主として割れ籾からであり,幼虫発育には割れ籾の発生が密接に関係していると考えられた.割れ籾の発生時期・発生量が水田における幼虫発生量の変動要因の一つである可能性が示唆された.
著者
石本 万寿広 佐藤 秀明 村岡 裕一 青木 由美 滝田 雅美 野口 忠久 福本 毅彦 望月 文昭 高橋 明彦 樋口 博也
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.311-318, 2006-11-25
参考文献数
34
被引用文献数
2 15

水田内におけるアカヒゲホソミドリカスミカメの発生消長を調査する手段として既に確立されているすくい取り法の代替手段として,合成性フェロモントラップの有効性を評価した.トラップは両面に粘着物質を塗布した粘着トラップを使用し,誘引源として合成性フェロモン0.01mgを含浸させたゴムキャップを粘着板上辺の中央部に設置した.粘着トラップは,イネの草冠高かそれよりやや低い位置に設置すると捕獲効率が高かった.そこで,2005年6月に,粘着トラップを新潟県上越市・長岡市,富山市の各水田2筆の中央部,イネの草冠高に設置し,誘殺される雄数を毎日調査した.また,約5日間隔でトラップの位置を中心に捕虫網ですくい取りを行い,成虫数の推移を調査した.すくい取り調査で,地域,品種を問わず6月中旬から7月上中旬にかけて成虫が発生し,7月中旬に減少し,その後,出穂期の早い品種で成虫の増加傾向が早くなり8月中旬までには減少するという成虫の発生消長が明らかとなった.水田内に設置した粘着トラップの誘殺雄数の推移は,概ねすくい取り調査での雄数の推移とよく似たパターンを示した.したがって,水田内で本種のモニタリング手段としてフェロモントラップが利用できる可能性を示唆している.