著者
石渡 小百合 西川 徹
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.135-144, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
51

近年,N-methyl-D-asparate(NMDA)型グルタミン酸受容体遮断薬が,統合失調症の陽性・陰性症状および認知機能障害と酷似した異常を誘発する現象に基づいて,本症にNMDA受容体の機能低下が関与すると考えられるようになり,『グルタミン酸伝達低下仮説』として広く受け入れられている。この低下を引き起こすメカニズムの1つとして,NMDA受容体のコ・アゴニストで,その機能促進作用をもち生理的活性化に不可欠な,内在性D-セリンの細胞外シグナルが減弱する可能性がある。また,D-セリンを含む,NMDA受容体機能促進物質が,陰性症状,認知機能障害のような難治性症状を改善することが期待され,実際に,臨床試験での効果も報告されている。そこで,本稿では,D-セリンの代謝・機能の分子細胞機構に関する主な知見を紹介し,統合失調症の病態との関連や新しい治療法開発における意義について概説する。
著者
石渡 小百合
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.823, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
4

自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は,社会性や言語コミュニケーションの障害,反復行動を特徴とする多表現型の疾患である.これまでの双性児研究や家族間一致率の研究等から,ASDの発症には遺伝的要因が関与していると考えられている.一方,末梢から供給される分岐鎖アミノ酸(BCAA)は脳の活動に重要である.Novarinoらは,ASD,知的障害そして癲癇患者の中に,BCAAの分解を抑制的に制御するbranched chain keto-acid dehydrogenase kinase(BCKDK)遺伝子の変異を持っている患者がいること,彼らの末梢中BCAA濃度は低下していることを明らかにした.本稿では,BCAAを脳内に輸送するトランスポーターの変異が,ある種のASD病態に関与し,さらにBCAAの投与がそうした病態を改善する可能性があることを示したTarlungeanuらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Bailey A. et al., Psychol. Med., 25, 63–77(1995).2) Zhao Z. et al., Cell, 163, 1064–1078(2015).3) Novarino G. et al., Science, 338, 394–397(2012).4) Tarlungeanu D. et al., Cell, 167, 1481–1494(2016).